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女優の夢破れ、やさぐれるアラサーのヒロインを等身大で。監督にブスっとしてた?高校時代まで見透かされて

水上賢治映画ライター
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

 「偶然にも最悪な少年」や「ハードロマンチッカー」などで知られるグ スーヨン監督による本作「幽霊はわがままな夢を見る」は、その成立の仕方が幸せではないかと思える映画だ。

 本企画の発起人といっていいのは俳優の加藤雅也。下関出身のグ スーヨン監督と長い付き合いがありながら、彼は一緒に組むタイミングがなかった。

 常々「なにか一緒にやりたい」と思っていたところ、下関出身の女優・深町友里恵と短編映画「恋文」で共演。

 そこで三人で会ったことをきっかけに話が一気に進み、下関発のオリジナルムービー「幽霊はわがままな夢を見る」は誕生した。

 作品は、女優になる夢破れ、自らの才能にも絶望して故郷・下関に戻ってきたヒロイン・ユリが、父の経営するラジオ局を手伝いながら自身を見つめ直す、ひとつの成長物語。

 ただ、そこはグ スーヨン監督らしく、単にポジティブでは終わらない、人生のほろ苦さとちょっとしたゴーストストーリーも交わったユニークな一作になっている。

 そして、そこで強烈なインパクトを残すのが、ユリを演じた深町友里恵だ。

 夢が断たれ、もはややぶれかぶれで悪態はつくわ態度は悪いわという、ある種のダーク・ヒロインをただならぬやさぐれ感を出して演じ切っている。

 地元・下関での撮影の舞台裏から、加藤雅也とグ スーヨン監督との出会い、この作品に対する思いまで、彼女に訊く。全六回/第三回

「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

帰郷すると自分を取り戻すような原点に返る感覚があります

 前回(第二回はこちら)は、クランクインまでの日々を振り返ってくれた深町。

 では、作品の話に入る前に、地元・下関に、深町はどんな思いを抱いていたのだろうか?

「もちろん地元で愛着がある町です。

 ただ、町の印象は、けっしてネガティブな意見として受け取らないでほしいんですけど、いい意味でも悪い意味でも変わらないと、いつも思います。

 上京してからもたびたび帰ることがありますけど、高校時代から何も変わっていないというか。

 もちろん、あの建物がなくなったといった細かい変化はあります。

 でも、そこで暮らしている人や町の雰囲気は変わっていないんですよね。

 いま再開発などで住人も様変わりして印象もガラリと変わる町がけっこうありますよね。そういう感じがないんです。

 上京してたまに戻っても、人も町も同じ状態でわたしを迎えてくれるようなところがあります。

 だから、いまのわたしにとっては自分をいったんリセットできる場所で。ちょうど上京して10年が経つんですけど、帰郷すると自分を取り戻すような原点に返る感覚がありますね」

「幽霊はわがままな夢を見る」より
「幽霊はわがままな夢を見る」より

6~7割ぐらいは、ほぼほぼ自分に重なるところがあると思った

 では、改めてクランクイン直前に届いたという脚本にはどんな感想を抱いただろう?

「そうですね。どうしても自分が演じることになるユリを中心に読んでしまったところがあるので、彼女の話が中心になってしまうんですけど……。

 まず、ユリは等身大で演じられる役だなと思ったのと同時に『こういうことだったのか!』と思いました。

 プロジェクトが始まる前に、まず、演技指導、セッション、面談、勉強会といったようなことをグ スーヨン監督と重ねたと言いましたけど、そこでのレッスンでいろいろしたことがかなり入っているなと思ったんです。

 あの時間で、グ スーヨン監督に、わたしという人間を完全に見透かされたといいますか。わたしのほんとうのところの性格から俳優としてのポテンシャルまでとらえられて、ユリができているような気がしました。6~7割ぐらいは、ほぼほぼ自分に重なるところがあると思ったんですよね。

 それでも最初は、ちょっとヤンキー気質の入った愛嬌のないユリは、自分とは距離があるような気がして、果たして自分は演じ切れるのかと思ったんです。

 あのふてぶてしさや不満顔のところをきちっと出せるかなと。

 上京してからわたしもそれなりに世間の荒波に揉まれまして(笑)、人にそれなりに気を遣える大人にもなっていますし、時には自分の意見を控えられるようにもなっている。

 そういう東京に来てどこか縮こまってしまったところがある自分が、傍若無人なふるまいをするユリをきちんと表現できるのかちょっと不安だったんです。

 ところが、高校のときの恩師が映画を見てくださったんですけど、『あのブスッとした顔は高校時代の深町そのままだ』と言われたんですよ(苦笑)。もしかしたらグ スーヨン監督に高校時代のわたしの雰囲気まで感じとられたかと、びっくりしました」

登場人物が『下関の人らしい』という人ばっかりなんです

 それから脚本にはこういう印象も抱いたという。

「『リアルな下関人の物語だ!』と思いました。

 どういうことかというと、物語自体は、たとえば耳なし芳一のエピソードが入ったり、幽霊が出てきたりとファンタジー・ストーリーのところがある。

 ただ、もう登場人物が『下関の人らしい』という人ばっかりなんです。加藤雅也さんが演じられたユリの父・昌治をはじめ、いかにも下関の人と言った感じなんです。

 たぶん、下関以外の人はまったくわからないと思います。でも、下関出身者はみんなわかるんじゃないかなと思いますね。

 そういう意味で、『下関人の物語だ!』と思いました」

(※第四回に続く)

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第一回】

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第二回】

「幽霊はわがままな夢を見る」より
「幽霊はわがままな夢を見る」より

「幽霊はわがままな夢を見る」

監督:グ スーヨン

脚本:グ スーヨン、具 光然

出演:深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花、西尾聖玄、山崎静代(南海キャンディーズ)、佐野史郎ほか

公式サイト https://www.yureiwagamama.com/

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)株式会社トミーズ芸能社

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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