電気やガソリンの値上がりも影響〜エネルギー問題とテレワーク〜
国土交通省の「テレワーク人口実態調査」(令和4年3月)によると、会社などに雇用されて働いている人のうちテレワークの経験者は27.0%、そのうち約89%がテレワークの「継続意向あり」と回答しています。
その理由は、「新型コロナウイルス感染症対策として」が48.5%で最も多く、「通勤時間の有効活用」(17.5%)、「通勤の負担軽減」(16.6%)が続きます。
しかし今後、電気代や食費などの物価高騰により、テレワーク希望者の割合やその理由が変わってくるかもしれません。
車通勤の地域ではテレワーク意向が高い
CitrixとOnePollが10カ国で行った調査によれば、アメリカなど車社会の国々では「通勤コスト削減のために在宅勤務回数を増やす」と答えた人が半数以上おり、日本でも北海道で20%、東北地方で35%など、車通勤の多い地域で在宅勤務の意向が高いことが明らかになりました。
電気代や食費が在宅勤務のネックに?
逆に「自宅の光熱費を抑えるために出社を増やす/増やしたい」という人は、フランスで43%と高い割合になっていますが、これは同国においてすでにエネルギー費用が高騰していることが影響しているようです。
日本でも、エアコンなしには仕事ができない夏を迎え、電気代の値上げもあいつぐ中、出社を希望する人がもっと増えるかもしれません。
また、食品の値上げも次々に発表されています。会社に行けば安くランチができる社食があるという人は、在宅勤務時の食費も負担に感じられるでしょう。
テレワークでCO2排出量削減も
世界共通の課題である気候危機との関連でも、テレワークが注目されています。
「2022年版首都圏白書」(国土交通省)では、2021年度の首都圏のテレワーク実績から、車通勤の削減で見込まれるCO2削減量を推計しています。
それによると、首都圏全体で1日当たり最大約2,337tのCO2削減になるとのこと(削減率9.7%)。特に車通勤の比率が高く距離も長い千葉や埼玉からの通勤者の影響が大きく見込まれています。
ただ、テレワークによるCO2排出量の変化を考える際は、各家庭の電力消費量の増加なども考慮に入れなければなりません。
国際エネルギー機関(IEA)は、世界中の在宅勤務可能な人が週1日テレワークをすると、旅客輸送に必要な石油消費量の約1%を節約できると推計しています。これはテレワークによる家庭のエネルギー使用量の増加分の4倍にあたり、差し引きで年間2,400万tのCO2排出削減になるとのことです(参考:Working from home can save energy and reduce emissions. But how much? )。
これは世界全体を対象とした推計であり、より小さな範囲で見ると、テレワークによってCO2排出量が多くなる国や地域もあるでしょう。
IEAは、約6km以上の距離を車で通勤する場合はテレワークでCO2排出量が削減されるが、車通勤でも移動距離が短い場合、公共交通機関での通勤の場合はCO2排出量が増える可能性があると分析しています。
また、私たちの生活スタイルの変化や、発電のエネルギー構成、電気自動車の普及、住宅性能の向上などによっても、テレワークをするときとそうでないときのCO2排出量の増減の仕方が変わってくるはずです。
社員の生活、環境への影響も考慮して対策を
これまで、テレワークの是非は生産性やワークライフバランスの面から議論されてきましたが、ここにきて金銭的なコストや環境への影響も見えてきました。
働く人の価値観の変化やテレワークを可能にする技術の進展を考えても、今後「テレワークをゼロに」という方向はありえません。上に挙げた複数の要素を考慮に入れつつ、テレワークと出社とを組み合わせていくハイブリッド型の働き方が一般的になっていくでしょう。
企業は、その組み合わせのバランスを良くするための施策を検討する必要があります。
例えば、本来は現場で現物を見て議論したい場面において「ガソリン代が高いから」と出社を拒否する社員がいては困ります。逆に、在宅勤務でできる仕事でも、「自宅の電気代がもったいない」という理由だけで出社する社員がいるのは非効率です。
社員が生産性の高い働き方を選べるように、通勤手当を見直したり、在宅勤務にかかる経費を補助するための手当を出したりといったことが、重要になってくると思われます。
将来的には、環境にもお財布にも優しい省エネな家や自宅近くのサテライトオフィスで快適にテレワークができ、出社するときは公共交通機関か電気自動車(EV)を使い、会社の駐車場でEVの充電ができる……といった状態が理想です。そのような理想像に向けて、国の制度や企業の取り組みが進んでいくことを期待します。
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