「職人としての実力で勝負がしたい」 ベテランラーメン職人の新たな挑戦
6月21日オープンの新店『柳麺マタドール』
6月21日、北千住に新たなラーメン店がオープンする。『柳麺 マタドール』(東京都足立区千住旭町43-13)という店名の新店は、同じく北千住で人気のラーメン店『牛骨らぁ麺 マタドール』(東京都足立区千住東2-4-17)の手掛ける新ブランド。これまで『みそ味専門 マタドール』だった店舗をリニューアルしてのオープンとなる。
『牛骨らぁ麺 マタドール』は、2011年の創業。店主の岩立伸之さんは、独学で料理の世界に入り、その後ラーメンの世界に転身することを決意し、『柳麺 ちゃぶ屋』『麺香房 天照』など数々の人気店で経験を重ね、2010年、埼玉にあったラーメン施設のオーディションで優勝して『牛骨らぁ麺 マタドール』として施設に出店したのを経て、2011年には地元の北千住で路面店として開業した。
業界では珍しかった「牛骨」を使ったスープと、「牛」にこだわったラーメン作りとブランディングで、数あるラーメン店との差別化も成功し、『マタドール』は一躍その名を知られるブランドとなった。しかしながら、今回の『柳麺 マタドール』では「牛」を敢えて封印するという。
複雑な旨味が層を織りなす醤油と塩
『柳麺 マタドール』のラーメンは「醤油らぁ麺」「塩らぁ麺」(各1,000円)の2種類。いずれもベースとなるスープにはゲンコツ(豚大腿骨)と丸鶏、鶏ガラが使われており、従来の『マタドール』の特徴である牛骨は使っていない。
さらに鮭の厚削り節や鰆の煮干し粉など魚介の旨味もプラス。スープの上に浮く香味油に牛と鶏の油が使われており、牛の油の甘味とコクが『マタドール』らしさを演出している。何が突出するでもなく、まろやかで様々な旨味が調和した味わいは、老若男女幅広い客層に受け入れられそうな味わいだ。
麺は『三河屋製麺』の中太平打ち麺で国産小麦を使用。しっとりしなやかな食感でスープをしっかりと引き上げる。丼の半分以上を覆うチャーシューは、箸で持ったら崩れてしまうほど柔らかく仕上げられている。肉厚なメンマの調味や、丁寧に載せられたネギなど、細かなところまで神経が行き届いたラーメンになっていた。
「ラーメン職人としての実力で勝負したい」
豚骨ラーメン、札幌味噌ラーメン、つけ麺など、ラーメン業界にはこれまで多くのトレンドが生まれていった。ここ数年では濁らせない透明な「清湯(チンタン)」と呼ばれるスープのラーメンが人気を集めており、新店の多くが清湯のラーメンを提供している傾向がある。
これまで『マタドール』は「牛」をコンセプトに据えて、敢えてラーメン業界のトレンドに対して異なる価値観を提案して挑んできた。しかし、今回はそのトレンドのど真ん中とも言うべき、清湯ラーメンで新店をオープンしたのには理由がある。
「まずはシンプルに自分が食べたいラーメンを作りたかったというのが大きいです。僕も年齢を重ねてきて、40歳以上の方でも食べられるような、あっさりとしたラーメンにしてみました。
店名に『柳麺(りゅうめん)』と名付けさせて頂いたのは、大切な修業先である『柳麺 ちゃぶ屋』(閉店)へのリスペクトから。そして修業先のお店に負けないようなラーメンを作る、という思いも込めています。
僕はこれまで長いことラーメンを作り続けてきました。自分で言うのもなんですが、ラーメン作りの技術に対しても自信があります。『清湯ラーメン』は、ごまかしがきかないラーメンで、作り手の実力の差が現れるラーメンだと思っています。今回はそこで勝負をしてみたいと思いました」(『柳麺 マタドール』店主 岩立伸之さん)
修業先へのリスペクト、そしてラーメン職人としてのプライド。これまでのラーメンへの想いが一杯の丼の中に込められている。荒々しさがなく、円熟の極みのような、押し付けがましさのない「優しい美味しさ」が際立つラーメンが完成した。やはりラーメンはその作り手の生き様が投影される食べ物なのだ。
「今まで牛縛りでラーメンを作って来ましたから、制約がないラーメン作りが楽しくて仕方ないんです。味噌ラーメンがなくなってしまい、残念に思われているお客様も多いのですが、どこかのタイミングで限定メニューとして出せれば良いなと思っています」(岩立さん)
※写真は筆者によるものです。
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