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緊急事態宣言で急なテレワーク 最も気をつけるべきことは

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(提供:kagehito.mujirushi/イメージマート)

二度目の緊急事態宣言発令に伴い、対象地域の企業は「出勤者数の7割削減」への協力を要請されています。急にテレワークを命じられて戸惑ったり、「仕事がやりにくくなるなぁ」と感じたりしている方もいるのではないでしょうか。

積極派と消極派でテレワークの実力に大きな差が生まれている

昨年1度目の緊急事態宣言の発令時に慣れない在宅勤務を行い、「自宅でも意外と仕事ができる」「移動時間が節約できて効率的」などメリットを感じた人もいる一方で、仕事のやりにくさを感じた人もいるでしょう。

オフィス勤務が当たり前だった職場でテレワークを始めると、様々な課題にぶつかります。特にコロナ禍では、会社も社員も十分な準備ができていない状態で急にテレワークを始めることになりました。自宅の環境や業務の内容によっては、「会社(または現場)に行かないと埒が明かない」という状況になった人も多いと思われます。

実際、1回目の緊急事態宣言発令中の昨年5月に「自宅での勤務で効率が下がった・やや下がった」という人の合計が66.2%にのぼったという調査結果も出ています(日本生産性本部 第1回「働く人の意識調査」)。

だから、緊急事態宣言の際に一時的に上がったテレワーク実施率が、解除後に下がっていったのでしょう。

テレワークの実施率(日本生産性本部「第3回 働く人の意識に関する調査」の結果を元に筆者作成)
テレワークの実施率(日本生産性本部「第3回 働く人の意識に関する調査」の結果を元に筆者作成)

しかし、同じ調査を7月と10月にも行った結果を見ると、「効率が下がった」という回答が減少し、10月には「効率が上がった・やや上がった」の合計が50.5%と過半数になります。テレワークを続けている企業あるいは個人において、課題に対する対策や工夫が進んできている様子がうかがえます。

自宅での勤務効率が上がったか(日本生産性本部「第3回 働く人の意識に関する調査」の結果を元に筆者作成)
自宅での勤務効率が上がったか(日本生産性本部「第3回 働く人の意識に関する調査」の結果を元に筆者作成)

世の中には積極的にテレワーク中心の働き方にシフトしている会社もあり、そういう会社はテレワークの課題を克服する工夫や投資を重ねてテレワークの実力を高めています。一方、消極的な会社はテレワークを「やむを得ない臨時対応」としか考えず、コストをかけてまで様々な課題を解消してこなかったでしょう。その場合、再びテレワークをすれば昨年と同じように効率低下に悩まされることになります。

テレワークで生じる3つの課題

企業がテレワークを導入する時に生じる課題は、大きく3種類に分けられます。

  1. テレワークのための環境(1人1台のモバイルPCがない、社員の自宅に仕事をできる場所や通信環境がない、など)
  2. 業務のプロセスやルール(社外に持ち出せない情報、印刷や押印が必要な書類がある、など)
  3. オンラインでの協働・コミュニケーション(相手が目の前にいない状態での共同作業やマネジメントが難しい、組織の一体感が薄れる、不信感や孤独を感じる、など)

日常的にテレワークを続けていく場合はもちろん、緊急事態のときにできるだけ業務を滞らせないようにするためにも、これらの課題を潰しておく必要があります。あるいは、どうしても解消できない課題を見極め、「◯◯の業務については、出社できないときは中止」とか「◯◯の業務については、交代で出社して行う」といった対応を予め決めておくのが正攻法のやり方です。

ただ、テレワーク消極派の会社では、前もっての準備をする間もないままに2度目の緊急事態宣言を受けてテレワークを始めざるを得ないところも多いと予想されます。

テレワークビギナーの会社、個人にとって一番大事なこと

準備不足の状態では、「何が課題か」ということも洗い出せていないことが多いはずです。

「家では集中できない」とか「部下がちゃんと仕事しているのかわからない」とか「イノベーティブなアイデアが出づらい(気がする)」とか、漠然とした不満や不安は感じる。でも、テレワークを止めて元の働き方に戻すことで問題を回避しようとしてきたため、どこに原因があってそういう不満や不安が生じているのか、ということが分析されていないのです。

そういう会社では、まずは「準備不足」を認め、「テレワーク初心者なんだから、いつものように仕事が進まなくて当たり前」という前提をみんなで共有しましょう。そして、テレワーク中に生じた困りごとや不満、不安などをどんどん出し合い、文句を言って終わらせるのではなく、みんなで対処していくことが大事です。

例えば「テレワークになって困っていること」というテーマでアンケートを取ったり、チームでブレストしてみたり、あるいは1on1で不安や不満を聞き出したり、様々な機会を作るのです。

よく「個人が自律していないとテレワークは成り立たない」とか「テレワークでは性善説で社員を信じて任せよう」という話を聞きますが、それまで自律的な働き方など求められなかった職場で、急にそれを求めてもうまくいきません。

「テレワークなんだから、自律してね。成果で評価するからね」と仕事を丸投げし、最終的なアウトプットを見て「こんなんじゃダメだ」と言うのでは乱暴すぎますし、組織の生産性にも響きます。

メンバーが自律的に仕事をする、上司がそれに適したマネジメントをする、という状態に至るまでには時間がかかるのです。それまでの間は、むしろリモートだからこそ、仕事の目的やできあがりのイメージがすり合っているか、途中のプロセスが間違っていないか、といったことを丁寧に、高頻度で確認するようにすべきです。

そして、ミスや遅れなどがあってもそれを攻めるのではなく、「なぜ、テレワークではこういう問題が生じてしまうのか」という視点で一緒に対応を考えるのです。その結果、テレワークに適したツールを導入する、コミュニケーションの方法や頻度を変える、業務の手順を変えるなど、様々な改善案が出てくるでしょう。その改善案を試し、うまくいけば本格的に取り入れ……ということを繰り返すうちに、組織と個人のテレワークの実力が徐々に上がっていくはずです。

働きすぎや心身の健康状態にも注意を

まとめると、テレワークをうまくいかせるためには、最初は問題が生じるものと考え、困りごとや不満、不安を遠慮せずに言い出せる雰囲気を作ることが非常に大事です。それによって初めて、テレワークのための体制作りに進めるのです。

もうひとつ重要なことは、業務上で生じる困りごとや不安だけでなく、テレワークをしている個々人の働きすぎや心身の状態にも気を配ることです。

オンオフのメリハリがつけづらいことや、成果を出さなければならないというプレッシャーなどから、テレワークでは長時間労働やサービス残業が起きやすいという指摘もあります。

繰り返しになりますが「成果で評価する」と迫って無理をさせるような雰囲気を作るのはよくありません。時間外にチャットやメールが飛び交っていたら、「それはどうしても必要なことなのか」「時間内に収めるように配慮できないか」といった話をチーム内ですることも必要でしょう。

コロナ禍で出歩くことや人と会うことが少なくなり、気分が落ち込む人もいます。職場で直接顔を合わせていないと、長時間労働や心身の状態の変化にもなかなか気づきづらいものです。

ですから、ビデオ会議システムで顔を見ながら敢えて仕事の話を離れて雑談をしたり、パートタイムや派遣社員など、仕事で関係する相手が限られているような人たちも交ぜて近況を聞きあったりするような時間を取ることもおすすめします。

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フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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