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政局を超えて、今回の衆議院総選挙の結果から見えてくるもの

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
現在の政局を超えて政治を考えていくことが必要だ(写真:つのだよしお/アフロ)

 今回の選挙結果は、自民党やニュース報道等で予想されていた以上に、自民党および公明党の政府与党にとって厳しい、次のような結果となった。詳細は、「図表1:衆議院選挙2024の結果」を参照のこと。

・一強多弱(注1)状況の崩壊

・自公過半数割れ

・野党は立、国、維でも過半数届かず

・国民民主の躍進

・ポピュリズム小政党の派生・萌芽

衆議院選挙2024の結果を数字からみてみよう。
衆議院選挙2024の結果を数字からみてみよう。

 

 これを表面的にみると、国民・有権者は、与党、特に自民党に非常に厳しい判断をし、野党の活動を評価し、野党が政権交代を迫るに近い躍進をしたということができるだろう。

 

 ところが、より長いスパンで、日本の政治をみると、別の側面が見えてくる。

 第二次世界大戦後の衆院選における投票率は、「図表2:衆議院選挙における投票率の推移」をみてもわかるように、1990年代までは、上下変動はあるは、ほぼ70%前後かそれを超えていたのである。また、その投票率はそれ以降低下傾向にあるが、「図3:衆議院議員総選挙における投票率の推移(政権交代に絡むものを中心にした一部)」をみてもわかるように、政権交代が関わるなどの重要な局面の衆院選の場合には、国民・有権者の関心が高まったからであろうが、投票率が確実に上昇しているのである。その観点からみると、2012年の衆院選は、若干投票率は上向くが、かなり限定的だった。

より長いスパンから今回の選挙結果をみる必要がある。
より長いスパンから今回の選挙結果をみる必要がある。

 

特に「政権交代」がかかった選挙における投票率の変化・推移が重要だ
特に「政権交代」がかかった選挙における投票率の変化・推移が重要だ

 

 それは、やはり2009年の政権交代までは国民の期待が大きかったのにも関わらず、その後の成果に失望し、多くの国民が政治や改革への期待や意欲をかなり失ってしまったということができるのではないだろうか(注2)。

 その状況を受けての今回の2024年の衆院選挙である。同選挙は、与党自民党の裏金問題などで非常に厳しい批判のなかで行われ、政権交代も起こりうる状況のなかで実施された。実際、与党自公は多くの議席を失い、野党が躍進した。また自民党の裏金に関係した多くの議員が落選した。

 だが、同選挙の小選挙区における投票率は53.85%。2014(H26)年の52.66%、2017(H29)年の53.68%に次いで第二次世界大戦後3番目の低さだったのだ。

 また石破与党政権は、衆議院で過半数を切ったが、相対的な優位のなか、どうやら少なくとも当座政権を維持しそうだ。

 この現状をどのように考えればいいのだろうか?

 筆者は、この状況を次のように考える。

 国民・有権者は、現在の与野党を含め政治全体に対する不信感を高めており、自民党にも不満だが、野党のどの党にも全面的に信頼していない。これは、国民・有権者の、特に2000年代後半以降の政権交代や政権再交代なども含めた政治全体の状況への意識から生まれているのだと思う。

 また先の自民党の総裁選や立憲民主党の代表選でも、両党とも、現在の政治状況を大きく変革する人物や政策・対応の提示もできなかった。

 このような状況を受けて、国民・有権者は、自民党にも野党にも、全面的な期待や信頼を寄せておらず、政治に対して、新しい政治状況や政治体制を模索することを要請したのだ。

 これこそが、今回の選挙結果の意味するところだろう。

 そこで、筆者は、次のように申し上げたい。

 厳しい判断を受けた自公ばかりでなく、野党も、その意味を真摯かつ前向きにとらえて、真剣に今後の政治や政策の可能性を模索し、国民・有権者からの信頼を回復するための努力をしていただきたい。

 そして、私たち国民も、民主主義の最後の砦は自分たち自身であることを自覚し、政治が理想も重要だが現実のなかにあるといいうという事実も理解し、また不穏な国際情勢なども踏まえながら、冷静かつ前向きな判断と行動をしていくべきだろう。

 今こそ、日本の政治の真価および私たち国民・有権者の役割が問われている!

 

(注1)筆者は、今回の衆院選前の状況を「一弱多弱小」と呼んでいた。それは、自民党が強いというよりも(また強い政治を行っていたともいえない)、他の野党が議員数も少なく、弱すぎる状態にあったからだ。

(注2)この点については、次の拙記事参照のこと。

「今の政治不信の淵源は、「2009年の政権交代」にある」Yahoo!ニュース、2024年7月11日

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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