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2022年は「7割テレワーク」にこだわらず“有事”と“平時”それぞれの計画を

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(提供:TKM/イメージマート)

■企業のテレワーク方針が二極化したコロナ2年目

2021年は企業のテレワークに対する姿勢が二極化した年でした。

正社員に限れば、緊急事態宣言のあった2020年4月は27.9%とその前の月の2倍以上に跳ね上がり、その後は25%前後で定着しているようです(※1)。

正社員のテレワーク実施率(全国平均)の推移(出典:パーソル総合研究所 「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」)
正社員のテレワーク実施率(全国平均)の推移(出典:パーソル総合研究所 「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」)

これはあくまで平均で、企業規模によって大きく差があります。従業員数1万人以上の企業の社員は一貫してテレワーク実施率が高く、2021年7月の値が2020年4月を超えています。

企業規模別(従業員数別)の正社員のテレワーク実施率(出典:パーソル総合研究所 「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」)
企業規模別(従業員数別)の正社員のテレワーク実施率(出典:パーソル総合研究所 「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」)

(別の調査なので単純な比較はできませんが)非正規社員も含む場合は、最初の緊急事態宣言直後に3割以上にのぼった実施率が、その後は2割前後で推移していることが分かります(※2)。

非正規社員も含むテレワークの実施率(出典:日本生産性本部「第7回 働くの意識に関する調査」)
非正規社員も含むテレワークの実施率(出典:日本生産性本部「第7回 働くの意識に関する調査」)

これらの調査から、コロナをきっかけに大企業の正社員を中心にテレワークが定着し、中小企業や非正規社員の間ではまだまだ出社中心の働き方が根強いことが推察されます。

実際、カルビーや富士通は2020年夏にいち早く、基本はテレワークで必要に応じてオフィスで仕事もできる「ハイブリッドワーク」への移行を宣言しています。2021年には、32万人以上の従業員を擁するNTTグループが、リモートワークを基本とする働き方への変革を発表して話題になりました。

単に働く場所を変えるだけでなく、ジョブ型人事制度への転換、単身赴任の解除等、人材マネジメントのあり方も大きく変えて行こうとしているところが、これらの企業の特徴です。

■「テレワーク7割」にこだわるべきではない

大企業が積極的に働き方を変えていく一方で、「うちの会社は『原則出社』に戻ってしまった」と嘆く声も多く聞かれます。

中小企業や非正規社員においてテレワークの実施率が伸びないひとつの要因は、ITツールの導入や教育研修など、テレワークの環境整備にコストと手間をかける余裕がないこともあるでしょう。飲食や小売業などそもそもテレワークが難しい業種を担っているケースが多い点も見逃せません。

政府は緊急事態宣言のたびに「出勤者数7割削減」を要請してきましたが、どんな企業にも一律に「7割削減」を求めるのは非合理的です。

「7割」という数字は、「8割おじさん」と呼ばれた西浦博北海道大学教授(当時)の提言、「流行拡大を防ぐには人との接触を8割削減することが必要」が元になっています。ここから「出勤者の数を最低7割は減らす」という要請がなされたのが2020年4月。当時と今とでは、分析可能なデータの量も、ワクチン接種などによる免疫獲得の状況も全く異なり、取るべき対策も違ってくるはずです。

感染拡大時の出勤はリスクです。しかし「7割テレワーク」を達成したとかしないとかで騒ぐことに意味はありません。ひとつの企業の中でも、仕事の内容によって取れる対策は異なります。テレワークに限らない総合的な対策を計画し、必要なときにしっかり実行することこそが重要です。

■テレワークの方針は“有事”と“平時”で分けて

各企業が今後テレワークとどう向き合うか、ポイントは「有事のテレワーク」と「平時のテレワーク」を分けて考えることです。

感染が爆発的に拡大しているときや自然災害のような“有事”には、普段の業務を縮小してでも対応を取らざるを得ないときがあるでしょう。

例えば「在宅勤務なんて不可能」と考えられているような職種の場合でも、通勤が難しい状況においては「◯割の従業員は臨時休業にし、残りの従業員はテレワークで顧客の問い合わせ対応のみ行う」といった対応が必要になります。これは「有事のテレワーク」です。

これに対し、「テレワークのメリットを普段から享受していこう」というのが「平時のテレワーク」です。先に挙げたカルビーや富士通、NTTグループはこちらの考え方で、積極的にテレワークの拡大を選んだわけです。

「パンデミックや自然災害が発生するたびに振り回されることもリスクなので、“平時”から”有事”に対応できる働き方に変えてしまおう」という考え方で、平時のテレワーク方針をぐっと前に進めた会社もあるでしょう。

テレワーク中心の働き方はメリットばかりではなく、乗り越えなければいけないデメリットもあります。しかし、それらを克服するための手間やコストをかけてでも、“平時”からやっていく価値があると判断した会社が大きく動いているのです。

■「平時のテレワークを“しない”」という判断をする際に気をつけること

先に触れたパーソル総合研究所の調査によれば、過半数が今後のテレワークの方針について会社から説明を受けていません。

様子を見ている企業が多いのだと思われますが、コロナが終息と言える状況になるのにはまだまだ時間がかかりそうです。それまで判断を引き伸ばすのではなく、「有事の際はこうします」「平時はこうです」と切り分けて周知しておけば、社員は「うちの会社は何を考えているんだ」とやきもきせずに済みます。

ワクチン普及後のテレワークに関する企業の方針(出典:パーソル総合研究所 「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」)
ワクチン普及後のテレワークに関する企業の方針(出典:パーソル総合研究所 「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」)

「平時は原則出社とする」というのも、ひとつの経営判断です。その場合、背景には「人が集まることで出てくるパワーを大事にしよう」とか「対面でのサービスの良さを磨き上げていこう」といった戦略があるはずです。重要なのは、それを社員にきちんと説明をすることです。

その説明を受けた社員が、「それなら、対面の良さを活かすために何ができるか」と考えて実行できるような常態になるのが理想です。

一方、「うちの会社は古いやり方にこだわって進歩がない」、「毎日出勤は自分の生活スタイルと合わない」などと考えて退職する社員も出てくるかもしれません。テレワークを認めないことで、人材採用に苦戦する可能性もあります。

しかしそれは、「平時のテレワークを“しない”」と決めるなら覚悟すべきことでしょう。むしろ、会社の方針と自分の考え方のズレに気づかないまま働いている社員がいる方が、後々問題を生むかもしれません。

テレワークを拡大するにしろ出社を原則とするにしろ、その方針と根拠を明確にしなければ組織は一枚岩になりません。2022年は、各企業において社員や関係者との丁寧なコミュニケーションがなされていくことが期待されます。

※1 パーソル総合研究所 「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」

※2 日本生産性本部「第7回 働くの意識に関する調査」

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フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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