食品ロスを生み出す「欠品ペナルティ」は必要? 商売の原点を大切にするスーパーの事例

スーパーまるまつの商品棚(2017年6月撮影)

8月6日は土用の丑の日。全国のスーパーで、うな重のパックが棚にたくさん積まれる。売り切れてしまわないよう、小売(スーパーなど)は多く仕入れるが、その際、メーカーが納品できないとどうなるか。「欠品ペナルティ(欠品粗利補償金)」として罰金を支払わなければならない。このため、多くのメーカーが商品を必要以上に多めに作らざるを得ず、食品ロスの一因となっている。

欠品ペナルティの仕組み

欠品ペナルティとは、食品メーカーが、小売店から発注を受けた数量分、納品できなくなったりした場合、小売店に対して支払う補償金のことだ。何らかの理由で製造が間に合わない、売れ行きが予想以上で在庫がなくなった場合などに適用される。本来、売上を上げられるはずだったのに失わせたことに対する「罰金」である。

小売店側は「棚が欠品だらけで、空いていると、見た目がよくないし、お客様は不便を感じてしまう」「買おうと思った商品がなければ、他の店に行ってしまう」と主張する。

欠品して商品棚を空けてしまうと、メーカーは、そのスペースを競合メーカーにとられる恐れもある。そこで、メーカーは、欠品を起こすリスクを考慮し、実際に必要な数より多めに製造することになる。これを、日本中の食品製造業が行うとどうなるか。商品は余るのが必至だ。過剰在庫を持つことになり、商品の回転が遅くなる。賞味期限がどんどん近づいてきて、最後には廃棄することになる。つまり「食品ロス」が発生する。

そんな中、欠品ペナルティをメーカーに科していないというスーパーを取材した。

創業当初から欠品ペナルティとは無縁の、地域シェアNo.1スーパー

福岡県柳川市にある株式会社スーパーまるまつ。1967年、駄菓子屋として創業し、しばらくしてスーパーに転換した。チェーン店はない。柳川地区には大きなショッピングモールもオープンし、同業他社が8社以上ひしめくが、地域シェア20%を誇り、ナンバーワンだ。社長の松岡尚志さんにお話をうかがった。

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まるまつは、創業当初から欠品ペナルティを取り入れていないという。スーパーと卸売業者が密にコミュニケーションをとることで欠品を減らし、それでも欠品が出てしまったら「致し方ない」と考えている。無理に欠品を防ごうとすると、過剰在庫を抱えてしまい、どんどん古くなってしまうからだ。

卸売業者の野崎淳氏(左)と社長の松岡尚志さん(右)はフラットな関係を築き、連絡を取り合っているという
卸売業者の野崎淳氏(左)と社長の松岡尚志さん(右)はフラットな関係を築き、連絡を取り合っているという

尚志さんは欠品防止ではなく、別のことに目を向けている。どうしたらお客さんが喜ぶか、だ。例えば、社長になった今も、朝4時起きで市場へ行く。「自分が“美味しそう”“食べたい”と思うものを仕入れるため」だと言う。「農産物は、旬のものが一番新鮮で、一番安くて、美味しい」。その代わり、シケのときなど、魚が市場に出ないとき、無理に買うことはしない。

シケなどの理由から、海で魚が獲れないと、市場には、数日間、同じものがずっと置かれているときがある。値段も高くなるが、大手小売の場合は、古かろうが高かろうが、商品を揃えることを優先して買っていくケースがあるという。尚志社長は「それではお客さんが可哀想。高いし古いし美味しくない」と語る。仕入れたい商品がなければ、棚が空いても構わない、というスタンスなのだ。

夕方、魚のケースは、ほぼ空っぽだった(2017年6月撮影)
夕方、魚のケースは、ほぼ空っぽだった(2017年6月撮影)

また、廃棄ロスを極力減らすことにも注力する。「捨てるくらいなら売ったほうがいい」がモットーだ。まるまつは、独自システムの「単品カレンダー」を取り入れている。たとえば商品ごとに、売れた数や、売ったときの単価、天気や最高気温などの情報を30年以上前からデータ管理している。これにより、ロス率は、他社の半分くらいだ。いわゆる日持ちのしない「日配品」は、他社だと4%以上のロスが出ているが、まるまつでは、2017年6月現在は、2.5~2.7%だという。

ロスをできる限り少なくし、莫大なコストがかかる紙のチラシをやめ、過剰在庫を持たないことで、その分、常連のお客さまであるポイントカード会員に、お手頃価格で、新鮮で、品質の良い美味しい食べ物を提供することができる。

社長の松岡尚志さん(2017年6月撮影)
社長の松岡尚志さん(2017年6月撮影)

尚志さんは、「父がよく言っていた。戦後、ものが食べられない時代があった。今がどれだけ贅沢か」と語る。常に商品がびっしりと棚に並んでいることは、当たり前ではない、という意識が根付いている。取材全体を通して感じたのは、「誰のために」がブレていない、ということだった。常に、自分がお客さまの立場に立って、仕入れ、売り、関係性を築いていた。

欠品を防ぐためのコストは半端ない

欠品ペナルティをやっていない、もう一つの企業にうかがった。京都市内にある八百一本館である。齋藤和幸店長が取材に応じてくれた。

八百一本館(京都市、2017年6月、筆者撮影)
八百一本館(京都市、2017年6月、筆者撮影)

八百一の特徴は、商品の種類が多く、他では取り扱っていないような珍しい商品も置いているということだ。棚を見ていると楽しくなり、長く店内にいても飽きない。言ってみれば、ハレとケの「ハレ」のスーパーと言えるだろうか。

なぜ、八百一は、珍しい種類の食品がたくさん置かれているのだろうか。多くのスーパーは、一種類の商品を、12個1ケースや24個1ケースといった「ケース単位」で発注している。だから、商品棚を見ると、同じ商品がたくさん並ぶ。売れ筋は特に多く置く。

八百一本館にテナントとして入っている株式会社大近(本社:大阪市福島区)は、商品を、最低1個からの「ピース単位」で発注している。1個、2個という単位で発注できるので、同じ商品が大量に並ぶということが少ない。過剰にバックヤード(スーパー裏の倉庫)に保管したり、棚にぎっしり並べたりしておかないのだ。発注単位が多くなればなるほど、余り(=食品ロス)が発生するリスクが高まるが、一つの種類が売り切れるまでの周期が短くなれば、食品ロスが少なくなる。

八百一本館の商品棚(2017年6月、筆者撮影)
八百一本館の商品棚(2017年6月、筆者撮影)

実際に商品棚を見せて頂くと、値札のところに「12M(1)」などと書いてある。これは、賞味期限が12ヶ月で、1個単位で発注できる、という意味だそうだ。値札に書くのは店側がスムーズに発注するためであろう。八百一は、確かに1個・2個単位で発注しているということを、この値札から確認することができた。

10M(2)とあるのは賞味期限10ヶ月、2個単位で発注の意味(2017年6月、筆者撮影)
10M(2)とあるのは賞味期限10ヶ月、2個単位で発注の意味(2017年6月、筆者撮影)

ピース単位で発注できると、お客にとって何がいいのか?在庫を多めに抱え、発注頻度を減らせば、店にとってはラクかもしれないが、お客にとっては古いものを買わされる可能性もある。在庫を少なくし、発注をこまめにするのは、店の仕事は増えるが、お客にとっては、より新しいものが手に入ることになるのだ。

また、ディスプレイにもこだわっている。野菜のディスプレイは、什器(じゅうき:店内で使う器材全般を指す)の高さを、一般的な高さより高めにしている。いわく「ダイヤモンド(大切なもの)は低いところには置かない」。

八百一本館のディスプレイ棚は美しさにこだわっている(2017年5月、筆者撮影)
八百一本館のディスプレイ棚は美しさにこだわっている(2017年5月、筆者撮影)

「八百一本館は見切り品ですら、美しいですね」とたずねると、「他の企業は、見切るのが遅いのではないか。うちは、見切り品でも綺麗にする」と言う。確かに、ごみ箱のような“見切り品”だと買う気もしないが、ディスプレイを美しくし、しかも安いので、見切り品であっても手が伸びるという。

お店の入口には生け花がある。週に2回は変えるそうだ。お客さまが気持ちよく買い物できる空間を保つこと、一つ一つの商品を美しく魅せ、大切に売ることこそが、おもてなしになるのだと感じられる。

齋藤店長は欠品ペナルティについて「(商品)棚を埋めるのが、そのためのコストと見合うのか?」という疑問を呈した。大手スーパーは、商品を大量に仕入れて、欠品が出ないよう在庫も多く持つ。だが齋藤店長によると、「欠品を防ぐためのコストというのは半端ない」という。

品切れのためお詫びの札を並べている(2017年6月、筆者撮影)
品切れのためお詫びの札を並べている(2017年6月、筆者撮影)

「たとえば、朝、開店したときには100%欠品がありません、という状況にしたいと考えると、店員は、朝6時半くらいから出勤して、欠品を防止しなければならない。一方で、そんなことをしておれば“ブラック企業”と言われる」。欠品なしの状態を保つのは、人件費もばかにならず、従業員にとっても不幸だというのだ。

大手はどう考える

2つの事例は、いずれも小規模スーパーだ。大手は欠品ペナルティをどう考えているのだろうか。

大手スーパーのある社員に取材をしたところ、「欠品ペナルティを無くすのは厳しい」とのことだった。「欠品を許してしまうと、蟻の一穴のように、そこからすべてが崩れる恐れがある。補償金がもらえるのは既得権益なので、何らか外部の力が及ばない限り、今の状態は変わらない」と言う。

大手の場合、欠品がたった一つの商品であっても、全国の店舗で販売することになっていた場合、全国規模で販売機会を失うことになる。小規模店舗と比べて影響が大きいのだ。また、効率化も重視しており、「少しずつ何度も発注する」といった「非効率」で「無駄」な作業は極力排除したい。売上金額を大きくしたい反面、社員はマネジメント(経営管理)に関わるので、店舗の日常業務はパートなどの非正規雇用に頼っている。全国人員の70%以上をパートが占める企業もある。マニュアルは簡潔にしたい。最低限の労力で最大限の売上を上げたいと考えるので、八百一のように、こまめに適量を発注するのではなく、一気に大量に発注して在庫を確保しようと考える。

このため、大手スーパーでは、なかなか欠品ペナルティを無くすことはできないのだ。欠品ペナルティ自体は公正取引委員会も取材に対し、「明らかに不当といえない場合は、優越的地位の濫用とまでは言えない」としている。

誰のための“欠品ペナルティ”なのか

まるまつと八百一、どちらのスーパーにも、欠品している棚が散見される。それなのに、お客はスーパーの常連客となり、喜んで商品を買っていく。共通するのは、いろんな工夫をしてお客に来てもらおうとしている点だ。「自分がお客だったら」という視点や考え方が、表面的なものではなく、心の底から浸透していると感じられた。それこそが商売の原点ではないだろうか。

お客さまでにぎわうスーパーまるまつの店内(2017年6月撮影)
お客さまでにぎわうスーパーまるまつの店内(2017年6月撮影)

「きめ細やかな対応が難しい」と大手スーパーの本部や店舗が感じる理由もわかる。ただ、本部が要求する業務や方針について、店舗はすべて鵜呑みにするのではなく、その店独自の動きをすることもできるはずだ。理不尽な商慣習もたくさんある。おかしいと思うことは自分のまわりだけでも正すという気概を持ってほしい。大手スーパーには、「欠品は100%悪」という考えを見直していただきたい。

また、消費者にも、「今日棚にないこと」を苦情として言う必要があるのか、考えてみることをおすすめしたい。欠品を防ぐため、メーカーが多めに商品を作って余った場合、それを処分するコストは、結局、商品の価格に上乗せされるのだ。つまり、間接的には消費者である私たちが払っている。私たちが小売に望むものを変えれば、この商慣習を変えることにつながるだろう。

スーパーまるまつ撮影:坂村祐介

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