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なぜ国は飲食店を苦しめるのか? 「社交飲食店」撤回のドタバタ劇への激しい不信感

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

東京で新規感染者数が過去最多に

2020年7月16日、東京都で確認された新型コロナウイルスの新規感染者数は過去最多の280人以上となりました。7月13日からは200人を下回ったものの、再び跳ね上がったので、驚いた人も多いのではないかと思います。

多くの国民や事業者が不安に感じていますが、政府は22日から予定されている経済政策「Go To キャンペーン」の実施は変わりないと明言。

1人1泊で2万円を上限とし、日帰りは1万円を上限、さらには連泊や利用回数に制限はないと、本来であれば観光業界や旅行好きにとっては嬉しい施策となるはずでした。

しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大している中では、東京から他の地域に感染を広げることになるのではないかと、懸念が広がっています。

「社交飲食店」という表現

新型コロナウイルスに対する施策が憂慮されている中で、7月14日に新型コロナウイルス感染症対策を検討する厚生労働省の「アドバイザリーボード」が開催されましたが、ここで非常に気になることがありました。

それは、ホストクラブやキャバクラといった飲食店を、「夜の街」ではなく「社交飲食店」と表現したことです。

しかし、翌日になって菅義偉官房長官は、わかりにくいので「社交飲食店」ではなく「接待を伴う飲食店」と表現することで調整していると述べました。

飲食店を追い詰めかねない

「社交飲食店」という表現は国民に誤解を与え、飲食店をより困窮に陥らせます。加えて、このようなドタバタ劇が起きること自体、飲食店のことを本当によく考えているのかどうか、疑問に思うところです。

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新型コロナウイルスの渦中にあって、特に心配しているのは、ただでさえ経営が厳しくなっている飲食店に対する風評被害。

すぐに撤回された「社交飲食店」や以前より使用されている「接待を伴う飲食店」という表現によって、飲食店が追い詰められないかと危惧しています。

「社交飲食店」とは何か

「社交飲食店」とは何でしょうか。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、いわゆる風営法の接待飲食等営業で定められた飲食店です。

接待飲食等営業

  • 1号営業 料理店、社交飲食店

キャバレー、待合、料理店、カフェーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食させる営業

  • 2号営業 低照度飲食店

喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、客席における照度を10ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業を徐く。)

  • 3号営業 区画席飲食店

喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食させる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが5平方メートル以下である客席を設けて営むもの

出典:風俗営業等業種一覧(警視庁)

接待飲食等営業は1号営業から3号営業に分かれており、該当する飲食店は公安委員会に許可を得たり、届出を提出したりしなければなりません。

そして1号営業である「料理店、社交飲食店」が「社交飲食店」のことであり、国や自治体がよく述べている「接待を伴う飲食店」のことでもあります。

誤解を与える表現

「社交飲食店」は風営法で現れますが、これをそのまま使用するのはよいことではありません。

なぜならば、社交とは人と人とのつきあいを意味する言葉であり、非常に範囲が広いからです。

人と人とのつきあい。世間での交際。「社交のうまい人」「社交場」

出典:社交(しゃこう)の意味 - goo国語辞書

風営法の飲食店に関係している人であれば、どういった飲食店が「社交飲食店」であるのかを明確に理解していることでしょう。しかし、ほとんどの人にとっては「社交飲食店」といわれても、どういった飲食店であるかわかりません。

社交という響きが影響して楽しく食べ飲みできる飲食店、もしくは、社交場という非日常的な舞台から高級な飲食店を連想する人が多いのではないでしょうか。

本来であれば、「社交飲食店」はホストクラブやキャバクラといった飲食店を指しています。料理やドリンクを主とする飲食店ではなく、店のスタッフによる接待を主とする飲食店ですが、このように認識されない恐れがあるのです。

したがって、「社交飲食店」ではなく「接待を伴う飲食店」に戻すように調整しているとなったのは、まだよかったと思います。

具体的な業種を示すことが必要

ただ、本当に飲食店のことを考えているのであれば、「接待を伴う飲食店」という表現も普通の飲食店と誤解される恐れがあるので、決して好ましくありません。

国や自治体から早い段階に会食を自粛するように促されたので、飲食店は3月と4月の書き入れ時を逃しました。家賃や人件費といった固定費が重くのしかかり、消費者の外食意欲も復調しないので、閉店も相次いでいます。

このような状況では、飲食店に対する風評被害が生じないよう、十分に配慮しなければならないはずです。

6月3日に菅義偉官房長官が「接待を伴う飲食店」は誤解されるおそれがあるとして、キャバレーやナイトクラブといった具体的な業種を示しました。

そう述べていたにもかかわらず、いまだに同じような言葉を使い続けています。どうして具体的な業種を示さず、「社交飲食店」と表現したり、「接待を伴う飲食店」に戻したりするのでしょうか。

言葉が与える影響力は大きいので、「社交飲食店」や「接待を伴う飲食店」という表現は一切やめて、ホストクラブやキャバクラと表現するべきです。

これは普通の飲食店のためだけではなく、国民のためにもなります。なぜならば、具体的にどういった飲食店が新型コロナウイルス感染のリスクが高いかを正確に理解できるからです。

飲食店に対する配慮が不足

新型コロナウイルスに関連して、陳情を訴えたことのある飲食店の関係者からは、政治家は飲食店の状況を全くわかっていない、肌身に感じていない、自分ごととして捉えられていない、という嘆きをよく聞きます。

冒頭に挙げた「Go To キャンペーン」の強引とも思えるほどの猛進、さらには、ホストクラブやキャバクラと明言したがらない不可解さなど、国に対する不信感は募るばかりです。

飲食店に対して、支援施策の立案や実施が遅いことに加えて、いつまでたっても配慮すらできないことは、極めて由々しき事態であると考えています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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