1994年のきょう「朴賛浩がドジャース入団合意」 後年語っていた野茂との縁「彼がいたからこそ…」
94年1月8日、朴賛浩（パク・チャンホ）がメジャーリーグのロサンゼルス（LA）ドジャースと契約合意に至った。テスト入団ではない、球団側からオファーを受けての韓国初のメジャーリーガー誕生だった。入団発表は1月11日だったが、韓国ではこの日を「事実上の入団決定」とするメディアも多い。
メジャー通算17年で124勝。
なかでも最初の所属チームであるドジャースでの4年目、97年から01年までの5年間で平均15勝の活躍を見せた。00年にはキャリアハイの18勝。95年から3年半、野茂英雄ともチームメイトとなった。
- 94年、ドジャースロッカールームでの朴賛浩。0分19秒あたりから本人のキャリアを振り返る映像も
今の日本の大谷翔平のように、韓国で一時代を築いたプレーヤーだった。筆者自身、97年にソウルで暮らしていたことがあるが、登板時の試合中継ではソウル駅に常設されるテレビに人だかりが出来ていた。
1973年7月28日生まれ、忠清南道公州市出身。高校時代は「二刀流」として知られ、1年時から4番打者として公式戦4打席連続ホームランなどを記録していた。いっぽう投手としてはスタミナ面に不安があり、やや評価が低かった。
高校3年時に韓国の高校世代の代表チームとしてアメリカに遠征。この時にメジャーリーグへの憧れを抱くこととなる。高校時代、地元のピングレ・イーグルス（現ハンファ）からドラフト指名を受けたが、両親の反対もありソウルの漢陽（ハニャン）大に進学した。
大学時代には課題も克服し、「92年入学組」として林仙東（イム・ソンドン／1995年にダイエーホークスへの入団叶わず）、趙成珉（元巨人など）とともに（日本でいう）「三羽ガラス」として注目を集めた。
- 若き日の朴賛浩の映像
大学2年時の93年7月、ユニバーシアード・バッファロー大会参加のため渡米。この時の好投から、すでにメジャー複数球団と接触されたとされる。
しかし入団までトントン拍子とはいかなかった。兵役が未了だったため、ビザの発給で紛糾したのだ。当時はまだ20代の韓国男性の海外渡航ですら韓国当局が敏感になる時代。解決策は「留学ビザ」の利用だった。LAにある「ウエストコースト大学経済学科に在籍」という形式を取り、学生の身分を作った。当時、メジャーリーグには「学生ビザで入国した選手の入団も可能」という規定があり、初交渉から半年後の94年1月に解決へと至った。一旦学生の身分を作る、という手法はコリアンJリーガーなどにもよく見られるものだ。かつて京都サンガでプレーした朴智星は大阪経済法科大学に在籍した。
その後のキャリアでは「背番号61」が象徴として知られたが、じつは本人は当初「16」を熱望していた。高校、大学時代に着けた思い入れのある番号だったのだ。しかし94年当時ドジャースのこの番号はコーチが着けており、韓国の大学生に譲渡される状況ではなかった。このため逆にした61を着け、大成功。本人も後年「誇らしい番号」と口にしている。
その16番は、奇しくも1年後の95年に入団した野茂英雄の元に渡った。そしてふたりは、メジャーリーグのロッカールームで隣同士となる。朴は当初、自分より後に入団してすぐに大活躍した野茂に「ずっと嫉妬していた」という。しかし横になった途端「ずっと付いて回って、仲良くなった」と。
2013年7月、韓国「MBC」のバラエティ番組に出演し、ドジャース時代の思い出をこう口にしている。
「近くにいて、彼の偉大さを実感する日々でした。まあチームメイトからはよく比較されていましたけど！ 僕のロッカーの前には、韓国のスポーツ新聞が分厚く積み重なっていた。特派員の方々が、掲載紙を渡してくれるのです。しかし野茂のロッカールームの前には…スポンサーだったのか、日本のメーカーからプレゼントされた電化製品が山積みだったのです。野茂は時にこれを他の選手にあげたりしていました。みんな野茂のことを大好きになりますよね！ ピッチングも素晴らしいわけで」
「当時、アメリカのメディアからも野茂と比べられる質問が多くありました。記事になると…自分は小さな存在として扱われていました。まあ何より羨ましかったのは、野茂にはいつも女性ファンからファンレターが来ていた。でも僕には…おじさんなんですよね。よく球場で『おい、チャンホ、こっちに来い』と呼ばれて…」
- 韓国でも野茂の活躍は敬意を払われ報じられている
いっぽうで、野茂英雄の存在が本人のキャリアの支えであったとも。
「ドジャース当時、自分が野茂より優れているものは何かと考え…ひとつだけありました。若さです。彼より6歳若い。そして『お互いが引退した時にどうなっているか、考えよう』と誓いました。僕のほうがチャンスが多いと思った。若い分、長く続けられる可能性があると。苦しい時期にも選手生活を続けられたのは、野茂の存在があったからです」
メジャー通算勝利数は、野茂が123勝、朴が124勝。いっぽう、両者はついぞメジャーのチャンピオンリングには手が届かなかった。
朴賛浩はドジャースの後、レンジャース、パドレス、ヤンキースなどでプレー。2010年のパイレーツでのプレーを最後にアメリカを離れ、翌年は日本のオリックスに移籍した。さらに2012年は自国のハンファ・イーグルスにキャリア晩年を捧げ、現役を引退した。
現在はサンディエゴ在住でパドレスの球団特別顧問を務めている。
（了）
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