「偶然にも最悪な少年」や「ハードロマンチッカー」などで知られるグ スーヨン監督による本作「幽霊はわがままな夢を見る」は、その成立の仕方が幸せではないかと思える映画だ。

　本企画の発起人といっていいのは俳優の加藤雅也。下関出身のグ スーヨン監督と長い付き合いがありながら、彼は一緒に組むタイミングがなかった。

　常々「なにか一緒にやりたい」と思っていたところ、下関出身の女優・深町友里恵と短編映画「恋文」で共演。

　そこで三人で会ったことをきっかけに話が一気に進み、下関発のオリジナルムービー「幽霊はわがままな夢を見る」は誕生した。

　作品は、女優になる夢破れ、自らの才能にも絶望して故郷・下関に戻ってきたヒロイン・ユリが、父の経営するラジオ局を手伝いながら自身を見つめ直す、ひとつの成長物語。

　ただ、そこはグ スーヨン監督らしく、単にポジティブでは終わらない、人生のほろ苦さとちょっとしたゴーストストーリーも交わったユニークな一作になっている。

　そこで強烈なインパクトを残すのが、ヒロインのユリを演じた深町友里恵だ。

　夢が断たれ、もはややぶれかぶれで悪態はつくわ態度は悪いわという、ある種のダーク・ヒロインをただならぬやさぐれ感を出して演じ切っている。

　地元・下関での撮影の舞台裏から、加藤雅也とグ スーヨン監督との出会い、この作品に対する思いまで、彼女に訊く。全六回／第一回

企画の発起人、俳優の加藤雅也との出会いは、カメラマンとモデルとして

　はじめに触れておくと、彼女を前にした瞬間、演じた富澤ユリと深町の印象がまったく結びつかない。

　はっきり言ってしまうと、まったくの別人のように見える。それぐらい終始、ふてくされているユリ役での表情とは、真逆の明るい表情を見せる深町。

　グ スーヨン監督にも、撮影終了後にこう言われたそうだ。

「いや、ちょっと深町を怒らせ過ぎたんじゃないかとおっしゃっていました（笑）」

　余談から入ったが、本作への出演は、俳優の加藤雅也との出会いから始まっている。その経緯についてまず聞いた。

「そうですね。実は、加藤さんとは、はじめ役者同士としては出会っていないんですよ。

　初対面はカメラマンとモデルとして顔を合わせました。

　どういうことかというと、加藤さんがカメラマンとしても活動されていることをご存じの方もいらっしゃると思います。

　で、あるとき、広島で加藤さんが写真の撮影をされていて、被写体になってくれる役者を探していらっしゃった。

　その話を受けた監督さんがわたしの知り合いの方で、そこから『どう』ということでお話しをいただだいてお引き受けすることにしました。

　ということで、加藤さんとはカメラマンとモデルとして最初出会いました。

　このときの写真はまだどこかで発表されているわけではないんですけど、いつかなにか形にして発表できたらいいねと、加藤さんからは伝えられています」

初対面の印象は、戦場カメラマン？

　では、そのときのファーストインプレッションはどうだったろうか？

「役者さんというよりは、戦場カメラマンといった印象でした。

　ちょっとふつうの撮影とは違うといいますか。

　ものすごくアグレッシブで熱いんですよ。

　別に危険地帯をかけめぐり、危険を避けたりしながらシャッターを押しているわけでは当然ないんですけど……。

　もうファインダーをのぞいたらスイッチが入って、その世界に入っていってしまうような感じで。

　『戦場カメラマンみたい！』という印象を抱きました」

短編映画で加藤雅也と再会へ

　その後、短編映画「恋文」で俳優として共演することになる。

「表向きは、役者同士として向き合ったということになるんでしょうけど……。

　わたしとしては役者として加藤さんと向き合って、共演したという感覚はぜんぜんないんです。

　というのも、いまもそうですけど当時はさらにまだまだ経験不足の新人の俳優で。

　目の前にある由希子役という役をまっとうすることで精一杯の状態。はっきり言ってほかのことを考える余裕なんてまったくありませんでした。

　だから、加藤さんとも一緒にお芝居をしたという感覚が実はわたしにはまったくなくて……。

　今回の『幽霊はわがままな夢を見る』でようやくようやく共演できた感覚があります」

グ スーヨン監督との不思議な縁

　この共演が、今回の企画へとつながっていくことになる。

「あるとき、加藤さんとお話ししているときに、わたしが下関出身という話になって。

　そのときに、加藤さんが『長い付き合いがあるグ スーヨン監督という人がいるんだけど、なかなか彼とタッグを組むことが実現できていないんだよ』といった主旨の会話になったんです。

　で、じゃあせっかくなので三人で一度会ってみようかということになりました。

　それで、お会いしたんですけど、世間は狭いといいますか、下関というローカル都市だからかもしれないですけど、グ スーヨン監督の古くからのお知り合いが、なんとわたしの古くからの知り合いという人が何人かいて（笑）。共通の知人が何人かいたんです。

　ほんとうに偶然で、その人は別に映画関係者とかではまったくない地元の方なんです。

　たとえば、わたしが高校時代にアルバイトしてた店の常連さんとか（笑）

　それで話が盛り上がって、『じゃあこれだけ縁があるなら一緒に映画撮ろうよ』みたいな話になったんです。

　これが今回の作品のほんとうのスタートだったと思います」

（※第二回に続く）

「幽霊はわがままな夢を見る」

監督：グ スーヨン

脚本：グ スーヨン、具 光然

出演：深町友里恵、加藤雅也、大後寿々花 、西尾聖玄、山崎静代（南海キャンディーズ）、佐野史郎ほか

公式サイト　https://www.yureiwagamama.com/

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