イスラエルがガザ地区、レバノン南部に続いてシリアを爆撃:「ポスト・アラブの春段階」に入る「抵抗枢軸」
中東では、4月6日と7日、イスラエル軍がパレスチナのガザ地区とレバノン南部を爆撃した。
5日未明にイスラエルとパレスチナの双方が首都と主張するエルサレムで、ラマダーン月の夜をモスクで明かそうとしていたパレスチナ人をイスラエル警察が強制排除しようとして、両者が衝突、パレスチナ人数十人が負傷、400人以上が拘束されたのが発端だった。これを受け、6日、ハマースが実効支配するガザ地区からイスラエル南部にロケット弾を発射され、これに対する報復としてイスラエル軍はガザ地区を空爆した。
また、6日には、レバノン南部からイスラエル北部に向けてロケット弾34発が発射された。ロケット弾の多くはアイアン・ドーム防空システムで迎撃されたが、数発が着弾し、1人が軽傷を負った。これに対する報復として、イスラエル軍はレバノン南部のハマースの拠点複数ヵ所を狙って爆撃を実施した。
これにより、攻撃の応酬は小康状態となったかに見えた。
だが、8日、シリアとイスラエルの間で緊張が一気に高まった。
イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官は同日午後10時14分、ツイッターで、占領下ゴラン高原南部のメイツァール(キブツ)近くの空地で警戒アラートを発令した、との速報を発表した。
その約20分後の午後10時35分、アドライ報道官は再び速報を出し、シリアからイスラエルに向かってロケット弾3発が発射されたことを検知し、うち1発がイスラエル領内(占領下ゴラン高原)に入り、ゴラン高原南部の空地に着弾したと発表した。迎撃ミサイルによる迎撃は行われなかったという。
これに関して、ヨルダン軍総司令部も声明を出し、午後22時25分、シリアとの国境に隣接するワーディー・アクラバ地区上空でロケット弾が爆発し、その破片が同地に落下したと発表した。この爆発による負傷者も、重大な損害もなかったという。
(イスラエルのアルマー研究教育センターの発表によると、ロケット弾攻撃は、ロシアの支援を受け、シリア軍とともにイスラーム国に対する「テロとの戦い」に参加してきたパレスチナ人民兵組織のクドス旅団と、「南部レバノン」を名乗る民兵によるものと見られるというーー4月11日加筆。)
緊張状態は9日にも続いた。
アドライ報道官は同日午前5時24分、速報を出し、シリアからイスラエルに向かってロケット弾3発が再び発射されたことが検知され、うち2発がイスラエル領内に入り、1発が空地に着弾、もう1発が防空兵器に迎撃されたとしたうえで、これに対する報復として、イスラエル軍がシリア領内への爆撃を継続している、と発表した。
午前6時00分にも速報を出し、イスラエル軍戦闘機複数機がシリア軍第4師団の軍事複合施設、さらにはシリア軍のレーダー施設1ヵ所と砲台複数ヵ所などを標的として追加の爆撃を行ったと発表した。また、この爆撃に先立って、イスラエル軍の無人航空機(ドローン)は、ロケット弾攻撃に使用されたシリア領内の発射基複数ヵ所を爆撃したとも付言した。
アドライ報道官はさらに、一連の爆撃が、シリア領内からイスラエルへのロケット弾の発射への対抗措置で、シリア領内で起きていることの責任はシリア軍にあり、イスラエルの主権侵害の試みは認められないと強調した。
その後午前7時37分にも速報を出し、イスラエル軍のドローンがシリア領内のロケット弾発射台を爆撃し、破壊したとする映像を公開した。
イスラエル軍によるシリアへの爆撃(ミサイル攻撃)は、今年に入ってから11回目、2月6日のトルコ・シリア地震発生以降で9回目。いずれも「イランの民兵」を狙ったものだとされている。
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英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、今回イスラエル軍機がミサイル攻撃を行ったのは、スワイダー県西部のレーダー大隊基地、占領下のゴラン高原に隣接する第90旅団基地、ダルアー県東部の第52師団基地、ヤルムーク渓谷内の複数ヵ所。イスラエル軍は合わせて、占領下ゴラン高原からダルアー県とクナイトラ県の農村地帯を砲撃したという。
一方、シリア軍筋も報道声明を出し、9日午前5時頃、イスラエル軍が占領下のゴラン高原上空から南部地区の複数ヵ所を狙ってミサイル多数を発射、シリア軍防空部隊が迎撃し、ミサイルの一部を撃破したが、若干の物的被害が出たと発表した。
ガザ地区、レバノン南部からイスラエルを攻撃した勢力と、シリアから占領下ゴラン高原を攻撃した勢力はおそらく同じではない。前者はハマースを主体とするいわゆるパレスチナ諸派であり、後者は、イスラエルによる執拗なシリア爆撃に対する報復の機会を窺っていた「イランの民兵」、より厳密に言うとレバノンのヒズブッラー、あるいはそれに近い武装勢力だと思われる。
ハマース、ヒズブッラー、シリア、そしてイランは、かつて自らを「抵抗枢軸」と称していた。だが、2011年に「アラブの春」がシリアに波及すると、ハマースは、シリア政府による抗議デモ弾圧を嫌うパレスチナの世論に促されるかたちでシリア政府と断交、「抵抗枢軸」と距離を置くようになっていた。
2010年代を通じて、イスラエルは、「抵抗枢軸」をシリア国内でのイスラーム国や、シャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)との戦いに注力させることで、それらの安全保障上の脅威を軽減してきた。
だが、シリア国内での戦闘がほぼ収束し、シリア政府が再び勢力を盛り返し、トルコとの和解、アラブ連盟への復帰が秒読み段階に入っているとされるなか、シリア国内での「イランの民兵」の存在は、イスラエルにとってこれまで以上に目障りなものになっている。加えて、ハマースも2019年には長年にわたるシリア政府との確執を解消した。
イスラエルは、「アラブの春」のおかげで、シリアとイランが後援するハマースとヒズブッラーによる挟撃の脅威を回避してきた。だが、今回のガザ地区、レバノン南部、そしてゴラン高原での緊張化は、イスラエルが「ポスト・アラブの春」段階に入らんとする「抵抗枢軸」への対応を余儀なくされることを象徴しているのかもしれない。