今最も信頼されている食のアワード「世界のベストレストラン50」を知る
2017年「世界のベストレストラン50」発表
2017年4月5日にオーストラリアのメルボルンにあるロイヤル・エキシビション・ビルディングで「世界のベストレストラン50」が発表されました。
発表されたのはメルボルン時間で4月5日20時、日本時間で4月20日19時となるので、おそらくこの記事は日本で最も早く、かつ、包括的で詳しい記事となるのではないでしょうか。
今年の「世界のベストレストラン50」のトップ3は以下の通りです。
「イレブン・マディソン・パーク」が初めて連続で1位を獲得して、「オステリア・フランチェスカーナ」の連覇を阻止しました。「イレブン・マディソン・パーク」は2016年「世界のベストレストラン50」で3位を獲得しており(2015年は5位、2014年は4位)、独特の演出と多彩な15皿ものコース料理が有名な予約のとれないレストランです。
また、日本のレストランでは、常連の18位「NARISAWA」に加えて、45位に「傳」が初めてランクインしていることが大きな話題となっています。
「世界のベストレストラン50」から派生
この「世界のベストレストラン50」は、2017年2月21日に発表された日本人にはより身近な「アジアのベストレストラン50」および「ラテンアメリカのベストレストラン50」のもとを成すアワードです。
「世界のベストレストラン50」は世界という枠であまりにも規模が大きいので、レストランが多いアジアとラテンアメリカに焦点を当てた「アジアのベストレストラン50」と「ラテンアメリカのベストレストラン50」が2013年に新たに始められました。
その後、どちらとも着実にそれぞれの地域で注目され、食のムーブメントを起こしてきたのです。
健闘した日本のレストラン
2017年「アジアのベストレストラン50」でランクインした日本のレストランは以下の通りでした。
- 6位 NARISAWA(南青山)
- 7位 日本料理 龍吟(六本木)
- 11位 傳(神宮前)
- 12位 レフェルヴェソンス(西麻布)
- 14位 フロリレージュ(神宮前)
- 18位 カンテサンス(北品川)
- 26位 鮨 さいとう(六本木)
- 34位 HAJIME(肥後橋)
- 50位 TAKAZAWA(赤坂)
アジアという広い地域を対象にした「アジアのベストレストラン50」で、日本のレストランが9つも入っているのは素晴らしいことでしょう。
2016年から始められた「アート オブ ホスピタリティ賞」には冒頭でも紹介し、11位にもランクインされている「傳」が選出されています。
「世界のベストレストラン50」の1位から50位の発表に先駆けて、2017年3月28日に発表された51位から100位には、「日本料理 龍吟」が52位に、「鮨 さいとう」が97位に、「フロリレージュ」が99位にランクインしています。
ちなみに「アジアのベストレストラン50」で1位を獲得した「ガガン(Gagan)」は「世界のベストレストラン50」で7位に輝いています。
アワードの概要
ところで、「アジアのベストレストラン50」および「世界のベストレストラン50」はどのようなアワードなのでしょうか。
概要は以下の通りです。
アジアのベストレストラン50
- 2013年に開始
- アジアを6の地域に分割
- 1地域に53人の審査員
- 全部で318人の審査員
- 審査員の割合は、料理人34%、フードジャーナリスト33%、食通のトラベルジャーナリスト33%
- 毎年新しい審査員は30%
- 地域の評議委員長(チェアマン)が審査員を任命
- 審査員は匿名
- 評議委員長も投票
世界のベストレストラン50
- 2002年に開始
- 世界を26の地域に分割
- 1地域に40人の審査員
- 全部で1040人の審査員
- 審査員の割合は、料理人34%、フードジャーナリスト33%、食通のトラベルジャーナリスト33%(「アジアのベストレストラン50」と同じ割合)
- 毎年新しい審査員は25%
- 地域の評議委員長(チェアマン)が審査員を任命
- 審査員は匿名
- 評議委員長も投票
審査員は人数が多い上に職種がバランスよく決められているので、調理技術だけではなく、話題性だけでもなく、様々な視点から投票されます。
毎年、少なからぬ審査員が入れ替わるので、レストランと関係が密接になり過ぎることも防いでいるでしょう。
投票に関するレギュレーション
投票に際するレギュレーションは以下の通りです。
アジアのベストレストラン50
- 1人7票持っており、優先順位をつけて投票
- どのレストランに投票したかは極秘
- 利害関係のあるレストランへの投票は禁止
- 3票は自地域以外のレストランに投票しなければならない
- 18ヶ月以内に訪問したレストランに投票しなければならない
- 自分で支払って訪問する
世界のベストレストラン50
- 1人10票持っており、優先順位をつけて投票
- どのレストランに投票したかは極秘
- 利害関係のあるレストランへの投票は禁止
- 4票は自地域以外のレストランに投票しなければならない
- 18ヶ月以内に訪問したレストランに投票しなければならない
- 自分で支払って訪問する
利害関係のあるレストランへの投票禁止はもちろん、自地域以外にあるレストランへも投票しなければなりません。
18ヶ月以内に訪問したレストランにしか投票できない上に投票の際に何月何日に訪れたのかも記すので厳格です。
公平性や透明性が高い
以上のレギュレーションを鑑みる限り、「アジアのベストレストラン50」および「世界のベストレストラン50」は、他のアワードと比べても公平性や透明性が高いと言えるのではないでしょうか。
審査員はミシュランガイドと同じように覆面ですが、ベストレストラン50では評議委員長は明確に公表されています。
地域が限定されている「ミシュランガイド」や「ゴー・ミヨ」に比べれば、より広範囲が対象となっているので網羅性が高いと言えるでしょう。
特別賞
ベストレストラン50では、ランキングだけを発表しているわけではありません。
「アジアのベストレストラン50」では2015年に「フロリレージュ」が選出された「注目のレストラン賞」、2016年に「レストラン エスキス」の成田一世氏が、2013年と2014年に<新宿NEWoMan(ニュウマン)にデザートバーをオープンした天才ジャニス・ウォンとは誰なのか?>でも紹介したジャニス・ウォン氏が選出された「アジアのベストパティシエ賞」、「アジアの最優秀女性シェフ賞」、前述の「アート オブ ホスピタリティ賞」など、いくつかの賞も設けられています。
「世界のベストレストラン50」では「アジアのベストレストラン50」と同じように、<世界の最優秀パティシエ賞とは?ピエール・エルメがデザートのフルコースを提供する理由とは?>でも紹介した「世界の最優秀パティシエ賞」や「世界の最優秀女性シェフ賞」があります。また、<知らないと恥ずかしい、食のサステナビリティ>でも紹介した「サステナビリティ」をテーマとした2013年から始まった「環境社会貢献レストラン賞」や「コンチネンタルレストラン賞」などがあり、これらは「アジアのベストレストラン50」にはありません。
こういった特別賞も、審査員がレストラン名を記入して決定するので公平性があります。
ランキングだけで表現できない部分も評価しようとしていることは素晴らしい姿勢なのではないでしょうか。
「世界のベストレストラン50」トレンド
概要が分かったところで、「世界のベストレストラン50」のトレンドを簡単におさらいしてみます。
ここ最近の流れは主に3つとなります。
「エル・ブジ」黄金期
まず最初は、スペインの「エル・ブジ(El Bulli)」が2002年、2006年から2009年に1位(2003年2位、2004年3位、2005年2位、2010年2位)を獲得したエル・ブジ黄金期。
閉店する2011年まで上位の常連であり、分子ガストロノミーを世界中に広く知らしめました。
「ノーマ」全盛期
次はデンマークの「ノーマ(Noma)」が2010年から2012年、2014年に1位(2009年3位、2013年2位、2015年3位)に輝いたノーマ最盛期。
「ノーマ」は独特の解釈を加えた新北欧料理を提供し、日本でも重要視されている地産地消を大切にしています。
首位攻防が熾烈な時期
そして最後は、スペインの「アル・サリェー・ダ・カン・ロカ」が2013年と2015年に1位(2011年、2012年、2014年、2016年は2位)、イタリアの「オステリア・フランチェスカーナ」が2016年に1位(2013年、2014年が3位、2015年が2位)となった、首位攻防が熾烈な時期。
「アル・サリェー・ダ・カン・ロカ」はカタルーニャ料理と分子ガストロノミーが融合した料理を提供しています。
「オステリア・フランチェスカーナ」はモダンではありますが、伝統をとても大切にしています。これまで1位を獲得したことのある他のレストランと比べれば、古典的ともみなされがちなイタリア料理ということもあり、だいぶクラシックに感じられるでしょう。
こういった状況の中で、冒頭で紹介したように「イレブン・マディソン・パーク」が初めて1位を獲得したことによって、これからはヨーロッパからニューヨークへと注目が集まるのではないかと考えられます。
日本の評議委員長は中村孝則氏
さて、以上まで、私見も交えて整理してきましたが、「世界のベストレストラン50」を運営する側はどのように考えているのでしょうか。審査員は匿名で明かすことはできませんが、前述の通り、評議委員長は公表されています。
そして、日本の評議委員長を務めているのは、英国の本部から任命され、2013年から職務に就いている中村孝則氏。
中村氏は、料理や酒に関してはもちろん、ファッション、文化、旅行に造詣が深く、剣道や茶道にも通じた稀有なジャーナリストです。
世界の全レストランが対象
「世界のベストレストラン50」の特徴を問うと、中村氏は「他のアワードは特定の地域のレストランだけを対象にしているが、『世界のベストレストラン50』は世界に存在する全てのレストランを対象にしている」と他の食のアワードとの大きな違いを挙げます。
続けて「審査員にとってベストなレストランを投票する。従って、料理人や料理だけを評価するのではない」と審査の基軸について触れ、「レストランそのものに投票するので、ただおいしいというだけで評価されることは難しい。おいしいことに加えて、楽しめることや居心地がよいこと、何よりも素晴らしい体験ができることが重要」と、レストランが持つ魅力全てを評価していると語ります。
SNSでの発信力も重要
他にはない特徴として、「レストランが自ら発信する力も必要」と述べ、どういうことなのか訊くと、「審査員は世界中にいるので、SNSで新しい情報を伝播したり、英語でプレゼンテーションしたりすることによって、常に存在感を訴求することも非常に大切」と答えます。
これに絡めて、日本の2つのレストランが2017年「世界のベストレストラン50」にランクインしたことについては「日本は英語圏ではないし、概して日本人はプレゼンテーションが控えめ。そういった状況でも、日本のレストランがランクインしているということは、日本の食がいかに世界から評価されているかが分かる」と評議委員長ならではの見解を述べます。
中村氏の話をもってすると、投票過程における公平性や透明性を大切にし、本質的なレストランでの体験そのものを重視し、現代風のSNSが影響する「世界のベストレストラン50」は、今の時代に最も相応しい食のアワードであることが理解できるでしょう。
日本での開催の意義
世界の食を知る中村氏は「日本はどこも安全である上に、食べ物は安心においしく食べることができる。近い将来『世界のベストレストラン50』が日本で開催される可能性が高い」と興味深い話を展開します。
「世界中から注目が集まり、審査員や多くの食通が訪れるだけに、日本での開催は非常に意義がある。訪日したインフルエンサーたちが日本のレストランで食し、その素晴らしさを世界中に正しく伝えてくれる」と「世界のベストレストラン50」の大きな影響力について述べます。
中村氏の見立ては非常に示唆的であり、2017年「世界のベストレストラン50」の結果について「2016年の開催地がニューヨークであったことが、『イレブン・マディソン・パーク』にとって有利に働いたはず。地理的にニューヨークから離れたイタリアにある『オステリア・フランチェスカーナ』や日本の『NARISAWA』は非常に健闘したと考えられる」と冷静な分析をします。
ラ・リスト
「世界のベストレストラン50」は比較的新しいですが、つい最近始められた食のアワードもあります。それは、フランス政府が主導して、2015年12月17日から毎年発表している「ラ・リスト (La Liste)」です。
これは明らかに新たな手法で年々勢いを増してきている「世界のベストレストラン50」を意識したものでしょう。
このことからも「世界のベストレストラン50」の影響力が強まっていることは分かります。
食のアワードの中でも注目したい「世界のベストレストラン50」
食に対する様々な評価基準がありますが、私は食の評価に正解はないと考えています。
それだけに、食に対する評価がこの世の中にたくさん存在し、多様な評価を参考にしてレストランを選ぶことができるのはよいことであると思っているのです。
しかし、そう思っている私でさえ、僅か15年でここまで存在感を増している「世界のベストレストラン50」は、数ある食のアワードの中でも特に信頼できると考えているので、是非多くの人に知っていただきたいです。