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日台の名門ホテルによる食コラボレーションの背景

東龍グルメジャーナリスト
帝国ホテル「ザ・シャーウッド台北フェア」

帝国ホテルのコラボレーション

日本におけるホテルの先駆けである帝国ホテルは、「ナポレオン3世妃が愛した旧宮殿、ホテル デュ パレを帝国ホテルで味わう1週間」「日仏名門ホテルが紡ぐ「ル・ロワイヤル・モンソー ラッフルズ パリ ウィーク」とは?」でも紹介したように、世界の様々な伝統あるホテルとコラボレーションを行っています。

いずれとも、帝国ホテルが日本へ根付かせてきたフランス料理に対するコラボレーションとなっています。「村上信夫を知らずして食通を気取るな【グルメ偉人伝】」でも紹介している初代総料理長の村上信夫氏や、厚生労働省から2015年度「現代の名工(卓越した技能者)」に選出された現在総料理長である田中健一郎氏のイメージもあるだけに、帝国ホテルの料理はフランス料理という印象が強いのではないでしょうか。

テープカット
テープカット

その帝国ホテルが今回初めて、西欧ではなくアジアのホテルである「ザ・シャーウッド台北」とコラボレーションし、「ザ・シャーウッド台北フェア」を行うこととなりました。

総料理長の田中氏をもってして「帝国ホテル史上で初めての試み」と言わしめ、インペリアルバイキング サール料理長である白鳥真樹氏が「日本語と中国語が飛び交う国際的な厨房」と語ります。帝国ホテルで初めてとなるアジアのホテルとのコラボレーションはどういったものなのでしょうか。

ザ・シャーウッド台北とは

ふかひれ姿入壷蒸しスープ
ふかひれ姿入壷蒸しスープ

まず、コラボレーションを行うザ・シャーウッド台北とはどのようなホテルなのでしょうか。

ザ・シャーウッド台北ホテルは台北に1990年オープンしました。歴史はそれほど古くありませんが、台湾で初めて5つ星を獲得した最高級のホテルであり、国内外の政界・ビジネス界の名士から愛されています。

中洋折衷の美が表現された美しい内観と、中華料理と西洋料理のすばらしさを融合した中洋折衷料理で高い評価を得ており、1992年と1996年にはイギリスのサッチャ-元首相が、1993年にはアメリカのブュシュ元大統領が夫人と共に宿泊したほどです。

「週刊ホテルレストラン」での総支配人アキム・フォン・ヘイク氏のインタビューにもあるように、レストランはクオリティ向上のために世界からミシュランシェフを招聘しており、9年連続で三つ星を獲得している日本料理「かんだ」の神田裕行氏が度々指導に訪れたりしています。

客層の割合は、最も多いのはアメリカで28%、さらにはヨーロッパからも25%と、半分以上が欧米人です。ザ・シャーウッド台北は、本場の欧米にも十分に通用し、台湾で存在感を示すホテルとして認識されているのです。

両ホテルの関係

トマトの台湾梅酢漬け
トマトの台湾梅酢漬け

ザ・シャーウッド台北と帝国ホテルはコラボレーションを行うことになりましたが、この関係は昨日今日によって築かれたものではありません。

25年程前、会長の小林哲也氏が宿泊部長であった頃に、手掛けたレディースプランの利用者が3万人を突破しました。それを記念して台湾ツアーを企画し、提供した台湾での宿泊先がザ・シャーウッド台北だったのです。きめ細やかで心地よいサービスを提供するザ・シャーウッド台北の「旅先の我が家」というモットーは、枕一つとっても客の好みに合わせる帝国ホテルの哲学とよく合っていました。これを機にして両ホテルの関係が始まり、20年以上も前から、スタッフの人材交流を行なったり、料理人や菓子職人が技術を学び合ったりしてきたのです。

そして、昨年2015年に、帝国ホテルが125周年、ザ・シャーウッド台北が25周年となり、両ホテルにとってよい節目となったことを背景にし、互いに何かできないかと思案した結果、このコラボレーションの企画が持ち上がりました。

ジャスミンガーデン

烏龍茶風味クリスピーチキン
烏龍茶風味クリスピーチキン

帝国ホテルでは、どういったフェアが行われるのでしょうか。

帝国ホテル 東京では2016年7月4日から10日にかけて「インペリアルバイキング サール」で、帝国ホテル 大阪では2016年7月13日から19日にかけて「ジャスミンガーデン」で、共にザ・シャーウッド台北のメインダイニングである中華レストラン「怡園(イーユエン)」の料理を楽しめます。

ジャスミンガーデンでは、上品な味付けが魅力の「卵白と蟹の炒め」、たっぷりのコラーゲンが加えられた「ふかひれ姿入壷蒸しスープ」といった怡園の珠玉のメニューをコースやアラカルトで提供します。帝国ホテル唯一の直営中国料理レストランであるジャスミンガーデンにとって、怡園とのコラボレーションは、まさにぴったりのフェアであると言えるでしょう。

インペリアルバイキング サール

インペリアルバイキング サールはどうなのでしょうか。

普段フランス料理を提供しており、関係の深い「ハレクラニ ホテル」とのフェアでハワイ料理を提供したり、「イタリアンフェア」でイタリア料理を提供したりもしましたが、実はまだ中国料理を提供したことがありません。

それが、怡園の名物料理である「牛肉麺」やジューシーな鶏肉を烏龍茶の葉とともにローストした「烏龍茶風味クリスピーチキン」、さらにはジャスミンティーのカロイが口に広がる「ジャスミンゼリー」など、料理からデザートまで中国料理が並べられるのです。

1958年から始まる帝国ホテルのバイキング史上初めてのことであり、何かしらの節目となることには違いありません。

トスカーナ

一方、ザ・シャーウッド台北では2016年9月28日から10月10日にレストラン「トスカーナ」で「帝国ホテルフェア」を行います。レストランで料理を提供するだけではなく、ラウンジやバーで帝国ホテルのアフタヌーンティーやカクテルも提供するという力の入れようです。

台湾にいながらにして、帝国ホテルのメニューを存分に味わえる内容となっていると言えるでしょう。

帝国ホテルからザ・シャーウッド台北ホテルへ

薄切り豚肉 もやし巻 にんにくソース
薄切り豚肉 もやし巻 にんにくソース

料理についてはもちろんですが、人材交流についても注目したいです。

帝国ホテルでフェアを行うにあたって、怡園の料理長である高鋼輝(コウ・カンフェイ)氏が日本へ招聘されてメニューを考案しました。高氏は、2016年5月20日に台湾総統となった民主進歩党(民進党)の蔡英文氏の総統就任式で、腕を奮ったほどの料理人です。

反対に、ザ・シャーウッド台北でフェアを行うにあたっては、帝国ホテルから、総料理長の田中健一郎氏やシェフパティシエの望月完次郎氏がザ・シャーウッド台北へと赴きます。

コラボレーションを行う際に料理人が招聘されることは全く珍しいことではありませんが、料理長だけではなく、総料理長やシェフパティシエも含めたレベルで、双方に人材を送り合うことは稀なことです。両ホテルにとって大きな人材交流に発展しており、コラボレーションへの意気込みが窺えます。

日本と台湾

ジャスミンゼリー
ジャスミンゼリー

日本政府観光局(JNTO)統計データによると、台湾からの訪日人数は、2010年に約127万人だったのが2015年には約368万人となり、3年で5倍にも増加しました。訪日台湾人へのアンケートでは、再訪については「必ず行きたい」が66.9%となっており、観光・レジャー目的で来訪した人の77.8%はリピーターで、台湾における日本の人気ぶりが窺えます。

一方、Skyscanner(スカイスキャナー)の調べによると2015年の夏休みの旅行先で4位、「All About」の記事では2016年の注目1位、「地球の歩き方」でも2016年海外人気旅行で第4位、「エクスペディア」では2016年ゴールデンウィークの海外人気旅行先で1位となるなど、日本でも台湾が安定した人気です。

今回のフェアの目的は、それぞれの地で効果的にプロモーションを行うためということですが、実際のところ日本と台湾は互いに多くの人が往来しており、既に十分な交流があります。従ってこの次のステップとしては、帝国ホテルとザ・シャーウッド台北のように、格式があって高いブランドを誇るもの同士の交わりによって、文化を伝え合い、関係性の質を高めていくのがよいのではないかと私は考えています。

元記事

元記事もご参考にしてください。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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