超多加水自家製麺の衝撃 コロナ禍で生まれた「人生最後のラーメン」とは?
人気ラーメン店主による新たな挑戦
長引くコロナ禍による飲食業界への大きなダメージ。新たな生活様式の浸透によって人々の行動は変わり、外食需要は減少している。薄利多売のビジネス構造の飲食店において客数の減少は死活問題。コロナ禍による飲食店の閉店数は、全国で45,000軒にのぼるという調査結果もある(参考記事:日本経済新聞 2021年10月17日)。
コロナ禍によって力尽きて廃業する飲食店がある中で、新しく開業する店も少なくない。6月22日、本所吾妻橋駅近くに一軒のラーメン店がオープンした。店の名前は『中華そば 麦笑(むぎわら)』(東京都墨田区吾妻橋2-2-4 運営:有限会社PASTO)。「手打ち多加水麺」と「手作りわんたん」を看板に掲げた店だ。
超多加水の自家製麺と手作りわんたん
人気ラーメン店主が新たに挑戦した一杯は、体に優しく美味しいラーメン。麺は店内の製麺室で毎日作る自家製麺。麺を作る上で小麦粉100に対する水の比率を「加水率」というが、中華麺における一般的な加水率は30~35%。しかし『麦笑』の麺の加水率は50%を超える「超多加水麺」だ。
小麦は強力系の「春よ恋」と薄力中力系の「きたほなみ」の2種類の北海道産小麦をブレンドしさらに全粒粉を配合。さらに水は水素水を使用する。「中華そば」(750円)では1日熟成をかけたものを茹でる前にしっかりと手揉みして縮れさせ、「つけそば」(900円)では手揉みをせずストレートの状態で提供する。
ボリューム満点の「特製わんたん麺」
しっかりと水分を含んだ「超多加水麺」は、風味も良くぷりぷりモチモチとした食感が心地良い。「中華そば」と「つけそば」では食感がまた異なるのも楽しい。また肉、海老2種類の手作りわんたんは、餡がたっぷりと入ったボリューム感があるもの。
スープは抗生物質や抗菌性剤が一切入っていない飼料で育てられた特別飼育鶏「つくば鶏」の丸鶏と鶏ガラなどから取ったものと、煮干や昆布、鰹節などの魚介系素材の出汁を合わせたダブルスープ。タレは醤油と塩の2種類があり、いずれも化学調味料は不使用だ。
数あるメニューの中でも特筆すべきは「特製わんたん麺」のボリュームだろう。肉、海老2種類の手作りわんたんが5個入り、チャーシューは低温調理したモモ肉のレアチャーシューと、タレに漬け込んだ肩ロース肉のローストチャーシューの2種類が4枚、さらに大きな角煮と味付け玉子も乗る。
また、サイドメニューも充実しており、八角を使った本格的な「台湾ルーロー飯」(300円)や、削りたての鰹節を乗せた「濃厚卵かけご飯」(250円)なども用意。麺の入っていない「わんたんスープ」(600円)とのセットもある。
「利益よりも体に優しく美味しいラーメンを作りたい」
店主の谷口(やぐち) 雅樹さんは、千葉県で人気ラーメン店『めん吉』や居酒屋『博多酒場 きなっせい』など、飲食店を複数店舗展開している人物。ラーメン店を営んで23年のキャリアを持つ、ベテランラーメン職人である谷口さんの新たな挑戦の背景にはコロナ禍があった。
「コロナ禍によって特に居酒屋業態への打撃は大きく、ビジネス的に考えても前向きになれない気持ちの中で、利益を追い求めるよりも違う形にチャレンジしたいと思うようになりました。そこで、今まで作ってきたラーメンとは一線を画して『本当に体に優しく美味しいラーメンを作りたい』と、この店をオープンしました」(中華そば 麦笑 店主 谷口雅樹さん)
使用する食材は厳選し、化学調味料は一切使わず、卓上に置かれている調味料なども自家製のオリジナル。麺は手間のかかる超多加水の自家製手揉み麺。食材や輸送コストが高騰。さらには年々人件費も上がっており、ラーメン店の多くが値上げを行っている中で、「中華そば」一杯750円「わんたん麺」一杯900円と、かなりリーズナブルな価格設定になっている。
「かさむ人件費については私自らが調理場に立つことで賄います。人生最後のチャレンジとして、利益よりも体に優しく美味しいラーメンを作りたい、ただ美味しいラーメンを味わって欲しいという思いで頑張ります」(谷口さん)
※写真は筆者によるものです。
【関連記事:「職人としての実力で勝負がしたい」 ベテランラーメン職人の新たな挑戦】
【関連記事:「ラーメンが「1,000円の壁」を超えられない2つの理由とは?】
【関連記事:「釜玉中華そば」ってなんだ? 麺を美味しく食べるための新アイディア爆誕!】