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コロナ禍における飲食店のテイクアウトやデリバリー礼賛に対する大きな違和感の理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:Paylessimages/イメージマート)

飲食店の経営にはテイクアウトが必要

2020年7月30日に東京都の小池百合子都知事が、酒類を飲食店とカラオケ店に対して、8月3日から31日まで営業時間を22時までにするようにと要請しました。協力に応じた事業者に対しては20万円を支給すると述べています。

緊急事態宣言の時期に、飲食店は非常に厳しい状況に立たされました。しかしそれは、緊急事態宣言が解除されてからも同様です。

大手飲食店予約サービス「TableCheck」によれば、営業自粛中に新しく始めたサービスのトップが37.9%のテイクアウトであり、その次が17.4%のデリバリー、5.4%のEC(通販)と続きます。営業自粛が解除された後も、7割近くが新サービスを継続していくということです。

この数字からもわかるのは、飲食店は店内飲食だけではやっていくことができず、テイクアウトを併用していかなければならないということです。

テイクアウトは救世主ではない

実際に有名無名を問わず、ミシュランガイドで星を獲得しているしていないに関係なく、多くの飲食店がテイクアウトやデリバリーを行っています。

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これまでにも、コロナ禍における飲食店の状況について記事を書いてきましたが、やはりまだその苦しい現状が伝わっていないように思います。

なぜならば、いまだにテイクアウトやデリバリーといった手段が何よりの特効薬であり、飲食店の救世主のように扱われているからです。

実際にテイクアウトやデリバリーを併用していかなければ経営していけませんが、それさえ行っていれば飲食店は大丈夫というように報道されています。

しかし、この認識は現状とはかなり変わっており、そのことを知ってもらわなければなりません。

売上をカバーできない

大前提として、いくらテイクアウトやデリバリーが好調であったとしても、それだけでは飲食店を救うことができません。

なぜならば、飲食店はテイクアウトやデリバリー専門店として設計されておらず、これで利益を上げて経営していくことが難しいからです。

飲食店は、その時間にその場所にいてこその価値を提供するために、全てが設計されています。大きな空間を有し、店のコンセプトや料理のイメージに合わせて内装が施されており、最大席数となった時でもオペレーションが回るだけの調理スタッフやサービススタッフを雇っています。

家賃や人件費といった固定費は、あくまでも店内で食べ飲みした時に利益がでるように計算されているのです。同じ家賃と人件費で、店内飲食よりもずっと単価の低いテイクアウトやデリバリーを行っていても、あまり利益がでるようにはなっていません。

コロナ禍の特例で、酒類もテイクアウトが期限付きで可能となっています。しかし、解放的な気分となり、ペアリングもできる店内飲食より、テイクアウトの方がアルコールの売上を伸ばすことは難しいでしょう。

飲食店はただでさえ営業利益率が低く、10%もあれば優良です。テイクアウトやデリバリーでは容器や包装も必要になり、デリバリーではデリバリーを運営するプラットフォームに対して35%程度の手数料が発生します。

テイクアウトやデリバリーは、あくまでも減ってしまった売上を少しでも埋めるための補完的かつ一時的な役割しか担っていません。ましてや、激安価格で販売している飲食店を成功モデルとして取り上げることは全く反対です。

テイクアウトやデリバリーが好調であれば、飲食店がこれから先も経営していけるといったニュアンスで報道することは、多くの人に誤った認識を植え付けるのではないかと危惧しています。

手間がかかる

テイクアウトやデリバリーを並行して行っても、飲食店はこれまでの売上をカバーできないだけではありません。

飲食店は、持ち帰りや配達を主とする飲食サービスではないので、通常の店内飲食に加えて、テイクアウトやデリバリーに対応することは、余計に手間がかかることを意味しているのです。

店内で食べられるのであれば、料理の状態を把握できますが、テイクアウトやデリバリーでは、どういった状況や状態で食べられるのかわかりません。

したがって、これまで以上に、食中毒に気をつける必要があります。菌が生き残らないようにしっかりと火を通したり、菌が増えないように温度を管理したりと、店内飲食よりもずっと神経を使うことでしょう。

店内飲食のメニューとテイクアウトやデリバリーのメニューは全く同じではありません。別のメニューともなれば、つくらなければならないメニュー数が増えるので余計に負担が増します。たとえ同じメニューであったとしても、単価の高さや皿と容器の違いによって、つくり分ける必要があるでしょう。

テイクアウトやデリバリーを行うことによって、これまで以上に手間がかかり、スタッフに負担がかかることは認識されなければなりません。

ブランドイメージが低下する

飲食店の価値は、そこで食べられる料理の味にだけ内包されているわけではありません。料理の味が重要であることは当然のことながら、見た目や提供方法を含めたプレゼンテーション、テーブルウェアとのバランス、スタッフの説明も非常に大切です。さらには空間の雰囲気やホスピタリティも重要な部分を占めています。

つまり、テイクアウトやデリバリーで同じ料理を自宅で食べることができ、同じ味を堪能できたとしても、その体験は全く違います。

いわゆる店内飲食で得られるコト消費と、テイクアウトやデリバリーで得られるモノ消費は、全く価値が異なるのです。

そこだけでしか得られない貴重な体験を得るために、それなりのお金を支払って客は飲食店に訪れています。それなのに、気軽にテイクアウトやデリバリーができるということであれば、その価値は少なからず毀損されることでしょう。

どの料理人も、テイクアウトやデリバリーの弁当を食べてもらいたいから、飲食店をオープンしたわけではありません。自分がオープンした飲食店の店内で、自身がつくったものを、客がおいしそうに食べ、嬉しそうに、幸せそうに過ごす様子をみるのが、料理人冥利というもの。

もちろん、手を抜いているわけではなく、テイクアウトやデリバリーでもおいしいものを届けようとはしています。しかし、正直なところ、飲食店の料理人にとって、テイクアウトやデリバリーは、店内飲食に比べるとモチベーションを維持していくのは簡単なことではないでしょう。

テイクアウトやデリバリーは喜んでやっているのではないことも留意しなければなりません。

競争が厳しくなっている

飲食店は、先行きの不透明なコロナ禍のため、国や自治体の支援が不足しているため、何とか現状を乗り切れるようにするためにテイクアウトやデリバリーを行っています。

コロナ前から、予約で数カ月先が埋まっていた飲食店であれば、客足も鈍っていないので店内飲食だけでやっていけますが、そういった飲食店はほんの一握りです。

そして、多くの飲食店がテイクアウトやデリバリーを行っているために、競争過多となっています。店内飲食する客が少なくなっているのでテイクアウトやデリバリーを始めたものの、周りの飲食店も同様にテイクアウトやデリバリーを始めているからです。どこもかしこもテイクアウトやデリバリーを行っている中で選んでもらうのは、簡単ではありません。

しかも、これまではコンペティターではなかった弁当専門店やコンビニエンスストア、惣菜店などが競争相手となるのです。

ただでさえ、テイクアウトやデリバリーは店内飲食に比べると客単価は下がっています。その上、競争相手も多いとなれば、非常に厳しい状況であるといってよいでしょう。

店内飲食も応援するべき

メディアがテイクアウトやデリバリーを行っている飲食店を紹介することは、基本的によいことです。

しかし、テイクアウトやデリバリーはあくまでも緊急時の暫定的な手段。テイクアウトやデリバリーだけであれば先細りしていくので、店内飲食もしっかりと応援していくべきではないでしょうか。

そもそも、安倍晋三首相や西村経済再生担当大臣は緊急事態宣言を再び出す状況にはないと述べています。

国地や自治体による補償も不足しているので、コロナ禍において飲食店の倒産が目立っています。

8月3日に発表された帝国データバンクのレポートによれば、新型コロナウイルスの影響で倒産した企業は全国で406事業所であり、業種別では56事業所の飲食店が最多であったということです。

飲食店を助けるためにも、メディアは店内飲食を宣伝するべきはないでしょうか。もちろん、「新しい生活様式」にしっかりと対応した飲食店を優先的に紹介することが大前提です。

国や自治体は、テイクアウトやデリバリーをしていれば大丈夫だろうという他人事のような考え方を捨て、飲食店の現場に赴いて経営状況をもっとよく知らなければなりません。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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