一生に一度は味わいたい超高級食材、白トリュフを使う理由とこだわり
この時期の高級食材
この時期に食べられる旬の高級食材と言えば何を思い浮かべますか。
中国料理では「食すべき最高の旬、人気の上海蟹レストランが日本へ初上陸」でも紹介した上海蟹、日本料理では松茸が挙がると思いますが、フランス料理では何と言っても白トリュフです。
黒トリュフのフェアを行うフランス料理店は少なくありませんが、白トリュフとなるとフェアを行うフランス料理店はぐっと少なくなります。というのも、白トリュフは黒トリュフよりも香りが強くて甘美的であり、熱狂的なファンがいるものの、黒トリュフの何倍もの値段がかかり、仕入れるにはリスクが高いからです。
しかし、それでも、日本でその素晴らしさを広めようと、白トリュフのフェアに力を入れているフランス料理店があります。白トリュフのフェアを行った経緯やこだわりは何でしょうか。
ベージュ アラン・デュカス 東京
ミシュランガイド2つ星を獲得している「ベージュ アラン・デュカス 東京」では2016年11月2日から27日に今年の「コレクション・ベージュ」最終回となる「冬のコレクション」“白トリュフの誘惑”を行っています。また、2016年11月4日の一日に限り、20名限定で白トリュフのコースにシャンパーニュを合わせる特別ディナー「白トリュフ特別コースとシャンパーニュペアリング 」を行いました。
「ベージュ アラン・デュカス 東京」は、私でさえ知っている言わずと知れたファッションブランド「シャネル」と、当時史上最年少でミシュランガイド3つ星を獲得したアラン・デュカス氏がコラボレーションして2004年に誕生したフランス料理店です。
コレクション・ベージュ
この「ベージュ アラン・デュカス 東京」は以前から季節になると白トリュフを使った料理を提供していましたが、白トリュフフェアとして全面に押し出したのは2015年の「コレクション・ベージュ」冬のコレクションからでした。
「コレクション・ベージュ」は2015年に開始したイベントで、2015年は春夏秋冬に、2016年は春夏冬に開催しました。今年は秋のコレクションが行われませんでしたが、その理由は、白トリュフの旬を考えた結果、秋と冬の間に「コレクション・ベージュ」を行った方がよいとなり、それが冬のコレクションとなったからです。この冬のコレクションは秋と冬のどちらの旬も楽しめる贅沢なフェアになっていると言ってよいでしょう。
「コレクション・ベージュ」のコンセプトは「ファッションの世界で、最高級の素材を一つ一つ集めて熟練の縫い子や職人が一枚のドレスを仕立てることになぞらえ、ガストロノミーにおいても、料理のオートクチュールとして、小島景 総料理長がよりすぐった食材を集めて、会期のためだけにコースに仕立てるフェア」ということです。
確かに、フランス料理のオートクチュールであれば、白トリュフはこの時期には欠かせない最高の食材なので、冬のコレクションのテーマに据えたことは自然なことでしょう。
開催期間を約1ヶ月に
昨年も冬のコレクションに「白トリュフフェア」を行いましたが、今年は開催期間が3日間から約1ヶ月と大幅に長くなっています。理由を問うと、総料理長である小島景氏は「白トリュフの旬はこの時期だけです。白トリュフのための特別コースであるので、もっと多くのお客さまに食べていただきたい」と回答します。
冬のコレクションでは「シェフおまかせコース」が白トリュフコースに置き替わっていることからも分かるように、小島氏が自信を持っているフェアなのです。
小島景 総料理長
小島氏は、アラン・デュカス氏に「私の料理哲学を最も理解する日本人料理人」と言わしめ、「ル・ルイ・キャーンズ-アラン・デュカス」エグゼクティブ・シェフであり、デュカス氏の右腕であるフランク・セルッティ氏から「自分とまったく同じ感性を持つ」と信頼を寄せられている料理人です。
そして、自身の思い入れとその質の高さから、鎌倉野菜に惚れ込み、鎌倉の市場へ毎日通うために住居を鎌倉に定め、毎朝鎌倉で買い求めた野菜を1時間半もかけて、この銀座にある「ベージュ アラン・デュカス 東京」まで運んで来るという、妥協なき哲学をもった料理人です。
白トリュフに合わせた料理
小島氏は創意工夫に優れた料理人でもあります。エゾアワビを使っていることに関しては、「白トリュフは海藻に合うのではないかと思ったが、ワカメでは合わない。それなら海藻を食べているアワビではどうかと考えた」と閃きを述べ、エゾアワビと同じく日本の食材であるノドグロを用いたのは、「白トリュフは生で食べるものなので、温かいものと相性がよい。しかし、温かいものばかりでは飽きてしまうため、前菜のノドグロは少しだけ炙った」と論理的に説明します。
プレゼンテーションについても、「白トリュフは削って料理の上にかけるので、平面的な方が美しく映える。そのため、聖護院大根を縦に薄くスライスしたが、平面過ぎてもつまらないので、丸めて起伏をつけた」と白トリュフならではの見せ方にこだわっているのです。
白トリュフは特別な食材
小島氏にどの皿がスペシャリテやお勧めであるかを尋ねると「全ての料理に等しく魂を吹き込んでいるので、どれが特別ということはない」と真摯に答えます。
「フランスでは白トリュフが届いたら、シェフが真っ先に箱を開けに行っていた」と述懐し、「フランス料理にとって白トリュフは特別な食材。新たなアイデアが思い浮かんで形は変わるかもしれないが、白トリュフフェアはこれからも開催したい」と力強く話す小島氏の「白トリュフフェア」は、来年以降も目が離せません。
キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ
「【ミシュラン/最高級食材】食べる芸術、キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロが魅せる白トリュフ」でご紹介したように、ハイアット リージェンシー 東京「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」では白トリュフフェアに力を入れています。
この白トリュフフェアは、もとを辿ればエグゼクティブ シェフであるギヨーム ブラカヴァル氏が日本でも多くの人に白トリュフを味わってもらいたいという想いから、白トリュフフェアを開催したいと強い要望を出したことがきっかけでした。
その願いが叶い、2012年から白トリュフフェアが開始され、現在に至るまで定評を得ています。
白トリュフを増量
2016年は10月中旬(ランチは6日、ディナーは13日)から「白トリュフフェア」を行っており、その時の収穫状況やクオリティによって変更はあるものの、だいたい12月上旬までは開催される予定です。
今年の白トリュフは質がよくて量にも恵まれたこと、それだからこそ、より多くの人に白トリュフを堪能してもらいたいということから、昨年は4800円(税・サービス料は別途)で3gだった白トリュフのトッピングを、今年は同じ値段で4gに増量しています。
ランチコース、ディナーコースに加えて、アラカルトにも白トリュフをトッピングできるのは他ではあまり見掛けらないでしょう。
秋が薫るプレゼンテーションに
昨年に比べて、白トリュフのトッピングがより良心的になったほか、プレゼンテーションも変わりました。
テーブルに着くと最初に白トリュフを見せてもらえます(匂いを楽しませてもらえると表現した方が正しいかも知れません)が、今年は宝石をイメージしてガラスの容器に入れられています。
周りには落ち葉や栗が配され、秋の薫りも十分に感じさせるようになったのです。
料理のプレートは、白トリュフに合わせて白いものを用意し、白トリュフと自然に調和するように仕上げています。
白トリュフへのこだわり
実は、今年になって白トリュフの仕入先も変わりました。
ブラカヴァル氏やシェフ・パティシエであるミケーレ・アッバテマルコ氏は常に少しでも質の高い食材がないかどうかを日々探しており、毎年使用しているこの白トリュフも例外ではありませんでした。
より質の高い白トリュフを提供するところが見付かったので、仕入先を変更することにしたのです。
白トリュフについては質にこだわっているだけではなく、その取り扱いにも気を遣っています。提供している全ての料理や白トリュフのことを知悉した料理人だけが白トリュフを最適にスライスできるという考えから。白トリュフをスライスするのはブラカヴァル氏とシェフである大滝実氏の2人だけとなっているのです。
デザートまで白トリュフを
白トリュフは前菜や魚料理、肉料理だけではなく、デザートにまで使われています。フランスの定番デザートである甘いお米のリゾット「リオレ」にたっぷりと白トリュフをスライスしたり、甘いパスタのデザートに白トリュフを載せたりしているのです。
最初から最後まで白トリュフを体験できることから、メニューの表記も変更しました。以前まではアヴァンデセールにはそのデザートの名前を記載していましたが、アヴァンデセールは味の切り替えの節目ということで、「塩から砂糖」を意味する「セルからシュクレ」と表記しています。
白トリュフへの造詣が深まっている
メートル・ド・テルである丸野仁氏は「常連のお客様の中には、白トリュフの香りだけで、そろそろ旬が終わりそうだとおっしゃる方も増えてきた」と客が白トリュフに造詣が深くなってきたというエピソードを語り、広報担当も「例年、白トリュフフェアの後は黒トリュフフェアを行うが、トリュフ通のお客様が増えてきたこともあり、その合間の12月中旬から白と黒トリュフフェアを行うことも考えている」とアイデアを述べます。
これは日本でも白トリュフへの認知と経験が高まってきたということであり、2012年から行っている白トリュフフェアがひとつの実を結んだということに他ならないのではないでしょうか。
白トリュフによる食文化の交流
「ベージュ アラン・デュカス 東京」や「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」のような影響力のあるフランス料理店が、これからも白トリュフフェアを行うことにより、フランスやイタリアで、ワインやチーズと同じ以上に大切にされている白トリュフを通し、食文化の交流を図ることができるのではないかと思います。