イスラエルが震災に喘ぐシリアを再び攻撃、支援物資の受入窓口になっているアレッポ国際空港が利用不能に
トルコ・シリア地震(2月6日)が発生して1ヵ月。支援の遅れが指摘されているシリアがまたもや爆撃を受けた。
イスラエルが3月7日、国際社会からの救援物資や支援物資の受入窓口となっているアレッポ国際空港をミサイル攻撃したのだ。
アレッポ国際空港が利用不能に
シリア国防省の発表によると、イスラエル軍は3月7日午前2時7分、ラタキア県西の地中海上空からアレッポ国際空港に対してミサイル攻撃を行い、空港が物的被害を受け、利用不能となった。
また、シリア駐留ロシア軍司令部があるフマイミーム航空基地(ラタキア県)に設置されているロシア当事者和解調整センターのオレグ・エゴロフ副センター長は、3月7日午前2時2分から2時13分にかけて、地中海東部からイスラエル空軍のF-16戦闘機4機がアレッポ国際空港に併設されているナイラブ航空基地にミサイル攻撃を行い、滑走路とレーダーが損傷し、空港が利用不能となり、外国からの人道支援物資の搬入も停止したと発表した。
一方、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、攻撃は2回にわたって行われ、シリア軍防空部隊が迎撃するも、少なくともミサイル3発が滑走路などに着弾し、シリア軍士官3人と国籍不明の2人が死亡したと発表した。
イスラエル軍によるシリアへのミサイル攻撃はトルコ・シリア地震発生後、今回で2回目。前回は2月19日、UNESCO世界文化遺産に指定されているダマスカス旧市街のダマスカス城の事務所、城内に設置されている応用芸術技術研究所と遺跡博物館中等研究所、カフルスーサ区のアラブ文化センターなどが被害を受けた(「イスラエルが震災に喘ぐシリアをミサイル攻撃:トルコ、米国、「イランの民兵」の「火遊び」が疎外する支援」を参照)。
切断される被災者支援の大動脈
シリアの民間航空公社のバースィム・マンスール総裁は運輸省のホームページなどを通じて声明を出し、アレッポ国際空港へのトルコ・シリア地震の被災者への人道支援物資や救援物資の搬入先を、ダマスカス国際空港とラタキア国際空港(殉教者バースィル・アサド国際空港)に振り分けると発表した。
世界銀行が3日に発表したグローバル緊急災害後被害評価(GRADE)報告書によると、トルコ・シリア地震によるシリアでの直接的な物的被害が推計で51億米ドル、シリアのGDPの約10%に達している。最大の被害を受けたのはアレッポ県で、その額は23億米ドル(全体の45%)に及び、次いでイドリブ県が10億米ドル(37%)、ラタキア県が5億490万米ドル(11%)と続いているという。
地震発生を受けて、米国や英国、そしてシリアと70年以上にわたって戦争状態にあるイスラエルなど、一部の国を除いて、世界の多くの国、そして国連機関から救援物資や人道支援物資が届けられている。そのなかには、日本も含まれている(「「有史以来最大規模」の地震と「今世紀最悪の人道危機」の二重苦に喘ぐシリア」を参照)。
ラタキア国際空港と並んで、被災地内に位置するアレッポ国際空港への攻撃は、被災者支援の大動脈の一つを切断するような行為であり、震災支援に注力する国際社会の動きに逆行している。
口実としての「イランの民兵」
アレッポ国際空港に対する攻撃に関して、イスラエルのアルマ調査教育センターは、高性能兵器があることを示すとの情報に基づいて、あるいは空港に武器が搬入されることに備えた予防措置として行われた可能性があると発表した。
同センターによると、「イランの民兵」は、アレッポ県東部にあるジャッラーフ航空基地に配置していた部隊の一部を撤退させるとともに、ナイラブ航空基地に無人航空機(ドローン)を移動させていたという。
こうした動きが実際にあったかどうかを確認する術はない。だが「イランの民兵」の存在が、民生用の空港であるアレッポ国際空港を攻撃するという侵犯行為を正当化する理由にはならない。
なお、シリア人権監視団の発表によると、今回の攻撃では、イランの貨物や武器弾薬庫は標的とされなかったという。
西側諸国と反体制派の反応の低さ
シリアの外務在外居住者省は声明を出し、「イスラエルの侵略は同政体とその行為のなかにもっとも醜い野蛮性と非人道性、国際人道法を含む国際法へのもっとも深刻で悪質は違反行為を反映したものだ」と非難、国際社会に対してこうした行為を非難するよう呼びかけた。
また、イラン外務省のナーセル・カナアーニー報道官も、イスラエルの攻撃を「人道に対する犯罪」と非難した。
しかし、この攻撃に対する欧米諸国、そして反体制活動家、反体制系メディアの反応は驚くべき程に低い。
地震発生を受けて、米国やEUは、シリアに対する制裁を一時的に(6ヵ月)解除・緩和した。だが、諸外国によるシリア政府(バッシャール・アサド政権)との関係改善、人道支援も支持しないとの立場を崩していない。
米国は、シリア北西部を支配するシャーム解放機構(シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織、旧シャームの民のヌスラ戦線)に近いホワイト・ヘルメットなどを支援していると主張する。だが、同じく被災者を抱えているクルド民族組織の民主統一党(PYD)主導の北・東シリア自治局に対する支援の実態は明らかでない。同自治局の各所に違法に設置されている米軍基地への兵站物資が定期的にイラクから輸送される一方、シリア領内で生産された原油のイラク領への持ち出しが続けられている状況とはあまりに対照的だ。
一方、反体制活動家や反体制系メディアは、シリア政府を経由した支援が「中抜き」され、被災者に届けられないと喧伝し、シャーム解放機構の支配下にあるシリア北部への支援を呼び掛けている(「シリア北西部への支援を難しくするアル=カーイダの存在:トルコ・シリア地震発生から3週間」を参照)。
国際社会におけるシリア政府の復権を快く思っていない諸外国と反体制活動家が、シリア政府に打撃を与えるような直接的な行動に出ることは今のところない。イスラエルによるシリアへの執拗な攻撃は、こうした勢力の欲求不満をかたちにする行為、あるいは人道をめぐる二重基準を覆い隠す行為だと言うことができ、それを陰で絶賛している者もいるのである。