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「釜玉中華そば」ってなんだ? 麺を美味しく食べるための新アイディア爆誕!

山路力也フードジャーナリスト
これが『釜玉中華そば』だ!

「釜玉中華そば」専門店が都立大学にオープン

2022年3月オープンしたばかりの『釜玉中華そば ナポレオン軒』(都立大学)。
2022年3月オープンしたばかりの『釜玉中華そば ナポレオン軒』(都立大学)。

 ラーメンの世界にはラーメン以外にも色々なメニューが存在する。麺をつけダレにくぐらせて楽しむ「つけ麺」や、スープが入らずに油とタレだけで味わう「油そば」、細かな具材をタレと一緒に混ぜて食べる「まぜそば」、さらには麺とスープを鉄板で焼き上げる「焼きラーメン」など、ラーメンの世界は実に奥が深い。

 2022年3月、都立大学に出来た新店で、これまでに聞いた事も見た事もないメニューが登場した。その名も「釜玉中華そば」。店の名前は『釜玉中華そば ナポレオン軒』(東京都目黒区中根1-5-1)。ラーメンもつけ麺もなく、メニューにあるのは「釜玉中華そば」のみ。なんなんだ、釜玉中華そばって。

 店の前には説明が書かれている。「美味い麺を作ったら1番美味しい食べ方は釜玉でした。」「釜玉とはゆでたての麺に生卵と醤油を絡めて食べるとてもシンプルな食べ方です。」分かったような分からないような。迷わず喰えよ、喰えば分かるさ、というわけで勇気を振り絞って入店してみた。

メニューには「釜玉中華そば」しかない

釜玉釜玉釜玉と、ゲシュタルト崩壊が起こりそうなメニュー。
釜玉釜玉釜玉と、ゲシュタルト崩壊が起こりそうなメニュー。

 メニューは見事に「釜玉中華そば」のみ。土日には限定でラーメンも出されることがあるようだが、メニュー表にも券売機にも「釜玉中華そば」のオンパレードだ。つまり、この店はラーメン史上初となる「釜玉中華そば専門店」なのだ。だからなんなんだ、釜玉中華そばって。

 麺の量が並、大、小と選べる他、追加の具材として「リッチ(チャーシュー、メンマ)」「辛ネギ」や「お揚げ」「味玉」の他に、これまた聞き慣れぬ「玉袋」なるものがある。

 店長さんにオススメを伺ったところ「リッチ」「玉袋」とのことだったので、言われるがままにそれに従うこととする。何も乗せなければ玉子とネギしか乗ってこないという。

これが前代未聞の「釜玉中華そば」だ

これが「釜玉中華そば(リッチ&玉袋)」だ。
これが「釜玉中華そば(リッチ&玉袋)」だ。

 程なくして「釜玉中華そば(リッチ&玉袋)」が登場した。極太の麺が鎮座しておりスープは麺が浸る程度、その上には生卵、ネギ。そしてリッチトッピングのチャーシューとメンマ。さらに謎の具材「玉袋」は、柚子が香るふっくらしたお揚げの袋中に黄身がとろりとした味玉が入っているものだった。

手打ちうどんの製法で作られた打ちたての自家製麺。
手打ちうどんの製法で作られた打ちたての自家製麺。

 麺はかなりの太さで縮れもあり、モチモチとした食感がクセになる。手打ちうどんと同じ製法で作られており、包丁切りした打ちたて麺の太さは茹でる前でおよそ3mmほど。これを4分半かけて茹で上げる。スープは鰹出汁を利かせた出汁醤油に18種類の食材を煮詰めた濃厚なものを合わせている。存在感のある麺との絡みも抜群に良い。

無料トッピングと替玉で「味変」のオンパレード

卓上にはたくさんの調味料が置かれており、自由にカスタマイズが可能だ。
卓上にはたくさんの調味料が置かれており、自由にカスタマイズが可能だ。

 さらに卓上には「刻みニンニク」「刻み生姜」「味付けキクラゲ」や調味料などが所狭しと置かれており、自分の好きなタイミングで好きなものを入れてカスタマイズすることが出来る。また豚骨ベースの「割スープ」も用意されているので、途中や最後で入れるのも楽しい。

 最初は何も足さずに食べて、途中からニンニクを入れてタレを足して粉チーズを振りかけて胡麻をすって混ぜて食べてみたが、これが思いのほか楽しい。そして次は違う組み合わせを試してみたくなる。

替玉を入れたら煮干しラーメンの出来上がり。
替玉を入れたら煮干しラーメンの出来上がり。

 この「釜玉中華そば」の楽しみ方はこれで終わりではない。とどめはオリジナリティある「替玉」だ。替玉とは麺のお代わりのことだが、同じ麺が出てくるのかと思いきや、なんと出てきた麺は濃厚な煮干出汁に浸った極細麺。これを入れることで、それまでの表情が一変して煮干ラーメンに早変わりするのだ。

 「釜玉中華そば」を食べ終わった時に残ったスープを見て、勿体ないと思い考案したというこの「替玉」。この残ったスープの味は、カスタマイズした人それぞれの味になっている。麺を食べさせる為にはそれなりのパワーが必要なので、濃い目の煮干出汁と合わせたという。

店に来なければ食べられない一杯を出したい

サイドメニューの「おいなりさん」もオススメ。食べ過ぎだ。
サイドメニューの「おいなりさん」もオススメ。食べ過ぎだ。

 この前代未聞のメニュー「釜玉中華そば」を生み出したのは、人気ラーメンチェーン『つけめんTETSU』の創業者であり、現在は『伊蔵八中華そば』『あの小宮』などを手掛けている小宮一哲さん。なぜこのようなメニューが生まれたのだろうか。それには今回のコロナ禍による消費者心理の変化が関係しているという。

 「昨今、メーカーやコンビニのチルド商品のクォリティーも上昇しており、コロナ禍の影響でデリバリーも普及するなど、実店舗の需要が低下している中で、店舗の価値を上げる為にどうすれば良いかを考えていました。

 家庭では食べられない『店でしか食べれないラーメン』とは何かと考えた時に、茹で時間の長い太麺で製麺屋さんの機械では作れない加水率50%の多加水麺であれば、他の店やコンビニ商品などと差別化が出来ると考えたんです。

 そして自信のある美味しい麺が出来て、この麺の美味しさをどう伝えたら良いかと色々試していく中で、うどんなどでお馴染みの『釜玉』の食べ方が一番美味しかったんです。それならばこれでお店を出そうと、系列店でのテスト販売を経てオープンしました」(小宮一哲さん)

 つけ麺でもまぜそばでもない、前代未聞の「釜玉中華そば」は、打ちたて麺を美味しく楽しく一杯で二度も三度も何度でも楽しめるものだった。ラーメン好きもそうではない人も、未知の味をぜひ体感して欲しいと思う。迷わず喰えよ、喰えば分かるさ。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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