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女優の夢破れ、やさぐれるアラサーのヒロインを等身大で。メイクは化粧を落とさず寝て二日酔いで起きた風?

水上賢治映画ライター
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

「偶然にも最悪な少年」や「ハードロマンチッカー」などで知られるグ スーヨン監督による本作「幽霊はわがままな夢を見る」は、その成立の仕方が幸せではないかと思える映画だ。

 本企画の発起人といっていいのは俳優の加藤雅也。下関出身のグ スーヨン監督と長い付き合いがありながら、彼は一緒に組むタイミングがなかった。

 常々「なにか一緒にやりたい」と思っていたところ、下関出身の女優・深町友里恵と短編映画「恋文」で共演。

 そこで三人で会ったことをきっかけに話が一気に進み、下関発のオリジナルムービー「幽霊はわがままな夢を見る」は誕生した。

 作品は、女優になる夢破れ、自らの才能にも絶望して故郷・下関に戻ってきたヒロイン・ユリが、父の経営するラジオ局を手伝いながら自身を見つめ直す、ひとつの成長物語。

 ただ、そこはグ スーヨン監督らしく、単にポジティブでは終わらない、人生のほろ苦さとちょっとしたゴーストストーリーも交わったユニークな一作になっている。

 そして、そこで強烈なインパクトを残すのが、ユリを演じた深町友里恵だ。

 夢が断たれ、もはややぶれかぶれで悪態はつくわ態度は悪いわという、ある種のダーク・ヒロインをただならぬやさぐれ感を出して演じ切っている。

 地元・下関での撮影の舞台裏から、加藤雅也とグ スーヨン監督との出会い、この作品に対する思いまで、彼女に訊く。全六回/第六回

「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

自分は一度終わった人間と思っているということは、実は次に向かっている

 前回(第五回はこちら)も演じたユリについていろいろと語ってくれた深町。

 では、ユリは、ここまで語ってきた通り、かなり荒んでいて態度はかなり横柄。特に父親にはかなりあたりが強い。傍から見ると、強気で圧倒されるところがある。

 だが一方で、彼女は人生に絶望してどこかで「死」を意識しているところがある。これはどう受けとめていたのだろうか?

「そうですね。

 以前、彼女には精神的に強いと言いましたけど、これまでの人生に絶望もしている。周囲から見ると敗者でもある。

 その点については心が折れているところがある。それは心が弱っているともいえる。

 このユリの強さと弱さを彼女の中にどのように同居させて整合性をもたせるかは、かなり難しかったです。その点についてはけっこう悩みましたね。

 ただ、ユリの置かれた状況や性格といったことを合わせて考えてみると、本気で自分なんていなくなってしまえばいいとは思っていないんじゃないかと。

 とにかくいまはすべてがうまくいっていない。この先、好転するかもわからない。そうなったとき、ふと『生きている意味あるのかな』という考えが頭をよぎる。

 自分の無力を感じたときに、誰しもそのような思考になってしまうときがありますよね。それぐらいの『死』への意識のような気がしたんです。

 あと、ユリの中に自分は一度ダメになった人間という意味での死んだ人間みたいな感覚はあったんじゃないかと思いました。

 自分は一度終わった人間と思っているということは、実は次に向かっている。そこからどっこい自分は生きていて次に向かうんだとなっているのではないかと思ったんです。ユリの性格からすると。

 だから、そこまで深刻に考える必要はないのかなと思いました」

「幽霊はわがままな夢を見る」
「幽霊はわがままな夢を見る」

メイクも『酔いつぶれて、メイクを落とさずに寝て、

二日酔いで翌日起きた感じで』と決まったんです

 ここまで演じたユリについていろいろと語ってくれた深町。

 それにしても、いまこう本人を前にしても、ユリと深町が似ても似つかないというか、この人がほんとうに演じていたのか?というぐらいつながらない。

 まったく別人にしか見えないのだが……。

「まあ、ほんとうにひどい顔をしてますよね。自分が見てもそう思います。

 ただ、そこは監督とヘアメイクさんのマジックもあったと思います。

 事前にいろいろと監督と相談して髪型はあんな感じでチリチリぼさぼさと決まって。メイクも『酔いつぶれて、メイクを落とさずに寝て、

二日酔いで翌日起きた感じで』と決まったんですよ(笑)。

 その見た目に助けられているところがあると思います。

 それからグ スーヨン監督からの指示もけっこうあって。

 たとえば顎をひかせた形にして上を向いてという指示があって、そうするとちょっとふてぶてしく見える。

 歩き方と姿勢に関しても、かなり行儀の悪い感じという指示があって、姿勢良くしているところがほぼないんですよね。常に猫背気味で。

 あと、常に口は半開きでという指示もありました。だから、基本的にユリはだいたいポカンとして口が開いている。

 やる気のなさを表すために、顔の筋肉をなるべく使わないようにとも言われました。

 顔の筋肉を使うと表情が豊かになって、生き生きとした感じになってしまうので、そう言われましたね。

 それはけっこう徹底して言われましたね。少しでも生き生きとした感じになると、『そのキラキラした眼差しいらない力抜いて』と指示が飛んでくる感じでした。

 ですから、別人に見えるのは監督の演出の賜物だと思います」

「幽霊はわがままな夢を見る」
「幽霊はわがままな夢を見る」

体重はまったく増やしていないです!

 体重もかなり増やしたのではないかと思うのだが?

「いや、それがまったく増やしていなくて、いまと変わらないんですよ。

 みなさんによく言われるんです。『5、6キロぐらい体重を増やしたんですか?』と。

 でも、まったく増やしていないんです

 いまお話したようなことを徹底していったら、そういう風に見えるということなんです。

 グ スーヨン監督マジックだと思います」

父親役の加藤雅也さんに助けられました

 それにしても、あのやさぐれ感はどうやって出したのだろうか?なかなか出せないような気がするが。

「それは父親役の加藤雅也さんのおかげだと思います。

 ユリが基本的に怒りをぶつけるのは父親なんですけど、父役の加藤さんがそうなるよう誘導してくれる感じで。

 そこはさすがキャリアのある加藤さんだなと思うんですけど、ユリとしてむきあったときにちょっと言葉が悪いですけど、ちょっとイラつかせたり、なんだこいつと思わせたりという喋り方や顔つきをしてくるんですよ。加藤さんが(笑)。

 それから、ふつうならポンポンと進む会話にしないんです。加藤さんが会話のテンポや間をわざとずらしてくるから、かみ合わない。ユリとしては自分の間にならないから気持ち悪い。

 だから、こちらとしてはもう自然にイライラしてくる。娘をイライラさせる典型的なお父さんとして加藤さんが向き合ってくれた。

 それが、あのユリのやさぐれっぷりにつながっていると思います」

自分の名刺代わりになる作品になったと思っています

 では、演じ切っていまどういう思いがあるだろうか?

「大きな経験をさせていただいたと思います。

 この作品の撮影に入る前に、主演舞台を経験したのですが、そのときも大きなプレッシャーを感じながらの日々でした。

 ただ、『幽霊はわがままな夢を見る』は、それ以上がプレッシャーがあったところがありました。

 加藤さんをはじめ、ほんとうにキャリアのある大先輩の役者さんが揃っていたので、その中で、自分がきちんと主演の責務をまっとうできるのか不安でした。

 今も責任を自分がまっとうできたかはちょっと分からないです……。けれど、主演としての作品の向き合い方、役への取り組みなど自分にとってはすごく勉強になって学ぶことばかりでかけがえのない時間になりました。

 これから俳優の仕事をしていく上で、確実につながっていく大きな経験ができたと思っています。

 自分の名刺代わりになる作品になったと思っています」

(※本編インタビュー終了。次回から作品の舞台裏やこれまでのキャリアについて訊いた番外編を続けます)

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第一回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第二回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第三回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第四回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第五回】

「幽霊はわがままな夢を見る」より
「幽霊はわがままな夢を見る」より

「幽霊はわがままな夢を見る」

監督:グ スーヨン

脚本:グ スーヨン、具 光然

出演:深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花、西尾聖玄、山崎静代(南海キャンディーズ)、佐野史郎ほか

公式サイト https://www.yureiwagamama.com/

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)株式会社トミーズ芸能社

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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