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リモートの部下の人的つながりを増やす〜今、上司に必要な仕事のデザイン力とは

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(提供:イメージマート)

コロナ禍で導入企業が大幅に増えたテレワークですが、最近はマネジメントの難しさやコミュニケーション量の減少などを理由に、出社中心の働き方に戻す会社も増えています。

リクルートマネジメントソリューションズが2月に公表した調査結果を見ると、生産性や社員の帰属意識などを高めるのに、やはり人的つながりが重要であることが分かりました。しかし、リモートワークが必ずしも社内外の人的なつながりを希薄化するわけではないことも確認されました。

リモートワークという働き方も取り込みつつ、組織の力を高めるには何が必要なのか。これからの働き方において必要なマネジメント力について、同社の藤澤理恵さん(組織行動研究所 主任研究員)に聞きました。

※以下、調査で使用されている言葉に合わせて「テレワーク」と記載しますが、「リモートワーク」と同じ意味です。

藤澤理恵氏 写真提供:リクルートマネジメントソリューションズ
藤澤理恵氏 写真提供:リクルートマネジメントソリューションズ

社内外の濃いつながり、薄いつながり、それぞれが仕事生活に良い影響をもたらす

——公表された「人的つながりに関する実態調査」とは、どのような調査だったのでしょうか?

4種類の人的つながり 画像提供:リクルートマネジメントソリューションズ
4種類の人的つながり 画像提供:リクルートマネジメントソリューションズ

働く個人の人とのつながりを、「会社の内か外か」「関係が濃いか薄いか」の2軸で分類した4種類に分け、それぞれのつながりが仕事生活にどう影響しているのかを見ました。

その結果、4種類に共通する効果もあれば、特徴的な効果もありました。

4種類の人的つながりの仕事生活への影響 画像提供:リクルートマネジメントソリューションズ
4種類の人的つながりの仕事生活への影響 画像提供:リクルートマネジメントソリューションズ

まず「社内×濃い」つながりである「職場内のつながり」が、仕事生活への良い影響が一番幅広くありました。生産性など仕事上の成果にも、会社への愛着を高めて孤独感を下げるという心理的な側面でも効果があり、さらには理念への共感や貢献したいという気持ち、自分が役立っているという実感、居心地の良さといったコミュニティとしての会社に所属している感覚に対し、他の3つのつながりよりも効果がありました。

大事なのは、これに上乗せするような効果が、他の3つのつながりにもあったということです。

今回「社内越境のつながり」と呼んでいる「社内×薄い」つながりは、仕事を前に進めるとか仕事の理念に共感する、意味を感じられるといった点で上乗せの効果がありました。

「社外越境のつながり」と呼んでいる「社外×薄い」つながりには、アイデアを仕事に持ち込むといった点で効果があり、それが自分が役に立っているという感覚にもつながっているようです。会社への愛着が高まる効果も見えています。これは、外とのつながりがあることで、自分の会社の良い部分が見えるということなのでしょう。

最後に「社外×濃い」つながりである「家族・友人とのつながり」は、あまり仕事の生産性などには関係ないように思えます。でも意外とそうでもなくて、会社への愛着や生産性を緩やかに上げる効果があったり、孤独感を低下させる弱い効果が見られたりしました。仕事外の生活も仕事に影響する面があるのだと確認できたわけです。

——4つのつながりはどれも、「あった方が望ましい」と考えて良いのでしょうか?

そうですね。「職場でのつながり」がベースとしてある状態で、ほかの3つのつながりもあれば、より効果があると考えられます。

ただ、「社外でのつながり」があることと、会社での孤独感が高いということには関係が見られました。孤独感を感じるから社外につながりをつくるのか、社外とのつながりがあるから社内の人とは違う自分を感じるのか、どちらが原因でどちらが結果なのかは分かりません。「職場内でのつながり」には孤独感を下げる効果があるので、社外でつながりをつくる人は、社内の人との関係づくりも大事だということが言えるかもしれません。

テレワークが人とのつながりを低下させるとは限らない

——今回の調査では、テレワークの頻度も社員の出社率も、人とのつながりの活性度合いにあまり影響がないという結果が出たんですよね?

はい。直近半年間のテレワークの頻度とコロナ禍前後での人との関わりの変化を聞いたところ、テレワークの頻度が同じ層でも関わりが増えた人、減った人、変わらない人が混在していて、特定の影響は見られませんでした。

テレワークの頻度のほかに社員の出社割合も聞いていますが、どちらも4種類の人的つながりの活性度には影響を及ぼしていませんでした。

——職場内のコミュニケーションの取りづらさなどからテレワークを縮小する会社もあることを考えると、意外な結果です。

そうですね。調査では、職場や他部署の人々と関わる必要が多いような「関係的な職務デザイン」が、4つのつながりの活性化に最も大きな影響を及ぼしていました。ほかに、社員同士の雑談を増やすなど会社側の施策の影響もあります。こういった施策を組み合わせることで、テレワークでも人との関わりを増やすことができるのだと思います。

4種類の人的つながりへの影響要因 画像提供:リクルートマネジメントソリューションズ
4種類の人的つながりへの影響要因 画像提供:リクルートマネジメントソリューションズ

——テレワークでつながりが薄くなってしまった……と感じている場合でも、単純に出社に戻すのではなく、他のやり方でつながりを増やせる可能性があるということですね。

職場で、つながりを作ろう、維持しようとしているかどうかが重要です。また、今回の調査では確認できていませんが、同じ職場でも人によってやりやすいとか、やりにくいとか感じ方が違うかもしれません。同じように内向的な人でも、オンラインだからますます会話の機会を作りづらいという人もいれば、テキストでやり取りする機会が増えて自分のペースで意見を伝えやすくなった、という人もいると思うんです。

逆に、日頃から人の気持ちを読んで場の空気を盛り上げることが得意な人は、オンラインになって不安や孤独感を感じている可能性もあります。対面からオンラインになることで、以前とは違うケアが必要になっているのではないでしょうか。

——確かに。働き方が変わって課題が生まれていないか、個別に確認してケアする必要があるんですね。そういう意味では、経営者や管理職が「対面の方がやりやすかった」と自分の感覚だけで働き方を決めてしまっているケースもありそうです。

上に立つ人ほど社員一人ひとりと会話をする時間がないので、職場を見渡してみんなの状況を確かめたいという感覚もあるでしょう。ひとりで色々なテーマを抱えているから、「君、あれはどうなってる?」と必要なときに聞ける状態の方が効率が良いということもあります。こういったことから、対面の方がやりやすいと感じやすい側面はあると思うんです。

ただ、データを見ると色々な感じ方をしている人がいることが分かります。自分の直感や経験が全てではないという事実を、いったんは謙虚に受け入れる必要があります。

その上で、やはり対面でコミュニケーションする機会が必要であれば、何日かはそういう日をつくるといった工夫の仕方はありますよね。

大事なのは人と関わる仕事をデザインすること

——4種類の人的つながりに一番影響を与えていたのは「関係的な職務デザイン」だったというお話でした。社内外の人と関わりながら進めていくような仕事の仕方を増やすことで、人的つながりの活性化が期待できるということですよね?

そういうことです。

——「そういうタイプの仕事は、テレワークの人には難しい」と考える人もいるのではないでしょうか?

かつては「一人でできる作業はテレワークで、ミーティングはリアルで」という切り分け方がありましたよね。今はオンラインでコミュニケーションできるツールもかなり進化しています。関係的な職務をお願いしづらいと考えている人は、テレワークでできる仕事について、認識のアップデートが追いついていないのかもしれません。

——テレワークでもできるはずだ、ということですか。

これからジョブ型への転換といった話もある中で、上司は「こういうふうに仕事をしてほしい。これが成果である」と事前に職務のデザインをして示していくことがより必要になっていきます。

特にテレワークでは、上司と部下は必要にかられてコミュニケーションを取るけれど、部下同士の横の連携がなくなって仕事がうまく進まなくなることがリスクです。そうならないように事前にデザインし、「同僚のこの人、あの人と一緒にやってね」とか、「これについては○○部の誰々さんと一緒に考えてね」とか、「テレワークであっても、ここまで期待しますよ」といったことを最初にセットする。これはいろいろな資源が見えている上司の手腕になると思います。

——テレワークだとリアルタイムには見られないから、事前に伝えておくことがより重要ですね。

そうです。上司がひとりでハブになってパンクするより、部下の横のつながりや部署を超えたつながりで仕事が進むようにすることがとても重要です。

——特に新入社員の段階からテレワークだと、同僚との連携の仕方や、他部署の人への協力の求め方など、先輩や上司のやり方を見て知るということができません。与えられた仕事をひとりで完結しなければ、と思ってしまう人もいるかもしれませんね。

コミュニケーションの仕方が分からないというのは、中途入社の人も同じですね。実際、弊社に転職した方に「テレワークで困ることは?」と聞いたら、「社内の偉い人にどんなふうに話しかけるのかがわからない」と言っていました。確かに、役職が上の人にとても丁寧に接するのか、フランクに話しかけるのかといったことは、会社によって違いますよね。仕事で困ったときの相談をどのレベルで誰にしたら良いのかというのも、周りの人のやり方を見られない状況で判断するのは、とても難しいだろうと思います。

——上司や同僚のミーティングに同席するなど、テレワークでも“見て覚える”機会を作るような工夫が必要かもしれません。

「この人からアイデアをもらったら良さそう」と思えるくらいの、非公式なつながりと公式なつながりの間のつながりが社内外にあるといいですよね。それを先輩や上司が意識して作るような取り組みが必要だと思います。

仕事は「タスク」と「スキル」と「人との関わり」でできている

——お話を伺って、コロナ禍を機に働き方が変わった今、マネジメントの仕方も変わるタイミングなんだと感じました。

そうですね。「人とのつながり」は仕事のリソースであり、それを増やしたり活用したりできるようにデザインすべきものなんだ、という点はアップデートすべき考え方のひとつだと思います。

——「人とのつながり」は仕事を進める上で必要な資源だと。

はい。実は仕事はタスクとスキルだけでできているのではなく、人との関わりでできているものなんだということです。仕事はそこまでデザインし得る、あるいはデザインすべきだと意識することが、とても大事だと考えています。

——人と人との間に化学反応が生まれるのを楽しんだり、誰かと誰かをつなげるような役割に喜びを覚えるような人は、これからのマネージャーに向いているかもしれませんね。重要なお話をありがとうございました。

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フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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