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「三体」から学ぶ、今こそ私たちが必要な思考法とは?

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
私たちは、知らない間にいつのまにか「枠」にはまっているのかも(提供:イメージマート)

 皆さんは、「三体」という小説(注1)やドラマをご存じだろうか?最近話題になっているので、すでに読まれた方や視聴された方々も含めてご存じの方も多いことと思う。

 同作品は、元々中国人民共和国のSF作家である劉慈欣による長編SF小説であり、三部作(「地球往事」三部作あるいは『三体』三部作と呼ばれる)から構成されている。日本語を含む20を超える言語で翻訳され、全世界累計で三千万部以上発行されているといわれる、世界的大ベストセラーとなっている。

 また劉氏は、本作で2015年ファンタジー界のノーベル賞と称されるヒューゴー賞の最優秀長編小説部門賞をアジア人初受賞したりするなど、中国内外の多くの賞を受賞している。そして、バラク・オバマ米国大統領(当時)、メタ・プラットフォームズCEOマーク・ザッカーバーグ、映画監督であるジェームズ・キャメロンなどの多くの著名人が、同作品の愛読者や推薦者などとして名前が挙がっている。

 同作品は、このように世界的注目を集めているが、条件なしでは解はないニュートン力学にある古典的な三体問題をベースにして、異星文明と人類の出会い、文化や技術の衝突、物理学や宇宙の謎などがテーマで、物語は中国の文化大革命時代から始まり、未来に向かって展開されるという、長編・長大かつ壮大である意味難解な作品だ。

 同作品のドラマは、その作品の1部をベースにしており、「シーズン1」の色彩が強く、今後の展開が楽しみだ。ドラマは、テンセント版とNetflix版があり、同じ作品を基にしているが、「ストーリーライン」、「キャスティング」、「視覚効果」、「エピソード数と長さ」などにおいて大きな違いがあり、それぞれ別の作品としても楽しめる。

 このために、「三体」は、小説および2つのドラマの3つの異なるものとして楽しめる作品であるということができる。

 ここまで「三体」について述べてきたが、その詳しい内容について、ぜひ読者の方々に各自楽しんでいただきたいので、本記事で説明するつもりはない。また本記事のテーマは、その作品の内容でもない。

私たちは、既存の思考の枠にはまって考えてしまい、行き詰まることは多い
私たちは、既存の思考の枠にはまって考えてしまい、行き詰まることは多い写真:アフロ

 

 本記事は、小説を読みそしてドラマを視聴して同作品を堪能してきているが、それらから得られた知見を論じるべく、書いているのである。その知見とは、次のようなものである。

・サイエンス(科学)は、真理ではなく、現時点で最も正しいと考えられる仮説にすぎない。

・人間は、自身の知ることや感じること等を真実・真理あるいは「正しいこと」と考えがちであるが、別の視点や立場からすると、それは実は「正しい」ということでなく、別のものである可能性がある。

 要するに、人間は、自己の存在やこれまでの経験・歴史などから制約を受けており、何らかの枠や志向性・思考にはまっていることがあり、その実態や真実は別のものや別のところにある可能性があるということだ。

 それはつまり、私たち人間は、絶えず今の自分や現状に満足してはならず、絶えず問い直していくことが大切かつ必要だということだろう。

 筆者は、その知見から、日本の近年の低迷や閉塞感は、「良い社会であるので、満足してしまっていて、日本の良い面や点と考えてきたことあるいは考えていることが、私たちをある思考や行動の枠にはめているのかもしれない。そのために、私たちは、その枠を超えることができず、結果として現状にいるのではないか。それはつまり、日本の「良さ」こそが、今の日本の問題・課題の元凶なのではないだろうか」と考えるようになった。

 もしそうならば、その状況から脱するには、私たち日本人や日本社会は、今こそ、現状を批判的に考察し、疑問を持ち、現状やその枠を超えて発想すること、つまり「Out of the Box(既成概念から外れて)」的な発想が必要だということだ。それは、本記事的にいえば、「『三体』的発想」が今こそ必要であるということを意味しているのではないだろうか。

 読者の皆さんにも、そのような視点からも、ぜひ「三体」の小説やドラマを楽しみ、味わっていただきたいと思う。「三体」作品は、そんなことも想起させてくれる作品群で、今の日本でこそもっと読まれ、視聴されるべき作品であるように感じる。

 

(注1)小説『三体』については、次の記事などを参照のこと。

『三体(地球往事)』シリーズ読む 順番&あらすじ|Audibleでも聴ける三部作の魅力を解説

(注2)ドラマ「三体」については、次の記事などを参照のこと。

・テンセント版「三体」

*ドラマ「三体」公式サイト 

*中国ドラマ『三体』はどこで見られる?あらすじ・キャスト・スタッフ・原作情報

・Netflix版「三体」

*Netflix実写版「三体」登場人物&キャストを一挙紹介【ビジュアルまとめ】

*Netflix「三体」見た人が裏切られたと感じるワケ…原作ファンも「ゲースロファン」も黙ってない

・テンセント版とNetflix版の相違・比較

*ネトフリ版とテンセント版、二つの「三体」 垣間見える中国事情とは

*ドラマ三体 難しくてわからない? NetflixあらすじとWOWOWテンセント版を徹底比較

*【第58回】Netflixシリーズ『三体』続編制作決定!『三体』ドラマの魅力とは

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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