地域のために働く新たなカタチ〜労働者協同組合とは
今、全国に「労働者協同組合」と名がつく組織が増えています。
これらは2022年10月に施行された労働者協同組合法に基づく組織で、24年10月1日現在110法人にのぼります。
事業内容は、高齢者介護、生活支援、こども食堂、キャンプ場経営、システム開発、歯科医院の経営等、実に様々。
これらの法人はなぜ、株式会社でもNPO法人でもなく労働者協同組合という形を選んだのでしょうか。
本記事では、労働者協同組合の概要や意義について解説します。
労働者協同組合の目的と特徴
・目的
労働者協同組合法の第1条によると、同法の目的は以下の3点にあります。
- 多様な就労の機会創出の促進
- 地域の多様な需要に応じた事業の促進
- 1,2による、持続可能で活力ある地域社会の実現
・特徴
これらの目的に適うものであれば、労働者協同組合はあらゆる事業を行うことができます(ただし労働者派遣事業を除く。許認可等を受ける必要のある事業はその規制を受ける)。
株式会社などが事業による営利追求を目的とするのに対し、労働者協同組合は営利を目的としません。事業を続けていくための利益は必要ですが、「より多く稼ぐ」というプレッシャーにさらされずに済むというのが、労働者協同組合の特徴のひとつです。
さらに大きな特徴が組織運営の方法です。以下の3つの基本原理に従って事業を行うこととされています。
- 組合員が出資すること
- その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること
- 組合員が組合の行う事業に従事すること
株式会社の場合、出資者(株主)と経営者と従業員が分かれていますが、労働者協同組合では組合員が出資し、その出資額によらず一人一票の議決権をもって組合員同士で話し合って経営し、労働も組合員自身が行うのです。
剰余金の配当は、株式会社では株主に対して出資比率に応じて行うのに対し、労働者協同組合では組合員に対し労働の程度に応じて行います。
なお、組合員は労働基準法、最低賃金法、労働組合法などの法令により労働者として保護され、労働の対価として賃金が支払われます。
本来は組合員全員が組合のために労働することが基本原理に沿っていますが、家庭の事情等で一定期間働けない場合などもあるため、組合員数の5分の4以上が事業に従事することという規定があります。逆に、組合員以外が事業に従事する可能性(繁忙期にアルバイトを雇うなど)も考慮され、組合の事業に従事する者の4分の3以上は組合員であること、という規定もあります。
NPO法人との違い
・想定される事業内容は類似
営利を目的としない点など、労働者協同組合はNPO法人に似ています。NPO法人に認められる事業分野(特定非営利活動)は法律上20の分野に限定されていますが、その内容も労働者協同組合で行われる事業と大部分が重なりそうです。
では、労働者協同組合とNPO法人の違いはどこにあるのでしょう。
・資金の出どころ・剰余金の扱い
まず、NPO法人には資本金という概念がなく、当初の財産はゼロでも設立できます。活動資金は、寄付や「社員」と呼ばれる正会員が支払う会費、補助金などが主になります。
NPO法人では剰余金を社員などに分配することは禁止されており、翌年度以降の事業活動の資金とすることになります。
・法人の構成員
労働者協同組合では組合員が出資者であり、経営者であり、労働者でもありますが、NPO法人はそれらが分かれています。
まず、NPO法人を設立するには「社員」が10人以上必要です。
ここで言う「社員」は一般的な会社組織における社員とは全く異なります。会費の額に関わらず一人一票の議決権をもち、NPO法人の重要な意思決定に参加する個人または団体を指します。
この「社員」からの委任を受けて普段の業務を執行するのが理事などの役員で、株式会社における取締役と似た役割を果たします。
役員とは別に(あるいは兼務で)、有給の職員やボランティアが実務(労働)を行います。
・設立手続き
もうひとつの大きな違いは、設立手続きにかかる手間や時間があります。
NPO法人を設立するには申請書類を提出し、所轄庁(原則として都道府県知事)の認証を得る必要があります。
申請書類は市民のチェックも受けられるよう1ヶ月間公開され、3ヶ月以内に認証または不認証が決定されます。認証書が届いたら2週間以内に登記を行い、その旨を所轄庁に報告すると、設立の手続きが完了します。
これに対し、労働者協同組合は必要書類を揃えて設立の登記をすることで成立し、認可を受ける必要がありません。そのため、比較的簡単に素早く設立できます。
なぜ労働者協同組合というカタチを選ぶのか
このように、労働者協同組合は設立・運営の方法が会社組織ともNPO法人とも異なります。
この方式が「自分たちのやりたいことに合っている」と考える人たちが、労働者協同組合という組織形態を選択しています。
なお、10月1日までに設立された110法人のうち、新規設立が89法人、NPO法人からの組織変更が2法人、企業組合からの組織変更が19法人となっています。
企業組合とは、4人以上の個人が出資しあい、協働して事業を行うことができる組織形態です。
自ら出資し、組合員が一人一票の議決権をもって経営に参加し、自らの働く場をつくるという点では、企業組合と労働者協同組合の考え方は似ています。
しかし、剰余金の配当の考え方や、事業に従事する組合員と非組合員の割合の規定などに違いがあります。何よりも、企業組合は営利を目的とする法人を想定した枠組みであることから、これまで便宜的に企業組合として活動していた組織が、より自分たちの考え方に合う労働者協同組合に組織変更するという選択をしているのだと考えられます。
労働者協同組合の事例
厚生労働省の担当者の話では、これまでに設立された法人の事業内容などから、労働者協同組合は以下のようなニーズに応えられる可能性があることが見えてきたそうです(2024年9月28日 厚生労働省主催「第1回ろうきょうオンラインセミナー」厚生労働省雇用環境・均等局勤労者生活課 労働者協同組合業務室長 米岡良晃氏の講演より)。
(1)副業・兼業という働き方
本業を持ちながらも、仲間と協力しながら、自分らしく働く場をつくりたいというニーズ
(2)自治会や地域おこし協力隊による地域コミュニティ活性化
自治会や地域おこし協力隊を中心に、地域の困り事解決のため、地域づくりを仕事にしたいというニーズ
(3)シニア世代の健康や働きがい・仕事おこし
企業や組織の退職後の高齢期を生きがいを感じながら元気に仕事をしていきたいというニーズ
(4)ケアワーカーによる自分らしいケアの追求
障害者福祉や高齢者ケアの専門職から、志を同じくする仲間とともに、自分たちで運営にも関わりながら、自分たちが本当にやりたいケアを行いたいというニーズ
これらを見ると、労働者協同組合は地域の課題を解決するだけでなく、新しい働き方や組織のあり方を実現するという点でも大いに可能性のあるものだと感じられます。
今後、労働者協同組合というカタチを選択して新しい働き方や仕事の創出にチャレンジしている方々を取材し、ここで紹介していきます。
第一弾は、元気な高齢者が地域活性化に力を発揮する場をつくろうと長野県上田市で発足した、「労協うえだ(労働者協同組合上田)」への取材記事をお届けする予定です。
<参考情報>
厚生労働省「知りたい!労働者協同組合法」