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女優の夢破れ、やさぐれるアラサーのヒロインを等身大で。短編から長編に企画変更の吉報は突然に

水上賢治映画ライター
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

 「偶然にも最悪な少年」や「ハードロマンチッカー」などで知られるグ スーヨン監督による本作「幽霊はわがままな夢を見る」は、その成立の仕方が幸せではないかと思える映画だ。

 本企画の発起人といっていいのは俳優の加藤雅也。下関出身のグ スーヨン監督と長い付き合いがありながら、彼は一緒に組むタイミングがなかった。

 常々「なにか一緒にやりたい」と思っていたところ、下関出身の女優・深町友里恵と短編映画「恋文」で共演。

 そこで三人で会ったことをきっかけに話が一気に進み、下関発のオリジナルムービー「幽霊はわがままな夢を見る」は誕生した。

 作品は、女優になる夢破れ、自らの才能にも絶望して故郷・下関に戻ってきたヒロイン・ユリが、父の経営するラジオ局を手伝いながら自身を見つめ直す、ひとつの成長物語。

 ただ、そこはグ スーヨン監督らしく、単にポジティブでは終わらない、人生のほろ苦さとちょっとしたゴーストストーリーも交わったユニークな一作になっている。

 そして、そこで強烈なインパクトを残すのが、ユリを演じた深町友里恵だ。

 夢が断たれ、もはややぶれかぶれで悪態はつくわ態度は悪いわという、ある種のダーク・ヒロインをただならぬやさぐれ感を出して演じ切っている。

 地元・下関での撮影の舞台裏から、加藤雅也とグ スーヨン監督との出会い、この作品に対する思いまで、彼女に訊く。全六回/第二回

「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影
「幽霊はわがままな夢を見る」で主演を務めた深町友里恵  筆者撮影

企画が始動するまでグ スーヨン監督と演技指導?面談?

 前回(第一回はこちら)は、本作が始動するまでの過程のちょっとした裏話を明かしてくれた深町。

 加藤雅也とグ スーヨン監督と一度会うことになり、その場で話が盛り上がって「じゃあ映画を作ろうか」という流れになったとのことだが、その後は、どう動いていったのだろうか?

「はじめに言っておきますと、三人でお会いして『じゃあ、やろう』と話が盛り上がったのが確かその年の二月か三月。そして、その年の十月にはクランクインしていたんです。つまり、間に半年ぐらいしかなかったんですよね。

 その間になにをしていたかというと、グ スーヨン監督からの演技指導といいますかセッションといいますか、面談といいますか勉強会といいますか、といったことを重ねていました。

 監督のアトリエで、わたしとマントゥーマンのときもあれば、劇中で謎の青年を演じている西尾(聖玄)さんといっしょのときもあるといった感じで、レッスンを重ねていました。

 たぶん、監督がわたしがどういう人間で、どのような個性の持ち主で、どのような役がはまるのか、どのような方向に導けばいいのかなど、すごく考えてくださっていたんだと思います。どのような物語にするか、リサーチを兼ねてのレッスンだと思うんですけど、ありがたいことに監督から直接レッスンを受けていました」

わたしにとっては有意義な時間で、つらいとかはまったくなかったです(笑)

 どのようなレッスンだったのだろうか?

「そうですね。

 わたし自身のことをいろいろと聞いてくださることもあれば、なにかについて監督とわたしとでいろいろと話し合うようなときもありました。

 それから、たとえば、こういうシチュエーションでのシーンがあるとする。このとき、どのような演技をするのがベストなのかといった意見交換をするときもありました。

 こういうシーンを、自分はこういう世界観で描きたいと思っているけど、深町はどう思う?と意見を求められることもありました。

 ちょっとしたシーンが設けられて、演じてみてほしいといわれて、演じて、じゃあ今度はこんな感じで、といってわたしが演じるといったやりとりもありました。

 ワークショップといえばワークショップなのかもしれないですけど、どちらかというと勉強会というか。これからひとつの作品を作っていく上でのひとつのプロセスだった気がします。

 『いい子はつまらないよね』と監督が口癖のようにずっとおっしゃっていました。たぶん、わたしになにをさせたら面白いんだろうか、わたしのキャラをどうしたら面白くなるかっていうのをずっと模索してくれていた気がします。ほんとうにありがたいことです。

 ですから、わたしにとってはとても有意義な時間で、つらいとかはまったくなかったです(笑)」

「幽霊はわがままな夢を見る」より
「幽霊はわがままな夢を見る」より

プロジェクトの変更で、うれしいことに短編から長編企画に!

 このレッスンの期間には、うれしい知らせも受けたという。

「実は、もともとは短編映画を想定して動き始めたんです。

 ところが監督とのレッスンが続いている最中、どのタイミングだったかは定かではないんですけど、事務所の方から伝えられたんです。『長編映画にすることが決定したみたい』と。びっくりしましたね。

 短編は短編のすばらしさが確かにある。ただ、やはり長編映画だと劇場で上映される可能性も高まりますし、物語も奥深いところまで描けるものになる。

 だから、次の瞬間には『やった!』と喜んでいました。

 てっきり、スケジュールは先延ばしになるかと思っていたら、それは変更なしということで、そこでまた驚きましたけど、いやうれしかったです。

 『やってやる!』と意気込みがさらに増しました」

脚本完成からたった2~3週間でクランクイン

 では、そのような過程を経て、実際に脚本が出かがったのはいつだったのだろうか?

「わたしの手元に届いたのは、確かクランクインの2~3週間ぐらい前だったと思います」

 その短い期間で、どのような役作りをしていったのだろうか?

「これがまた恵まれているんですけど、脚本が完成してから、クランクインに入るまでの間、監督が読み合わせを何回も何回も東京でしてくださったんです。

 その読み合わせを経て、下関入りしました。

 読み合わせで、『ここはこうしたほうがいいでしょうか』とか、『こういう感じにしようか』とか、監督とわたしとそれぞれが話し合って、ユリという役を突き詰めていったところがありました。

 ですから、クランクインしたときは、もちろん緊張はあるんですけど、演じることに対しての不安は不思議とあまりなかったですね」

(※第三回に続く)

【「幽霊はわがままな夢を見る」深町友里恵インタビュー第一回】

「幽霊はわがままな夢を見る」より
「幽霊はわがままな夢を見る」より

「幽霊はわがままな夢を見る」

監督:グ スーヨン

脚本:グ スーヨン、具 光然

出演:深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花、西尾聖玄、山崎静代(南海キャンディーズ)、佐野史郎ほか

公式サイト https://www.yureiwagamama.com/

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)株式会社トミーズ芸能社

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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