Yahoo!ニュース

小田和正 『クリスマスの約束』の誠実な物語【前編】 番組プロデューサーが語る、最後の収録までの日々

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
(C)TBS

小田和正のライフワーク的音楽番組『クリスマスの約束』、24年の歴史に幕。番組P・服部英司氏が語る、最終回までの道のり

小田和正が「僕の音楽人生の中の、かけがえのない時間だった」と語り、ライフワークともいえる、様々なアーティストとセッションを繰り広げる音楽番組『クリスマスの約束』(TBS系)が3年振りに復活し、12月24日に放送される。そしてこれが最終回となる。2001年にスタートし、今年で20回目を迎えたこの時季の風物詩的なプログラムが、24年の歴史に幕を下ろす。

最後の収録は12月3日KTZepp Yokohamaで。20万通を超える観覧応募ハガキの中から選ばれた約1,000人が見守る

『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)
『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)

12月3日、その最後の収録がKT Zepp Yokohamaで行われ、20万通を超える観覧応募ハガキの中から選ばれた幸運な約1,000人のファンが見守った。その収録の指揮を執りながら、特別な思いであの日を迎えたのが、番組の立ち上げから制作に携わっていたTBSの服部英司プロデューサーだ。

最終回は熊木杏里JUJU根本要(STARDUST REVUE)松たか子水野良樹(いきものがかり)矢井田瞳和田唱(TRICERATOPS)という豪華ゲストが、それぞれの思いを込めて歌声を響かせた。服部氏は「選曲は、小田さんご自身の楽曲、そして、番組の象徴である合唱曲がこれまでのレパートリーから選ばれています」と教えてくれた。服部氏に同番組が今年で最後となったそのいきさつや、これまでの「クリ約」について思い出や印象的な回を含めて、改めてどんな番組だったのかを振り返ってもらった。前・後編でたっぷりお届けします。

「コロナ禍になる前から“幕引き”の話は出ていました」

『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)
『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)

――まず最終回の収録を終えて少し時間が経ちましたが、どんな心境ですか?

服部 正直なところまだ終わった感じが全然していません。それは収録が終わってから編集作業~納品までの緊張感が毎年とても強く、今年は、特にそう感じています。

――最後の『クリスマスの約束』はいつ頃から動き始めたのでしょうか?

服部 例年通り4月頃から打ち合わせをスタートさせました。実はコロナ禍になる前から“幕引き”の話は打合せの席で出ていました。それで去年が最終回になることを意識して準備をしていましたが、小田さんのスケジュールや様々な理由が重なり、オンエアはキャンセルになりました。

「目指す番組のクオリティを実現し続けることができるのかと(小田さんが)自らに問いかけ、出した答えだと思います」

――番組終了の直接的な理由はなんだったのでしょうか?

服部 小田さんの言葉を借りると、ご自身の体力的な問題や、多くの曲を覚えるのに時間がかかったり、このまま続けていてもこれまで築き上げてきた『クリスマスの約束』というものを越えられないのでは、という思いもあったようです。アレンジやリハーサルを含めてとても丁寧に、時間をかけて作り上げる番組なので、小田さんやアーティストにかかる負荷は非常に大きく、そういう意味でもご自身の体力や気力の部分、参加アーティストのスケジュール等を含めて、目指す番組のクオリティを実現し続けることができるのかと自らに問いかけ、出した答えだと思います。

「小田さんの言葉の通り、番組は、求められているうちに終わるということが大切だと感じています」

『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)
『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)

――今回の収録の冒頭、小田さんがこれで最後というメッセージをみなさんに届けました。涙を流しているファンの方も大勢いました。「『クリスマスの約束を楽しみにしています』、と言ってもらえるうちに番組を終えることにしました。寂しいけれど、きっとそれがいいと思ったのです」という言葉が印象的でした。

服部 小田さんの言葉の通りで、番組は、求められているうちに終わるということが大切だと感じています。数字以上に多くの人に求められ続けた番組だったからこそ、この形で終われることに感謝しています。小田さんのあのメッセージに番組の24年間の歴史が凝縮されているように感じました。

「きちんと最終回をやらなければいけないんです」

――服部さんは小田さんの決断に対しては?

服部 2020年はコロナの影響で中止になって、2021年は放送しましたが、この番組のひとつの形でもあるステージ上にお客さんを迎えての収録ができなくて、客席のみなさんもマスク姿で、これで終わるわけにはいかないと思いました。2022年は小田さんの全国ツアースケジュールの関係で調整がつかず、2023年を最終回にしようと準備を進めていましたが、先ほどお話した理由などで実現しませんでした。昨年の放送がキャンセルになった際「小田さん、申し訳ないですけど言わせてください」とお話させていただきました。「この番組は最終回をやらなければいけないんです。それはテレビでこれだけ長く放送していると、毎年『今年の「クリ約」はいつやるんですか?やらないんですか?』という問い合わせが局にたくさん来ます。我々TBSだけはなく広告主様も、ファンの方、視聴者の方もみなさんが楽しみにしています。だからきちんと最終回をやらなければいけないと思います』とお伝えしました。

『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)
『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)

――小田さんの反応はどうでしたか?

服部 そのときは「わかった。もう一度自分を鍛え直す」と言ってくださいました。去年できなかったので、僕も含めて長年一緒にやってきているスタッフも、何とか最終回にたどり着かなければという気持ちが強かったです。小田さんの事務所の方ともこれまで以上にコミュニケーションを取りながら進めていきました。紆余曲折ありましたが最終回の収録日を迎えることができました。

「最終回はライヴとアーカイブ映像で構成。ライヴ部分は、最初は1曲だけの予定でした。曲数が確定したのは11月に入ってからです」

『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)
『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)

――最終回はいつものように出演者のライヴと、貴重なアーカイブ映像を観ながら出演者と一緒に20年を振り返るという構成です。

服部 7月頃まではライヴ部分は1曲だけの予定でした。1曲だけだったらスタジオでお客さんを入れないでやりましょうという話が出ていたり、9月頃にはそれが3曲やろうということになって、小田さんの気持ちの揺れ動きもあって内容についても変わっていきました。曲数も少しずつ増えていって、そうなるとやっぱりお客さんがいないと淋しいし、楽しんで欲しいということで急遽、小田さんゆかりの地・横浜で会場(KTZepp Yokohama)を押さえました。曲数が確定したのは11月に入ってからでした。

これまでの映像を観て「手前味噌ですが、23年前の放送も引き込まれるように観ることができました。きっとこれから先も色褪せないで残っていくものを作れたことは、本当に誇らしいことだと思いました、と小田さんに伝えました」

『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)
『クリスマスの約束2024』(12月3日KTZepp Yokohama)

――かなりギリギリのスケジュールで進んでいったんですね。

服部 ヒリヒリした毎日でした。でもリハがスタートしてからは小田さんの声も絶好調だし、表情も明るくて、アーティストのみなさんと楽しそうに音楽を作りあげていたので、大丈夫、お客さんにも視聴者のみなさんにも楽しんでもらえるものができると確信しました。同時にアーカイブ映像の準備を進めていきました。阿部(龍二郎氏・現TBSホールディングス代表取締役社長)やスタッフと改めて過去の放送を観て感じたのは、ひいき目にみても素晴らしいコンテンツということでした。小田さんにも「手前味噌ですが、23年前の放送も引き込まれるように観ることができました。きっとこれから先も色褪せないで残っていくものを作れたことは、本当に誇らしいことだと思いました」と、伝えました。小田さんも「それはすごく自分にとっても誇らしいことだし、みんなにそうやって言ってもらえるのも本当嬉しいな」と言っていただけました。

※12月23日(月)公開の【後編】に続く

■小田和正音楽特番『クリスマスの約束2024』(TBS系) 12/24(火)一部22:00~22:57・ 二部23:56~25:56※一部地域を除く

TBS『クリスマスの約束』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事