「Go To トラベル」に続いて「Go To イート」もダメそうな5つの理由
「Go To キャンペーン」が始動
新型コロナウイルスが猛威をふるう中で、国を挙げて「Go To キャンペーン」が進められています。
第1弾となる「Go To トラベル(Travel)」は、国土交通省観光庁が主導して2020年7月22日から実施されました。
再びコロナの感染が全国で拡大している状況にあって、開始時期を遅らせるどころか、むしろ早めたことによって、観光業や利用者の間で様々な混乱が生じ、大きな疑問が湧き上がったのは記憶に新しいところです。
第2弾となる施策は、農林水産省が中心となって飲食店を支援する「Go To イート(Eat)」。
7月21日から8月7日にかけて公募を行い、オンライン飲食予約サイト事業者、食事券発行事業者、実績確認事業者を決定します。飲食店は国が決定した事業者を通じて「Go To イート」に参加するという仕組みです。
当初は8月下旬以降、準備ができた地域から開始するとなっていましたが、9月以降からに遅れることが濃厚となっています。
「Go To イート」の詳細
「Go To イート」の内容は次の通りです。
キャンペーンの目的は「感染予防対策に取り組みながら頑張っている飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援する」こと。参加できる飲食店は「業界ガイドラインに基づき、感染予防対策に取り組んでいることを条件とし、その取組内容を掲示」すると定められています。
具体的な施策は食事券とオンライン飲食予約の2つ。予算は共に767億円となっています。
食事券は、25%が上乗せされたチケットを購入して、登録された飲食店で使えるというもの。1回の購入で2万円が上限となっており、おつりは出ません。
オンライン飲食予約は、オンライン飲食予約サイトを通じて予約し、来店した場合に、次回以降に使用できるポイントが付与される施策。ランチでは500円、ディナーでは1000円が付与され、1回あたりに付与できるのは最大10人分までとなっています。
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販売や付与は2021年1月末まで、利用は3月末までと、期間はほぼ同じ。
飲食店に対して支援を行うのはよいことですが、施策内容を鑑みると、いくつか気になるところがあるのです。
「感染予防対策」が確認できない
「Go To イート」に参加できる飲食店は業界ガイドラインに基づき、感染予防対策に取り組んでいることを条件としています。
このガイドラインは、5月4日に専門家会議で提言された「新しい生活様式」を踏まえた上で、一般社団法人 日本フードサービス協会と一般社団法人 全国生活衛生同業組合中央会が5月14日にまとめたものです。
飲食店が留意するべきことに関して細かく述べられているので、このガイドラインを遵守している飲食店であれば、消費者は安心して訪れることができることでしょう。
総務省統計局の調べでは、2016年度における飲食店数は「バー,キャバレー,ナイトクラブ」を除いて、日本全国で約38.8万店。これだけ多くの飲食店があれば「新しい生活様式」にどれだけ対応しているのかも全く異なります。
実際にみてみると、レイアウトを変更したり、席数を減らしたり、飛沫を防止したりと、こまやかに対応している飲食店がある一方で、席数は全く減らさず、飛沫への関心も薄い飲食店も少なくありません。
それだけに、しっかりと努力している飲食店が支援を受けられるようにするのは当然のことです。
ただ、「Go To イート」では、感染予防対策の内容を掲示することとしていますが、どのように確認するのか疑問がもたれます。
農林水産省と契約する事業者もまだ決まっていない状況なので詳しいことはわかりませんが、実際に確認することは非常に難しいでしょう。
面倒な方法を課して飲食店を困らせたりするようではいけませんが、飲食店によって「新しい生活様式」の対応が全く異なっていることについて、私は以前から不公平があると感じていました。
「Go To イート」を円滑に進めるためにも、しっかりと精査できないのであれば、いっそのことこの条件は排除した方がスッキリとするのではないでしょうか。
その一方で国や自治体は、曖昧な強制力となっている「新しい生活様式」について、飲食店に対してどれくらいの義務を課すべきか、もしくは、課すべきでないのかを定めて周知するべきであると考えています。
給付金の予算が少ない
食事券、オンライン飲食予約は共に767億円の予算が確保されています。
飲食店に一人で訪れる可能性のある年齢を仮に16歳以上と考えてみると、日本で2020年に16歳以上となるのは約1億1100万人。
1人あたりで考えてみれば、食事券とオンライン飲食予約がそれぞれ約691円となります。これだけでどれだけ多くの外食が喚起されるでしょうか。
参考に、同じような施策を行っているイギリスをみてみましょう。飲食店の支援予算は5億ポンドで約690億円。8月の月曜日から水曜日に限り、レストランなどで飲食した金額の半分を国が補助しています。アルコールは対象外となっており、補助金額の上限は1人あたり10ポンドで約1300円。
2019年におけるイギリスの人口は約6665万なので、1人あたり約1035円です。食事券とオンライン飲食予約を合わせれば日本はイギリスよりも多いですが、施策として近い食事券だけで比べてみるとイギリスは日本の約1.5倍もの予算額となっています。
そうであれば日本の支援予算も少なくないように思えますが、実感としては全く異なるでしょう。
なぜならば、たとえば首都を比べてみると、ロンドンのレストランは約2万店であるのに対し、東京23区のレストランは約10万店もあるからです。
飲食店数が全く異なるので、同じような予算でも救える飲食店の数が違います。さらには、イギリスでは飲食店などに課されている日本の消費税にあたる付加価値税が20%から5%に減税されているので、日本よりも外食に訪れる雰囲気が醸成されやすいのではないでしょうか。
「Go To イート」の予算総額は2003億円となっており、オンライン飲食予約サイト事業者、食事券発行事業者、実績確認事業者の委託費は総額で469億円。
応募要項を確認すると知見・専門性・実績をもっている事業者に限定されており、この短い期日で対応できることから、既に仕組みをもっていることが想定されます。
そうであれば「Go To イート」に対応するだけなので、何百億円もの予算が本当に必要なのでしょうか。ひとつでも多くの飲食店を救うため、委託費を少しでも削減して給付金に回してもらいたいと考えています。
食事券が手厚くなっていない
「Go To イート」では食事券とオンライン飲食予約という2つの施策が企画されています。
食事券は割引ではなくプレミアム付加となっており、売上を増やす方向となっているのは評価できるところでしょう。テイクアウトやデリバリーに売上の一部を頼っている飲食店は少なくないので、テイクアウトやデリバリーでも使用できるようになっているのも好ましいところです。
ただ、食事券であれば飲食店は無条件に利益を得られますが、オンライン飲食予約では飲食店は予約手数料を支払わなければならないので利益が減ってしまいます。大手のレストラン予約サイトでいえば、ランチであれば10円から100円、ディナーであれば50円から200円くらいの手数料が必要。
3月と4月の書き入れ時の売上を逸失し、家賃や人件費の固定費で苦しんでいる飲食店にとっては僅かでも利益を上げたいところです。
そうであれば、より売上を伸ばすことができ、利益を確保できる食事券の方に、より多くの予算をかけた方がよかったのではないでしょうか。
初回に割引されない
オンライン飲食予約では、ポイントが付与され、次の来店時に使用することができます。しかし、この施策では飲食店を十分に助けることにはならないのではないでしょうか。
なぜならば、外食する雰囲気が落ち込んでいる状況にあっては、消費者に飲食店へ訪れてもらうことが重要なステップとなるからです。つまり、2回目以降の来店よりも、まず1回目の来店をどれだけ喚起できるかが重要。
2回目以降ではなく、1回目の来店を促すような施策は何か思い浮かばなかったのでしょうか。
今回の施策は、あくまでもコロナ禍の飲食店を救うのが目的であり、オンライン予約を促進させたり、ポイントを普及させたり、キャッシュレスを推し進めたりすることが目的ではありません。
そうであれば、最初の来店時にこそ、割引にする施策にしなければならないでしょう。
テイクアウトやデリバリーに対応していない
オンライン飲食予約ではテイクアウトやデリバリーに対応していないのも解せないところです。
なぜならば、多くのレストラン予約サイトでは、テイクアウトやデリバリーを店内飲食の予約と同じシステムで提供しているからです。
私は、テイクアウトやデリバリーでは根本的に飲食店を救うことができないので、店内飲食を勧めていくべきであると考えています。
しかし、飲食店を救うための「Go To イート」では、とにかく消費者に飲食店でお金を使ってもらうことが大切です。そうであれば、店内飲食はもちろん、テイクアウトやデリバリーにも対応し、少しでも予算を消費できるようにするべきではないでしょうか。
徹底的に飲食店ファーストであってほしい
ここまで「Go To イート」に関して、いくつかの懸念を述べてきました。
しかし実のところ、3回行われた事業者へのヒアリングでも、同じようなことが既に述べられており、議事録にも残っています。
現在は、ヒアリングが行われた6月と状況は異なるものの、飲食店のための施策であり、飲食店が最も大切であることには変わりはないでしょう。
新型コロナウイルスの感染が拡大し、飲食店が甚大な被害を受けてからずっと感じていましたが、国は現場で叫ばれている飲食店の声をもっと聞くべきです。少なくとも、飲食店の現状を知っている識者から現状をヒアリングする必要があったのではないでしょうか。
希代の美食家ブリア=サヴァランが著書「アフォリスム」で述べた「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるかをいいあててみせよう」という言葉はあまりにも有名ですが、飲食店と話をすれば、どのような施策が必要であるか、簡単にわかることです。
飲食店を救うための施策であれば、国には徹底的に飲食店ファーストを貫いてもらいたいと考えています。