【今日は韓国の何の日?】79年1月9日 朴正煕政権が日本人特派員に強制退去命令 「韓国から去れ」
1979年1月9日、朴正煕政権下の韓国政府法務省が当時の毎日新聞ソウル特派員の前田康博記者(当時43歳)に強制退去(出国)命令を下した。さらに翌10日、毎日新聞の韓国内での配布を禁止した。
大統領閣下にとって何がお気に召さなかったのかと言うと…1978年12月27日に行われた自身の第5期目となる大韓民国第9代大統領就任式を「毎日新聞」に叩かれたこと。
その前日、12月26日に毎日新聞が記事にした。当然のごとく日本語で、日本国内で発行されたものに独裁者は強く反応したのだ。
- 日本メディアに叩かれた韓国第9代大統領就任式
1979年1月10日の「朝鮮日報」は内容をこう紹介している。
「法務省は(前年12月26日の)毎日新聞の記事について、(朴正煕氏の)大韓民国第9代大統領就任に先立ち、韓国の国内情勢を悪意的に歪曲報道し、友邦国家元首の就任式を冒涜したとする。韓国の政権を不正に批難し、ごく一部の意見をまるで大多数の韓国国民の考えであるかのように報じたのだ。またその一部勢力の活動を先導・支援する内容を掲載したことにより、大韓民国の国是に違反する行動を行った。よって出入国管理法第12条3号と同法50条3号による強制退去命令を下した」
毎日新聞が指摘したのはその「独裁ぶり」だ。朴正煕大統領は1961年5月に軍事クーデターを起こし、翌62年3月に実権を握った。その後、再選を禁止する憲法の改正などを行い、4期15年在職していた。
このうち第3期(1971年7月1日-72年12月26)の末期、72年10月17日に非常厳戒令である「大統領特別宣言」を発令。韓国では「10月維新」とも呼ばれた。さらに第4期(72年12月27日-78年12月26日)では「維新体制」として独裁色を強化していた。
これを批判した前田記者は76年3月15日から韓国に赴任していた。79年1月までに6度の警告を韓国政府から受けていたという。「朝鮮日報」の前出の記事では、9日に退去命令を受けた前田記者が、12日までの出国延期を申し出たところまでが報じられている。
- 大統領特別宣言当時の映像。KBSは「冬の時代の始まり」と伝える
当時、朴正煕独裁政権下での「ターゲット」は毎日新聞だけではなかった。時の政権は日本の他新聞の報道にも敏感になっていた。
2009年1月9日の「オーマイニュース」は、2007年に韓国国家情報院が発表した報告書の内容をこう伝えている。
「1974年1月当時、(韓国政府)文化広報省は日本の新聞が韓国の維新体制(独裁体制)を誹謗する内容を報道しているという理由により『今後このような事項については、緊急措置によって明確に処理する』と発表した。朴正熙政権の『緊急措置1号(72年12月の憲法改正で生まれた大統領の非常大権)』を外信記者にも同様に適用するという宣戦布告だった」
その矛先は、当時、北朝鮮の主席と対談した日本の大手新聞にも向けられた。
「その後、朴正煕政権は言葉通り『明確に処理した』。1975年5月、米国石油メジャー企業が、当時(韓国の)与党であった共和党に巨額の裏金を提供したというニュースを報道した日本の新聞の国内配布を禁止とした。また1977年5月には『読売新聞編集局長と金日成の面談内容が問題』として、読売新聞ソウル支局を閉鎖させ、ソウル特派員を韓国から追い出した」
休暇中に
韓国の「国家権力による日本メディアでの介入」でたちが悪いのは、2010年代にもこれが起きていることだ。
朴正煕元大統領の娘である朴槿恵前大統領の時代の出来事だ。司法から日本メディアの報道にペナルティが与えられた。
2014年8月7日、ソウル中央地方検察庁が当時の産経新聞加藤達也ソウル支局長(現内閣情報調査室情報分析官)の韓国出国禁止処分を決定した。
今度は「出ていくな」と。
発端は8月3日に同紙ウェブサイトに2014年4月16日のセウォル号沈没事件の際、事件発生直後の朴槿恵大統領の所在が謎、と記したコラム。
「空白の7時間」として韓国でも有名な話であり、当時加藤支局長は自身の韓国証券界隈での噂や朝鮮日報の記事を引用してこれを記した。
記事に対して朴槿恵大統領の熱烈な支持者(右派市民団体)が加藤元支局長を名誉毀損罪で告訴したのだ。加藤元支局長は結局、翌2015年4月14日まで出国を許されない行政処分が下されていた。
当時、加藤氏を現地で取材した。ご本人は韓国文化、言語に造詣が深く、韓国側の対応を”斬る”のに朝鮮半島の言い伝えや故事成語を多く使っていた点が印象的だった。また加藤氏の顔を知るソウルのご老人たちから「つらいだろうけど頑張って」と励まされる姿も目にした。
2022年1月、今もなお同様の問題が起きている。
文在寅政権が2021年1月に設置した「高位公職者犯罪捜査処」が、毎日新聞、朝日新聞、東京新聞のソウル支局記者の個人情報を照会していたことが発覚。1月4日の「朝鮮日報」がこれを報じた。
「毎日新聞ソウル支局が(政権側に対し)『新聞社は取材源を保護する義務があり、(公捜処による個人情報収集は)言論の自由を脅かす懸念がある』として、照会理由の説明を求めたのに対し、公捜処(政権側)は『捜査上の必要があるため、やむを得ず要請した。マスコミの取材活動を査察するためではない』と回答。どのような事案に関連して捜査上の必要が生じたかについて、具体的には明らかにしなかった」
この件については筆者自身にも韓国メディアから問い合わせが来ており、メディア側の関心の高さを感じさせる。今後大統領選を揺るがすニュースになっていくだろうか。
国家権力がメディアに抗議以上のプレッシャーをかける。それも海外メディアに。韓国ではこれが、かたちを変えて45年以上続いているのだ。
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