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イランに続いて、シリア南東部でも「イランの民兵」を狙った所属不明のドローンによる攻撃が相次ぐ

青山弘之東京外国語大学 教授
マヤーディーン・チャンネル(1月31日)

狙われたイランの軍需工場

イラク国防省は1月29日に声明を出し、28日午後11時30分頃、イエスファハーン市近郊にある同省の軍需工場が所属不明の無人航空機(ドローン)複数機による攻撃を受けたが、防空システムによってこれを迎撃、ドローン1機を撃墜、2機が包囲の末に爆発したと発表した。

攻撃では、軍事複合施設内の建物1棟の屋根に軽微な被害が生じたものの、施設の活動にいかなる支障も生じず、負傷者もなかったという。

米『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌は29日、米政府関係者の話として、攻撃がイスラエルによるものだとの見方を示した。また、イスラエルのメディアも、同国諜報機関のモサドが関与しているとも見方を一斉に伝えた。

国際法に反する攻撃を誰(あるいはどの国)が実行したのか、目的は何なのかについては今のところ定かでない。

だが、所属不明のドローンによる攻撃はその後も続いた。

冷凍車を狙った攻撃

攻撃が行われたのは、イランではなくシリアだった。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、シリア南東部のダイル・ザウル県で1月29日夜、航空機(ドローン)複数機が、シリア政府の支配下にある国境沿いのブーカマール市近郊のハリー村で、イラクから入国した冷蔵車6輌からなる車列を狙ってミサイル攻撃を行い、少なくとも3回の爆発が発生し、複数輌が大破、乗っていた運転手ら外国人7人が死亡したと発表した。

外国人の出身国などは明らかではないが、同地には「イランの民兵」と呼ばれるイラク人、アフガン人、パキスタン人、レバノン人、シリア人の民兵が活動しており、彼らが犠牲になったと見られる。

ロシアのRTも、所属不明の航空機が、ブーカマール市の国境通行所に面するイラク側のカーイム国境通行所方面から、イラク国境警備隊に所属する第9旅団第1連隊が駐留する「ムフスィン分所」近くに対して爆撃を行い、ミサイル2発が着弾したと伝えた。RTによると、狙われた車列は貨物車輌25輌からなり、イランからイラクを経由してシリアに向かっていたという。

シリア政府に近い立場をとるレバノンのマヤーディーン・チャンネルはさらに、25輌のうち6輌が29日にシリア領内に入り、うち3輌が攻撃を受け、1輌が被害を受けたと伝えたうえで、狙われた車列には、穀物、米などが積まれており、これらはシリア・イラク両当局の許可を得てシリア領内に運搬され、地元の住民に配給される予定だったと伝えた。

イランのIRNAは3輌が破壊されたものの、死者はなく、シリア人運転手1人が負傷しただけだと伝えた。

シリア人権監視団は、車列が攻撃を受けた際、上空には、米主導の有志連合のドローン複数機が旋回していたと付言、攻撃が有志連合によるものだと示唆した。

シリアのユーフラテス川西岸はロシア軍とシリア軍が制空権を握っているのに対して、イラクのカーイム国境通行所上空とシリアのユーフラテス川東岸の上空は、有志連合によって掌握されている。RTが報じたように、イラク領内からドローンが越境攻撃を行ったのだとしたら、有志連合が直接間接に関与している可能性は高い。事実、これまでにも同地へのドローンによる爆撃は、そのほとんどが有志連合によるものだった。

これに対して、トルコを拠点とする反体制系サイトのイナブ・バラディーは、攻撃がイスラエル軍によるものだとの見方を示した。IRNAもイランの消息筋の話として「シオニストの攻撃」と断じた。イスラエルもまた同地への爆撃の実績がある。

ダブル・トラップ

ドローンによる攻撃は30日にも続いた。

シリア人権監視団によると、所属不明のドローンが朝、再びハリー村を攻撃した。攻撃は、前日夜のドローン攻撃の被害現場を視察していた「イランの民兵」の4WDのピックアップ・トラックを狙ったもので、司令官1人と護衛2人(いずれも外国人)を殺害した。同じ標的を2度狙ういわゆるダブル・トラップだった。

なお、反体制系メディアのナフル・メディア(1月30日付)は、3人について死亡ではなく、負傷と伝えた。

石油トレーラーを狙った攻撃

シリア人権監視団によると、30日の昼頃にも、所属不明の偵察用ドローン1機が、ブーカマール市に近いスワイイーヤ村を爆撃、「イランの民兵」の武器弾薬を積んでいたと見られる石油トレーラー1輌を破壊、1人を殺害した。

攻撃に関して、マヤーディーン・チャンネルは複数筋の話として、前日の攻撃で中断していた食糧物資などの運搬を狙うかたちで、車輌が狙われたと伝えた。

シリア人権監視団によると、度重なる攻撃を受け、「イランの民兵」がブーカマール市内の市街地に展開し、厳戒態勢を敷き、イラン・イスラーム革命防衛隊が拠点複数ヵ所を撤去して、攻撃に備えた。

一方、米主導の有志連合のヘリコプター複数機が、イスファハーン市近郊の軍需工場に対するドローンの攻撃への報復に警戒し、違法に駐留を続けるCONOCOガス田から、シリア政府の支配下にあるハトラ村、フシャーム町、ムッラート村、フサイニーヤ町上空で旋回を続けた。

一連の攻撃が有志連合によるものか、イスラエルによるものかは特定できていない。だが、こうした攻撃が「イランの民兵」による報復を誘うのは必至で、そのことは、シリアが米国、イスラエル、イラン、さらにはロシア、トルコといった諸外国の主戦場として蹂躙されることを意味している。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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