『M-1グランプリ2024』大胆な「審査員改革」、松本人志の「代役」を作らない9人体制の好印象
12月22日に開催される『M-1グランプリ2024』(ABCテレビ・テレビ朝日系)決勝戦の審査員が15日に発表され、若林正恭(オードリー)、礼二(中川家)、山内健司(かまいたち)、塙宣之(ナイツ)、博多大吉(博多華丸・大吉)、哲夫(笑い飯)、柴田英嗣(アンタッチャブル)、海原ともこ(海原やすよ ともこ)、石田明(NON STYLE)の9人体制になることが決まった。
今大会では、1月より芸能活動を休止している審査委員長・松本人志(ダウンタウン)、審査員を過去7度つとめた富澤たけし(サンドウィッチマン)、2023年大会から審査員を担当する山田邦子が不参加に。
さらに『M-1』の審査員は基本的に7人体制(2015年大会は9人体制、2016年大会は5人体制)だったが、まさかの増員。顔ぶれをガラッと変え、まさに大胆な「審査員改革」に着手した印象だ。
『M-1』の“改革史”の1ページ、審査員を7人から9人へ
年末の風物詩となった『M-1』はこれまで、旧態依然とならず常に新しい要素を取り入れてきた。
近年、象徴的だったのが敗者復活戦の改革だ。名物でもあった屋外会場での敗者復活戦開催を、2023年から屋内会場へ移行。さらに、敗者復活参加者が一気にネタを披露するやり方を廃止し、A・B・Cブロックに出場者を振り分けて勝ち抜き戦を行い、各ブロック3組のなかから敗者復活枠を決定する方式に。また、それまでの敗者復活枠は視聴者投票で決定されていたが、2023年からはブロックごとの審査は視聴者、最終3組のジャッジは芸人審査員に委ねることになった。『M-1』のさらなる充実を図るシステム改造となった。
審査員を7人から9人へ増やすことも、そういった『M-1』の“改革史”の1ページになると言える。
「多様な『M-1』」の幕開けか
良い点の一つに挙げられるのは、わずかではあるが審査員の若返りが実現したこと。2024年大会の審査員で最年長となるのは1971年3月10日生まれの博多大吉、続いて1971年12月27日生まれの海原ともこ、1972年1月19日生まれの礼二。ほかの6名は、2024年大会開催時点は40代である。
これまで『M-1』の審査員に関しては、年齢層が高めであるところが懸念材料としてあげられていた。2018年大会王者の霜降り明星・粗品は自身のYouTubeチャンネルの2月21日配信回で「(審査員が)やっぱり年寄りすぎて。どの賞レースも、マジで意味わからんへんな」と苦言を呈し、「1回戦から決勝まで、客は20代から30代。その層が笑うネタで、大げさなことを言ったら『遊戯王』『プリキュア』とか言って会場はめっちゃウケてんのに、『審査員は絶対分かってないやん』って(いう反応・審査が見られる)」と言及した。
また2021年大会をもって審査員を勇退したオール巨人(オール阪神・巨人)は、「僕には理解できない漫才の部分が出てきたりする。そこを分かったような顔をして、よう審査しない」(出典:日刊スポーツ 2022/12/11(日))と、”M-1戦士”たちとのジェネレーションギャップを理由としていた。
今回の審査員がどこまで新しいカルチャーなどに通じているかは分からないが、ただ若い世代特有のワードチョイス、SNSなどでの流行、話題の出来事などに触れる機会は多いはずで、旧体制よりもネタの「受け入れ幅」は広いのではないだろうか。
なにより9人となったことで、審査についても偏りなく、より多種多様な採点・判断がなされるように思える。たとえばオール巨人は審査員当時、どんな人でも笑えるようなテーマのネタが好ましいとし、そのような軸のもとでジャッジしてきた。またほかの審査員に関してもこれまでは「頭を使いすぎるネタ」は敬遠する傾向があった。『M-1』にはそういう「審査フォーマット」の根強さが感じられることも。ただ審査員が9人もいれば、そういった意識が変化することは間違いないだろう。
そう考えると今大会は「多様な『M-1』」の幕開けと言えるかもしれない。
松本人志の「代役」にしない、審査員たちへのリスペクト
サプライズ発表だった審査員の9人体制。ただそれは、大役を担う審査員へのリスペクトにも感じられる。
今大会は、松本人志の席が空いた場合はそこを誰が埋めるのか、早い時期から予想合戦がSNSやメディアでも繰り広げられた。もしこれまで通り7人体制だった場合は、新任審査員は「松本人志の代役」として見られたことだろう。
しかし、審査員をつとめる一流のお笑い芸人たちに対してそういった印象を与えるのは失礼にあたる。審査員席を増やすということは、特定の審査員を「代役視」させないためであるように感じられる。つまり、審査員を担当する芸人への最大限のリスペクトではないか。
それでもやはり気になるのは、松本人志が座ってきた右端席に誰が座るのかという部分。審査員長の役割として見られるその席の重責は計り知れない。第一候補は2001年開催『M-1』で初代王者に輝いた礼二だろうが、果たして――。
7人制が慣れ親しまれてきたこともあって、SNSでは9人体制への違和感や反発も見られた。特に視聴者的には、ミルクボーイが2019年大会で記録した最高得点681点を、誰が、いつ破るのかも『M-1』鑑賞の楽しみの一つだっただけに、今後それが叶わなくなるかもしれないのはたしかに残念な材料である。
それでも『M-1』がマンネリ化せずにずっと進化を遂げているのは、変わることを恐れていないからにほかならない。審査員にも大胆な改革をおこなった2024年大会がどのようになるのか、楽しみでならない。