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今の日本にこそ、「別班」が必要だ

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
日本に「別班」はあるのだろうか(写真:イメージマート)

 TBSで、日曜9時に放送されている日曜劇場「VIVANT(ヴィヴァン)」というドラマを観たことがあるだろうか?

 同ドラマは、主演の堺雅人をはじめ、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司、二宮和也ほか超豪華俳優陣の出演、大ヒット作を手掛けてきた福澤克雄が監督、VIVANT(日本語で、「別班(BEPPAN)」)(注1)と呼ばれる組織がテーマで、モンゴルロケなども行われ、国際社会を舞台にした、スケール感の大きなアドベンチャードラマである。絶好調で高視聴率のようだ。

 「別班(BEPPAN)」とは、自衛隊の影の諜報部隊で、超一流の人材が集まり、民間人にまぎれて秘密裏に諜報活動つまりスパイ活動や有事が起きないように非合法活動も含めたヒューミント(人的情報収集活動)をおこなっている陸上自衛隊の非公然諜報部隊のことである。

 同ドラマは、日本の制作にもかかわらず、入り組んだ重厚な設定や背景ではあるが、国際市場も視野に入れたダイナミックな内容で、近年の韓流や華流のドラマや映画にも比する仕上がりで、今後の市場的な広がりも含めて、興味深い作品だ。

 だが、筆者の最大の関心は、同ドラマではなく、そのメインテーマである「別班」にある。

菅義偉官房長官(当時)が、記者会見で、「別班」について回答している
菅義偉官房長官(当時)が、記者会見で、「別班」について回答している写真:ロイター/アフロ

 「別班」は、以前からさまざまに噂されてきているが、2013年11月27日の共同通信の記事をきっかけに、同11月28日午前の記者会見で菅義偉内閣官房長官(当時)は、「報道にあるような組織はこれまで自衛隊に存在していないし、現在も存在していないと防衛省から聞いている」と述べ、その存在を否定すると共に、小野寺五典防衛大臣(当時)も、同日午後の参院国家安全保障特別委員会で、「『陸上幕僚監部運用支援・情報部別班』というような組織はこれまで自衛隊には存在していないし、現在も存在していない」と、同じくその存在を否定した。

 そのような状況を踏まえ、自民党の鈴木貴子衆議院議員が、同年12月2日付けで「別班」に関する質問主意書を提出して、内閣にその真偽を問うた。これに対して、同年12月10日安倍晋三総理名(当時)で「これまで自衛隊に存在したことはなく、現在も存在していないことが確認されて」いるという答弁書が出されたのである。

国会でも「別班」について質疑応答されたことがある
国会でも「別班」について質疑応答されたことがある写真:つのだよしお/アフロ

 この「別班」が実際に存在するかどうかはわからないし、そしてもし存在するのであれば、共同通信の記事の「自衛隊最高指揮官の首相や防衛相の指揮、監督を受けず、国会のチェックもなく武力組織である自衛隊が海外で活動するのは、文民統制(シビリアンコントロール)を逸脱する」という指摘も正しいといえるだろう。

 筆者は、日本が民主主義制度を採用する限りは、このような文民統制のない、非公然な非合法組織は認められないと考えている。他方で、社会を運営していくには、さまざまな分野で、正規のやり方とは異なる対応・手法や視点・観点に基づいて活動できる組織・人材が必要だと考えている。画一的あるい or または単一的な手法や視点等でしか活動できないと、社会に存在する多種多様な問題・課題を十分にカバーや対応できず、抜けが多くなる。その結果、社会は行き詰まり、それらの問題・課題の解決のブレークスルーを見出しにくくなる。現在の日本は、正にそのような状態にあるのではないだろうか。

NPOも、本来は社会における「別班」だ
NPOも、本来は社会における「別班」だ写真:イメージマート

 そのようなことから、社会には、絶えずある意味の「別班」が必要なのだと考えている。

 本来は、「(規制緩和などにより別の活動をおこなえる地域である)特区」(注2)や「(政府以外で、民間などでも社会的・公的なことに関わる活動がおこなえる)NPO」(注3)も、ある意味で、社会における「別班」的な存在の役割を期待され、構想されたはずだ。だが、その現在の実態をみると、単に既存の枠のなかで活動できる仕組みに矮小化され、「別班」的役割が果たせてはいないことがわかる。

 この考え方をさらに広く考えていくと、近年話題になり注目されるようになってきている、社会や組織において、ジェンダーバランスや多様性の要素を取り入れていくことも、社会的に「別班」を導入し、多元的な視点や手法を活かしていく社会を運営していくことにつながることであるといえるだろう。

 社会が、その置かれた状況や環境が大きく変化しても、その変化に柔軟かつ適切に対応できるためにも、社会の主流や大勢とは異なる別の視点ややり方でやれる人材を集め、活動できる仕組み、つまり「別班」が必要なのだ。

 日本は、この30年変化や成長なく、厳しい言い方をすれば無為に過ごし、それまでの資産や遺産を食いつぶしてきた。それは、「別班」が社会的にビルトインさせ、存在させられなかったからだ。

 今こそ日本に、もちろん合法的な意味での「別班」が必要だといえるだろう。

(注1)「別班」については、次の記事や書籍等を参照のこと。

〇記事等

・「陸自、独断で海外情報活動」(共同通信、2013年11月)

「友人と酒を飲むのもNG…自衛隊の秘密情報部隊「別班」をご存じか 帝国陸軍から引き継がれた負の遺伝子」(石井暁、現代ビジネス、2018年10月12日)

「総理にも防衛相にも隠していた海外スパイ活動 陸自「別班」を暴いた大スクープ」(FRONTLINE PRESS、2021年11月11日)

〇書籍

『影の軍隊「日本の黒幕」自衛隊秘密グループの巻』(赤旗特捜班著、1978年)

『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体 』(石井暁、講談社現代新書、2018年)

(注2)この点に関しては、次の拙記事などを参照のこと。

「『特区』再考:日本には今こそ、『特区』が必要だ」(Yahoo!ニュース、2023年7月8日)

「日本を『既存制度の呪縛』から解き放つ仕組み…自治権付与『特定区』の創設(ディズニーが日本を変える?)」(Yahoo!ニュース、2022年5月15日)

 さらに、日本で唯一成功しているともいえる「沖縄科学技術大学院大学(OIST)」も、ある意味日本における「別班」だといえよう。OISTに関しては、次のように拙記事等を参照のこと。

「『総合芸術』的な国際研究組織『OIST』の全貌(上)(中)(下)」(フォーサイト、2023年3月24日~26日)

・「OISTの挑戦にみた日本変革のヒント」(Voice2023年2月号(PHP研究所)、2023年1月6日) 

「『変われない』日本が3つの事例から学べること」(Yahoo!ニュース、2023年1月2日)

 また、次の拙記事で紹介した「DARPA」と「日本版DARPA」も、ある意味で「別班」である。

「米国のDARPAから学び、日本にイノベーションを生み出せる異なるアプローチを構築しよう(前編)(後編)」(Yahoo!ニュース、2023年7月24日~25日)

(注3)この点に関しては、次の拙記事などを参照のこと。

「官・民と公・私・・・政治・政策リテラシー講座10」(Yahoo!ニュース、2014年1月13日」

「社会と3つのセクター・・・政治・政策リテラシー講座9」(Yahoo!ニュース、2014年1月12日)

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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