閑散期の11月で一味違うホテルフェアは地域性に何が加えられているのか?
イベントシーズンに挟まれた11月
11月は飲食店にとって難しい時期です。10月はここ数年かけて盛り上がっているハロウィーンがあり、12月は忘年会とクリスマスが重なって1年で最も忙しくなります。
しかし、11月は、10月のハロウィーンが終わった後であり、12月の忘年会とクリスマスの前であることから、あまり消費が伸びません。
場所や業態にもよりますが、2月と8月は飲食店の閑散期と言われています。これに加えて、大きなイベントシーズンの間に挟まれた11月も閑散期として挙げられることが多いです。
昨年は、こういった時期のプロモーションとして、注目コラボレーションを行うホテルのレストランや、旬の最高級食材である白トリュフを扱うフランス料理店を紹介しました。
今年は以下のように、地域性に付加価値を加えたホテルのフェアが目を引きます。
- 日本/高級グルメバーガー
ストリングスホテル東京インターコンチネンタル
- デンマーク/原点
帝国ホテル 東京
- スペイン/一流ホテルによるローカル要素
ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町
日本/高級グルメバーガー
グルメバーガーのブームはまだ続いており、「UMAMI BURGER(ウマミバーガー)」「THE COUNTER(ザ・カウンター)」など、海外から新しいハンバーガー店が上陸しています。
11月5日に来日したアメリカのドナルド・トランプ大統領が「マンチズバーガーシャック」を食べて報道されたこともあり、再びハンバーガーが注目されてもいるのです。
ホテルは洋食のイメージが強いので、グルメバーガーのブームにのり、ここ数年ハンバーガーに力を入れています。ラウンジやオールデイダイニングではもちろん、ステーキハウスやビストロでも高級なグルメバーガーを提供して、ニーズに応えているのです。
グルメバーガーに力を入れるホテル
ハンバーガーで有名なホテルを挙げると以下の通りになります。
- オーク ドア@グランド ハイアット東京
- セリーズ@コンラッド東京
- トレイダーヴィックス@ホテルニューオータニ
- ビブ@アンダーズ東京
- メトロポリタングリル@ヒルトン東京
- ザ・ステーキハウス@ANAインターコンチネンタルホテル東京
- ザ・ロビーラウンジ@シャングリ・ラ ホテル 東京
今では多くのホテルが季節によって新しいグルメバーガーを生み出し、競争はますます激しくなっていると言えるでしょう。
その中でも、特に目を引くホテルのグルメバーガーがあります。
それは、ストリングスホテル東京インターコンチネンタル「ザ・ダイニング ルーム」で2017年9月1日から11月30日にかけて提供されている「宮崎県産45日間熟成 黒毛和牛サーロインと松茸のステーキバーガー」です。
熟成した黒毛和牛と松茸
黒毛和牛と松茸が使われていることからも分かるように、1万円(税・サービス料は別途)という価格設定で、昨今話題のグルメバーガーや多くのホテルで提供している高級バーガーの値段を上回っています。
特筆するべきことは、黒毛和牛を熟成させていることです。通常、黒毛和牛は霜降りであり、そのまま食べるのがおいしいとされていますが、あえて熟成させることによって、他の食材と一緒に食べるハンバーガーの中でも存在感を示しています。惜しげもなく、ステーキ並の200gというボリュームを提供していることも驚きでしょう。
その熟成させた黒毛和牛に負けないようにと、バンズにはしっかりとした食感の自家製カイザーゼンメルが使われています。松茸はグリル、素揚げ、天ぷらと、様々な調理方法を用いており、秋の味覚を存分に堪能してもらいたいというサービス精神が感じられます。
単なるハンバーガーではない
コンディメントは赤ワインソース、フランス・ブルターニュ産ゲランの塩、ワサビ菜漬けの3種。ナイフにはナイフの名産地であるラギヨール村の「ラギヨール アン オブラック」を提供しています。
豊富なコンディメントやブランドのナイフは、単なるハンバーガーではないという意志の表れでしょう。
バンズにはローズマリーを刺して、もともと高さのあるハンバーガーをより高く見せて、インスタ映えするように工夫しています。
徹底的に高級路線
洋食料理長の佐々木良三氏は「高級バーガーの第1弾となったのは、夏に提供したトリュフのハンバーガー。高級食材を使ったハンバーガーは反響があったので、日本の秋の味覚である松茸を使ったハンバーガーを使い、徹底的に高級なグルメバーガーを作りたいと考えた」と述べますが、10月の1ヶ月間だけで40ものオーダーがあったということは超高級グルメバーガーの需要があったことの証左でしょう。
黒毛和牛の熟成肉、松茸のデクリネゾンに、圧倒的な空間をホテルの空間、ラギヨールのナイフと、他との差別化がしっかりと図れていれば、競争の激しいグルメバーガーでも注目を浴びるはずです。
デンマーク/原点
帝国ホテルは、日本におけるホテルの先駆けであり、高級ホテルおよび一流ホテルの代名詞となっています。
近年では、インバウンド獲得のため、国外でのさらなる知名度向上図って、海外の一流ホテルやレストランとのコラボレーションを行っています。
帝国ホテルの料理と言えば、日本におけるフランス料理の黎明期を牽引してきた、元総料理長の村上信夫氏(故人)やミシュランガイド1つ星「レ セゾン」から連想されるように、フランス料理というイメージがあります。そのため、フランス料理に関係したコラボレーションは想像がつきやすいものです。
しかし、最近では台湾やタイをテーマとしたコラボレーションを行うなど、幅を広げており、あの帝国ホテルで台湾料理やタイ料理が食べられるのかと話題になりました。
そういった流れの中で、今度は、日本とデンマーク外交関係樹立150周年を記念して2017年11月1日から30日にかけて「デンマークフェア」を行なっており、居心地のよい時間や空間を何よりも大事にするデンマーク人の文化「hygge(ヒュッゲ)」を体現しています。
デンマークフェア
このフェアには感慨深いものがあります。
実は、帝国ホテルに日本で初めてとなるブッフェレストラン「インペリアルバイキング」が1958年にオープンする際に、村上氏が研修へ訪れたのがデンマークのコンペンハーゲンだったのです。そして、「デンマークフェア」は1980年代に行われて以来、約30年もの時を経て、ようやく再び行われることとなりました。
駐日デンマーク大使館が後援し、デンマークのコペンハーゲンとボーンホルム島にあるミシュランガイド1つ星レストラン「カドゥ」のヘッドシェフを務めたこともあるミケル マーシャル氏が監修。
デンマークでよく食べられている豚肉とよく飲まれているビールを使った「豚ばら肉のビーツ添え 黒ビールのソース」やチェリーソースと砕いたウェハースを合わせた「バジラジェラート デンマークの伝統的なソースを添えて」など、本格的なデンマークの料理とデザートが10種類以上も用意されています。
ブッフェならではの魅力
帝国ホテル 東京 レストラン部次長の宮原謙一氏が「ブッフェレストランであれば、色々な料理やデザートを提供できるので、海外の料理のフェアを開催するのにちょうどよい。お客様に色々なものを召し上がっていただける」と説明するように、ブッフェであれば、海外の料理をたくさん紹介することができます。
「インペリアルバイキング サール」料理長の白鳥真樹氏は「ミケル氏と何度もやりとりし、ブッフェで提供するのに相応しいレシピができあがった。ミケル氏が来日した時に試食してもらい、一回目でOKをもらった。料理もデザートも本物の味を再現しているので、是非とも多くの方に食べていただきたい」と自信のほどを述べます。
ラウンジやホテルショップでも
帝国ホテル 東京では、「インペリアルバイキング サール」ではもちろん、他の施設でも「デンマークフェア」が開催されています。
ホテルショップ「ガルガンチュワ」では6種類のデニッシュが詰め合わせになった「ミニデニッシュアソート」や北欧名物のミートボールを使った「ミートボールのショートパスタ」などを販売し、自宅でも北欧の味を楽しめるようになっています。
「インペリアルラウンジ アクア」では、オープンサンドイッチやデザートに、北欧デンマークならではの食材を取り入れた「デンマークアフタヌーンティー」を実施し、「ランデブーラウンジ・バー」では3種類のミニデニッシュとドリンクの「デニッシュペストリーセット」やデンマークで親しまれているドリンクをヒントにしてアレンジした4種類のドリンクを用意しています。
デンマークを原点とした「インペリアルバイキング サール」だけではなく、ラウンジやホテルショップにおいても、食で注目されている北欧フェアを行う帝国ホテルは、ますます世界の美食を広めていると言えるでしょう。
スペイン/一流ホテルによるローカル要素
ホテルは幅広い層のゲストをもてなす必要があるので、あまり変わった料理のジャンルを提供することができません。
そのため、王道のフランス料理、寿司や鉄板焼などを含む日本料理、<ホテルの中国料理フェアがうまくいかない理由。成功しているフェアはどれか?>でも述べたように日本人にとって最も馴染みのある外国料理の中国料理、さらには若い女性に一番人気があるイタリア料理といった料理が多くなっています。
同じヨーロッパであったとしても、ホテルでフランスとイタリア以外の料理を食べられることはあまりないのです。
このような状況にあって、食の世界で最先端と言われているスペイン料理でガラディナーを行ったホテルがあります。
それは、ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町です。
ホテルでは珍しいスペイン料理のガラディナー
2017年11月15日から17日にかけて、最上階に位置する「All-Day Dining OASIS GARDEN(オールデイダイニング)」では、スペイン・マヨルカ島にある「カスティロホテル・ソンヴィダ,ラグジュアリーコレクションホテル,マヨルカ」エグゼクティブシェフであるファン・ロペス ペレス氏を招聘した「“ファン・ロペス ペレス”美食の夕べ」が行われました。
「カスティロホテル・ゾンヴィダ,ラグジュアリーコレクションホテル,マヨルカ」は、マヨルカの中心地パルマ市街を一望できる丘の上にある13世紀に建てられた古城ホテルで、世界中から旅行者が集まります。
そして、今回のガラディナーでは、以下のように、日本ではあまり食べられないマヨルカ風のスペイン料理が振る舞われました。
- ラマレット風トマトを詰めたエアバケット “Joselito" 生ハムとアルベキーナ種オリーブのキャビアロリ
- アーモンドクリームスープ マヨルカ産 “PALO TUNEL" の香りとグレープ
- クリーミーフォアグラ キャロブ豆のクランブル “HATAKE"
- 鳩の胸肉 “フリト・マヨルキン" バジルのキャビアロリ
- リンゴとセロリのシャーベット マスタード風味のスポンジ
- オマール海老とパスタパエリヤ サフランのアイオリ
- “Joselito" イベリコ豚のロティ チェリーとマロンのピューレ
- クリーミーキャロット フェンネルのアイスクリーム
- フォンダンショコラ “CASTILLO HOTEL" スタイル
マヨルカ島は本土から離れているので、最先端のスペイン料理とはまた少し異なった趣があり、オリーブオイルをよく使うことに加えて、アーモンドやラードがよく用いられています。
マヨルカ風のスペイン料理
伝統あるスペインのホテルとコラボレーションできたのは非常に素晴らしいことですが、これにはどのような背景があったのでしょうか。
ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町は東京で初めてマリオット・インターナショナルの最上級カテゴリー「ラグジュアリーコレクション」に加盟し、2017年7月にオープンしましたが、2007年に加盟した「カスティロホテル・ゾンヴィダ,ラグジュアリーコレクションホテル,マヨルカ」とコラボレーションしたいと、当初から考えていたのです。
それが実を結んで2017年5月頃に企画が確定してファン・ロペス ペレス氏にメニューを依頼し、7月中旬頃の試食を経て内容が決まりました。
これだけ大きなフェアであれば通常は1年近くかかるところですが、僅か半年程度で完成しているので、スピード感を持って物事が進んでいったと考えてよいでしょう。
ローカル要素を取り入れたガラディナー
総料理長の高橋慶太氏は「このガラディナーのためだけにスペインに4泊してしっかりと料理を学んできたので、プリンスホテルのチームが主に調理しているが、味を再現できている」と述べ、「ファン氏は素晴らしい人柄なので、それが料理にも伝わり、日本人の口にも合うはず」と説明します。
このガラディナーでは、ザ・プリンス パークタワー東京のエグゼクティブ チーフソムリエである市村義章氏など、プリンスホテルの優秀なソムリエが集められてサービスしていることからも、プリンスホテルがいかに力を入れているのか、よく分かるでしょう。
<今最も信頼されている食のアワード「世界のベストレストラン50」を知る>でも述べたように、ここ20年にかけて食の革新を続けてきて注目されたスペイン料理に、一流ホテルによるマヨルカのローカル要素を取り入れて、他のホテルと差別化を図れたガラディナーとなっているのです。
反響を受けて、今後も引き続きコラボレーションのガラディナーを実施していく予定となっています。
地域性+アルファ
ホテルの11月のフェアを紹介してきましたが、これら3ホテルに共通するのは地域性+アルファであると考えています。
ストリングスホテル東京インターコンチネンタルでは松茸や黒毛和牛といった日本の高級食材にグルメバーガーを、帝国ホテル 東京では縁のあるデンマークの料理やデザートを、ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町では現地の最高級ホテルによるローカル色を携えたスペイン料理をと、地域性に何かが加えられているのです。
繁忙期はどのようなホテルや飲食店でも客は入るだけに、課題となるのは閑散期です。閑散期にこそ、注目され、食べてみたいと思ってもらえるようなフェアを行うことが非常に重要であるのではないでしょうか。