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「カタ麺」は身体に悪い? プロが考えるラーメンの麺の正しい茹で加減とは?

山路力也フードジャーナリスト
麺の茹で加減の好みを聞くラーメン店が増えているが…。

「麺の硬さはどうされますか?」

家系ラーメン店では味の濃さや麺の硬さを自分好みで選べる。
家系ラーメン店では味の濃さや麺の硬さを自分好みで選べる。

 ラーメンは自由な食べ物である。ラーメンの食べ方は人それぞれ。自分の好きなように美味しく食べれば良い。しかし、正しい知識を持っているのといないのとでは違う。どうせ食べるのであれば、正しい知識を持った上でラーメンをもっと美味しく食べて欲しいと常日頃から考えている。

 ラーメン店に行くと「麺の硬さはどうされますか?」と聞かれることがあるだろう。かつては博多ラーメン店や家系ラーメン店などの専売特許のようなものだったが、それ以外のラーメン店でも麺の茹で加減を聞く店が増えてきた。また、聞かれなくても「麺硬めで」などと客側から要望するケースもあり、それに応えている店もあるだろう。

 しかし、落ち着いて考えたら麺の茹で加減を選ぶ料理など、ラーメン以外に聞いたことがない。蕎麦もうどんもパスタも、店が出してきたものをそのまま食べているだろう。ラーメンの世界だけが特殊なのだ。今回は、麺の正しい茹で加減についてラーメン店主、イタリアンシェフ、製麺所など麺のプロフェッショナルと共に考えていきたい。

麺はしっかりと茹でて食べる食べ物

麺は適切な茹で加減を想定して作られている。
麺は適切な茹で加減を想定して作られている。

 いきなり結論から書いてしまうが、麺の茹で加減における正解はズバリ「お店にお任せ」である。ラーメンの麺はしっかりと茹でるのが基本であり、また麺の適切な茹で時間はその日の気候や麺の状態によって日々変わる。それを理解しているのはラーメン店である以上、適切な麺の茹で加減に関してはプロに任せるのが間違いない。ラーメンを美味しく食べたいのであれば、麺の茹で加減はお店の人に任せるべきだ。

 「麺というのは、本来狙った食感を出すために小麦粉を配合を掛け合わせて製造をします。従って狙った状態になるような茹で時間が必要なわけです。おそらく今の『カタ麺』とは、ちゃんと茹で上がる前の半茹で状態の『カタ茹で麺』と言えるのではないでしょうか。生麺は生のままではおなかを壊すと言われています。やはり本来狙った食感までは茹でて頂いてからお召し上がりいただきたいものです」(製麺所『大成食品』営業直売部門長 深澤公仁さん)

 「製麺屋としては茹で上がりを考慮して色々と配合を考えて作っているわけです。それをなんでもかんでも固茹でされてしまっては、配合本来のスペックは発揮されないので配合の特性なんて出るわけもなく、どんな麺でも同じになってしまいます。固茹では麺の楽しみや奥深さを放棄しているわけです」(製麺所『浅草開化楼』製麺師 不死鳥カラスさん)

 「それぞれの麺にはそれぞれの麺に合った茹で加減があり、製麺所なり製麺したラーメン店が把握しています。それは加熱することで素材の持つポテンシャルが開花されるタイミングがあるのを知っているということ。しっかり茹でた麺は甘味や旨味が開き官能的ですらあります。それに対して茹で時間の短いいわゆる『カタ麺』は、よく茹でた麺と比べると相対的に旨味がないと思います」(ラーメン店『博多ラーメンでぶちゃん』店主 甲斐康太さん)

「麺硬め」が存在する理由

家系ラーメン店でも麺の茹で加減を選ぶことが出来る。
家系ラーメン店でも麺の茹で加減を選ぶことが出来る。

 しかし、博多ラーメンや長浜ラーメンなどには「バリカタ」「ヤワ」などと麺の硬さを選ぶシステムがある。これは魚市場に隣接する長浜エリアの人気ラーメン店『元祖長浜屋』『一心亭』などが、忙しい客に素早くラーメンを提供するために麺を細くして茹で時間を短く硬めに上げるようにしたことが発端と言われている。そこから客の好みに合わせて茹で時間を調整するようにしたのだ。そのシステムが「替玉」とともに博多ラーメンにも採り入れられて広く浸透した。

 また、家系ラーメンの場合は、家系総本山『吉村家』などにおける麺の茹で方に関係がある。最近の家系ラーメン店では「振りざる(テボ)」で一人前ずつ麺を茹でるが、『吉村家』など従来の家系ラーメン店では何人分もの麺を一つの釜で一気に茹でて平ざるで上げていく。

 この場合、どう頑張っても最初の麺と最後の麺では茹で時間に差が生まれる。そこで客の好みを敢えて聞くことで最初の麺を「硬め」の人に、最後の麺を「柔め」の人に振り分けている。従って、客の全員が「硬め」を注文した場合は、当然のことながら「硬めの中の硬め」と「硬めの中の柔め」が存在することになる。

敢えて「カタ麺」を選ぶ楽しさも

替玉で敢えて麺の茹で加減を変えるのも楽しい。
替玉で敢えて麺の茹で加減を変えるのも楽しい。

 博多ラーメンにせよ家系ラーメンにせよ、しっかりと茹できった方が美味しい麺を食べることが出来るが、博多ラーメン店の場合は敢えて「硬め(カタ)」を頼むのも楽しい。博多ラーメンの場合は、美味しさよりもザクザクとした食感を楽しむ文化があるからだ。そして自分好みの硬さを探すのも、博多ラーメンの楽しみ方の一つでもある。

 また、通常の麺と比べて麺線が細く加水率も低く量も少ない博多ラーメンの麺であれば、硬めに茹でても通常の麺に比べれば消化不良にはなりにくい。博多ラーメンと言えば替玉だが、最初は普通で頼んで替玉では硬めに頼むなど、同じ麺の異なる食感を楽しむことも出来る。

 「私は茹で切って旨味のある麺が好きですが、博多ラーメンに限ってはパツンッとした細麺の、茹での甘い麺特有の食感が好きで積極的に食べています。しかし、一度たりとも美味しいと思った事はありません。美味しくはないけれど食感が好みなだけです」(ラーメン店『博多ラーメンでぶちゃん』店主 甲斐康太さん)

小麦は加熱しなければ消化出来ない

麺はしっかりと茹で切って食べることが基本だ。
麺はしっかりと茹で切って食べることが基本だ。

 博多ラーメンや家系ラーメンなどは、今やご当地ラーメンという枠を超えて、全国的な広がりを見せている。その結果として、博多ラーメンや家系ラーメンとは異なるラーメンでも麺の硬さを選ぶシステムが採用されたのだろう。味の濃さや油の多さなど、客自身が自分好みの味を探すことが出来る楽しさもあり、ラーメンをカスタマイズすることは珍しいことではなくなった。

 しかし、繰り返すが麺に関してはしっかりと茹できった上で食べることが前提だ。なぜならば、小麦は加熱しなければ消化が悪くなる。加熱調理して小麦粉が糊化(α化)した状態になってはじめて食べ物として成立する。そして小麦の旨味も加熱されることで引き出されていく。茹で加減が甘いと消化不良でお腹を壊すことだってあるのだ。

 「『食』をどう捉えるかだと思います。『欲』を満たすものであれば、体の不調を考えずに食べても、心や欲は満たされます。『糧』として捉えるならば、小麦は生では消化出来ないので、火を通す事は絶対です」(ラーメン店『麺や七彩』店主 阪田博昭さん)

 「麺を加熱することにより、旨味の要、生命の源でもあるアミノ酸が生成されます。体の健康維持に役立つ数値として、必須アミノ酸の含有量を示す『アミノ酸スコア』がありますが、植物の中で米に続き高いのが一定時間加熱された小麦です。要は加熱無しに旨味は生成されないのは科学的に明白で、美味しさという点においては、個人の感覚で議論する話ではありません」(ラーメン店『博多ラーメンでぶちゃん』店主 甲斐康太さん)

カタ麺の食感が「コシ」ではない

しっかりと茹でてはじめて「コシ」が生まれる。
しっかりと茹でてはじめて「コシ」が生まれる。

 「カタ麺」を頼む人の多くが、その麺の食感が好みだと言う。それを時々「コシがある麺」と表現する人がいるが、それは明らかに間違いだ。硬く茹でた麺の食感とコシは違う。コシとはしっかりと茹できった状態で生まれるもの。客のみならず時には店側も麺のコシを硬さと勘違いしている場合があるが、しっかりと茹でることで生じた弾力のある食感こそがコシなのだ。

 言うまでもなく麺は外側から茹でられていくため、麺の外側と中心部では火の入り方と水分に差が生まれる。その外側と内側の水分含量の差である「水分勾配」が、コシや食感に影響を与えている。どうしても硬めの麺を頼みたい時は信頼の出来る店でお願いするべきだ。

 「『カタ麺』で頼む人はきっと茹で伸びが嫌いなのでしょう。しかし、本来麺とはしっかりと茹でた方が伸びません。少なくとも私の麺に関しては小麦粉以外の余計なものは入れていないので伸びませんから、お店が出すままで食べて欲しいですね」(製麺所『浅草開化楼』製麺師 不死鳥カラスさん)

 「本来、麺には一番おいしい状態である狙った食感を出すために、適切な茹で時間が必要となります。その時間をしっかりと茹できって、ここにピッタリとハマった時にでるプリッとした食感がコシであると理解しています。早茹でした麺や添加物で作り出された硬さとは違うはずです」(製麺所『大成食品』営業直売部門長 深澤公仁さん)

 「食を扱う人間にとって、半茹でや生麺に近い状態で提供すべきではない事を把握理解してるのは大前提ですが『カタ麺』を出すことは可能です。麺を長時間完全に茹でて氷水で締める、その後再度さっと茹でて提供する事で完全に火入れをした硬い麺を出せます。しかしそれが客単価の低いラーメン店で現実的かどうか。回転率重視の店にその作業工程を強いるなら、それに伴う人件費や光熱費、稼働率低下による売り上げ低下を補う価格改定を覚悟しなければ難しいでしょう」(イタリアン『ZeCT byLm』店主 藤枝勇さん)

蕎麦やパスタとラーメンは違う

パスタとラーメンは製法も文化も異なる麺料理だ。
パスタとラーメンは製法も文化も異なる麺料理だ。

 また、「カタ麺」が支持される別の理由としては、蕎麦やパスタなどからの影響も考えられる。しかしながら蕎麦粉はしっかりと加熱しきらなくても人間の身体で消化することが出来る。パスタでは「髪の毛一本」残して茹でるなど「アルデンテ」という茹で方があるが、茹で上げた後にソースと和えたりフライパンで火が入るので、その部分を加味しての茹で上げ時間であり、料理として出て来た時にはしっかりと火が通っているのだ。

 「『カタ麺』を好む人には、関東などでの『蕎麦食い』の粋な食い方の名残を感じることもありますが、絶対的な傾向ではないと思っています。海外に目を向けても固茹での麺を好むのは少数ですが、日本の多忙なワーキングライフには『カタ麺』も一つの価値ある文化だという事も間違いありません」(ラーメン店『麺や七彩』店主 阪田博昭さん)

 「ローマで食べたある店では、食べ終わる頃にはアゴが疲れるくらいの硬い状態で提供されましたが、その理由はお客様の食べ方にありました。その店では提供されてすぐ食べ始めるお客様がいなかったのです。皆食事に来ているにもかかわらず、ワインを持ち会話をして、思い出したかの様に少しパスタを口に運びまた歓談を楽しむ。その時間経過も考慮しての茹で加減なのだと確信しました。胃袋を満たす食事なのか、その時間を存分に楽しむための食事なのかで茹で加減を変えているのがイタリアの料理です」(イタリアン『ZeCT byLm』店主 藤枝勇さん)

麺について正しく知った上で美味しいラーメンを

知って食べるのと知らないで食べるのとでは違う。
知って食べるのと知らないで食べるのとでは違う。

 麺のことを知らずして、初めての店でいきなり「麺硬めで」と頼むことをお勧め出来ない理由がお分かり頂けただろうか。そして麺は茹で加減ひとつで表情がガラリと変わる面白い食べ物だ。時には違う食べ方をすることで、同じラーメンなのにまったく違った味に感じるかもしれない。いつものラーメンを食べているのに、新しい感動に出会えるかもしれない。

 普段「麺硬めで」と頼んでいる人は、ぜひ同じ店で違う茹で加減を頼んでみて欲しい。そしてその味や食感の違いを楽しんで欲しい。世のラーメン店主たちは、ラーメンが日々もっと美味しくなるように腕を磨き、味の改良を重ねている。ならば、食べ手である私たちももっと美味しく食べられるように、アップデートしていかなければならないのではないかと思うのだ。

 「今までの製麺のセオリーが変わってきているのも事実です。昨今では博多系の低加水麺を清湯スープに合わせるお店が増えてきました。本来ならば強いスープには強い麺、やさしいスープにはやさしい麺をという既成概念は通用しなくなってきているのもしれませんね。美味いの感じ方も十人十色ですので一概には言い切れませんが、本当に美味いラーメンとはスープ、麺、具材の三位一体のハーモニーがきちんと取れているものだと私個人は思っています」(製麺所『大成食品』営業直売部門長 深澤公仁さん)

 「大前提として、個々の好みに関してとやかく言うつもりはありません。大切なのは知っていること、そして体験していること。各お店で扱っている麺は当たり前に水分量や小麦の特性、太さや密度も違います。それなのに何故、一貫してカタ麺を選択するのか、ということです。根幹から理解を深めれば素晴らしいラーメンと向き合えると思っています」(ラーメン店『博多ラーメンでぶちゃん』店主 甲斐康太さん)

 繰り返すが、ラーメンは自由な食べ物である。ラーメンの食べ方は人それぞれ。自分の好きなように食べることが、一番美味しいと感じる食べ方であることは否定しない。しかし、正しい知識を持っているのといないのとでは違う。どうせ食べるのであれば、正しい知識を持った上でラーメンをもっと美味しく食べて欲しい。たかがラーメン、されどラーメン、である。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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