つけ麺の麺だけを食べるのは「バカ」なことなのか?
人気つけ麺店の創業者の発言が物議を
人気つけ麺店の創業者による発言がちょっとした騒動になっている。自身のYouTubeの動画内において、客がつけ麺の麺だけを食べる行為について言及。つけ麺の麺だけを食べる行為について「意味ない」「バカじゃねぇの」などと発言。それについて視聴者やラーメンファンなどが反応し、創業者は動画内の発言を削除し謝罪したというものだ。
この創業者の発言や行動の真意は、本人でなければ分からないことであるし、その是非について推測をもとに論じることにも興味関心はない。ただ一ラーメン評論家として興味がわくのは「つけ麺の麺だけを食べる行為は愚かなこと」という指摘についてのフラットな考察だ。
つけ麺とは日本蕎麦と同様に、麺をつけダレにつけて食べる麺料理のこと。1955(昭和30)年に『大勝軒』(東京都中野区)の店長であった故山岸一雄氏が賄いメニューをもとに考案したとされている。2000年代以降は「つけ麺ブーム」もおこり、現在ではつけ麺を主力商品に据えた人気店も数多く存在している。
麺とつけダレがセットになって「つけ麺」
言うまでもなく、つけ麺という料理は麺とつけダレがセットになって成立するものだ。麺だけを食べたりつけダレだけを飲むことは基本的には想定されていない。例えばつけ麺のつけダレはラーメンのスープと比較すると、粘度や塩度が高いために飲みづらいが、これは麺と一緒に食べる時のことを想定して設計されているからだ。
それでもラーメンマニアを中心に、一定の割合でつけ麺の麺だけを食べる人がいる。その理由としては麺そのものの味を感じてみたい、といういささかマニアックな視点がある。スープに麺が最初から浸っているラーメンの場合は、純粋に麺だけを味わうことは不可能だが、つけ麺の場合はそれが可能となる。麺が好きな人にとっては、まず麺だけの味を試してみたいというのはごく自然な行為なのだろうと思う。
また、人気つけ麺店の中には、店内に食べ方の指南として「まずは麺だけを食べて欲しい」と掲げている店もある。それは自家製麺など麺にこだわりを持つ店が、自店の麺の味に自信があることの意思表明とも言える。また手打ちなどの日本蕎麦店では、まずはつゆにはつけず蕎麦だけで食べたり、塩をつけて食べたりする行為はごく自然なことで、そこからの引用も少なからずあるだろう。
カレーライスのご飯だけを食べる場合
いささか乱暴な喩えになるが、カレーライスを例にとると分かりやすいと思う。カレーライスはカレーソースと白いご飯がセットで成立する料理であり、そういう意味ではつけ麺と構造的に似ている食べ物だ。ではカレーライスで白いご飯だけを食べることはあり得るのだろうか。
例えばあるカレー店で、カレーソースだけではなくご飯にもこだわりを持っており、魚沼産コシヒカリを魚沼から取り寄せた水を含ませて、昔ながらの土鍋を使って炊き立てのご飯を提供していると謳っていた場合。おそらく多くの人はご飯はどんな味がするのだろうと、まずはご飯だけを一口食べてみるのではないだろうか。つけ麺の麺だけを食べる行為も同じ好奇心によるものではないかと思うのだ。
「つけ麺の麺だけを食べる行為は愚かなことなのか」という問いについては、現段階ではマイノリティでマニアックな行為なのだろうが、決して愚かなことではないと個人的には考える。今回の騒動は突き詰めれば、個人の趣味嗜好について他人にとやかく言われる筋合いは無い、ということなのだろう。さらにつけ麺の麺だけを食べる人はつけ麺が好きであって、さらにそのつけ麺を作った人に敬意を表している部分もある。その作り手本人からバカ呼ばわりされたのに怒りを覚えるのは理解出来る。
ラーメンの世界ではまずスープが進化していき、その後麺に意識がフォーカスしていった経緯がある。そういう意味では麺の進化は過渡期であって、麺だけを食べたいというつけ麺はまだ少ないのかもしれない。しかしながら、これからもっと麺について作り手も食べ手も意識するようになり、今よりももっと美味しい麺が生み出されたり、新しい麺の食べ方や楽しみ方も出てくるのだろう。その時にはきっとつけ麺の麺だけを食べる行為はバカなこと、とは言われなくなっているはずだ。
※写真は筆者によるものです。また本文の内容とは関係ありません。
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