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絶対に食べておかねばならない 東京の醤油ラーメン「個性派」3軒

山路力也フードジャーナリスト
東京で長年愛されている老舗の中には個性的なラーメンも数多い。

東京で長年愛される個性豊かなラーメンたち

ラーメンは形にとらわれることのない自由な食べ物だ。
ラーメンは形にとらわれることのない自由な食べ物だ。

 東京は日本はもちろん世界で最も最先端のラーメンが集まる街だ。戦前から愛される老舗のラーメンから、全国各地のご当地ラーメン、さらには最先端のラーメンまで、あらゆるラーメンが揃っている東京。数多くのラーメンが集まる場所であるがゆえに、東京のご当地ラーメンとも言うべき、昔ながらの「醤油ラーメン」が埋もれてしまっていた。

 ところが、最近になって「ネオノスタルジック」とも言うべき、どこか懐かしさを感じさせるような「醤油ラーメン」を出す新店が増えてきた。煮干しが香る醤油味の透明なスープに縮れ麺。海苔やなるとが乗ったそのビジュアルは、誰もが想像するラーメンの姿形であると同時に、一周回って今の人たちには新鮮に映っている。東京の醤油ラーメンは原点に立ち返ろうとしているのだ。

 その一方で東京のラーメンの魅力は「カオス」であることも看過出来ない。老舗のラーメンの中にも、他ではなかなか味わえないような個性的なラーメンが少なくない。今回は東京の醤油ラーメンを食べる上で、絶対に欠かすことが出来ない「個性派」の老舗3軒をご紹介しよう。

飯田橋の独創醤油ラーメン『びぜん亭』(1976年創業)

 創業は1976(昭和51)年と、半世紀近くものあいだ飯田橋で愛されている人気店が『びぜん亭』(東京都千代田区富士見1-7-10)。店主の植田正基さんは料理経験ゼロでこの店を始めた。「自分が美味しいと思ったものを出す」という信念のもとに、独学で作り上げたラーメンはすぐさま地元客を虜にした。

 豚骨と香味野菜をじっくり炊き、丁寧に灰汁取りをしながら作る澄明なスープには、良質な鶏油が浮いてコクと旨味が加えられている。奥様が家庭で作っていた角煮をヒントに作ったというチャーシューはこの店の名物。箸で持つと崩れてしまうほどの柔らかさで、チャーシューを一本買って帰る常連客も少なくない。

神楽坂の豚骨醤油ラーメン『龍朋』(1978年創業)

麺類のみならずチャーハンの人気も高い『龍朋』。
麺類のみならずチャーハンの人気も高い『龍朋』。

 今でこそ白濁したスープの豚骨醤油ラーメンは多くの人に知られているが、東京の醤油ラーメンは透明なスープが当たり前だった。神楽坂の路地を入った坂道に佇む『龍朋』(東京都新宿区矢来町123)は、1978(昭和53)年の創業以来白濁した豚骨鶏ガラスープをベースに、様々な種類のラーメンを提供している。メニューは全てオリジナルのレシピによるもの。2017年に他界した創業者の松崎隆明さんは、何より創意工夫が好きな人だった。

 基本となる「ラーメン」は東京における豚骨醤油ラーメンの嚆矢的な存在。なると、チャーシュー、海苔、メンマと具材こそ東京ラーメンそのものだが、スープの色合いと濃度粘度が異なる。豚骨、豚足、鶏ガラ、モミジなどの動物系素材に煮干し、鰹節などの魚介系素材を加え、途中で素材を継ぎ足しながら弱火でじっくりと炊き続ける。さらに大豆も入れることでまろやかな味わいと口あたりを演出。唯一無二の奥深い味わいを持つ秘伝のスープは、先代が亡くなった今も変わることがない。

西麻布の揚げネギラーメン『かおたんラーメン エントツ屋』(1983年創業)

40年近くものあいだ西麻布の夜を見つめてきた『かおたんラーメン エントツ屋』。
40年近くものあいだ西麻布の夜を見つめてきた『かおたんラーメン エントツ屋』。

 西麻布の交差点から程近い場所に佇む手作り感溢れる建物の上には、無造作に何本も突き出す「煙突」が。『かおたんラーメン エントツ屋』(東京都港区南青山2-34-30)。その創業は1983(昭和58)年と、40年近くものあいだこの場所で西麻布を見つめ続けてきた老舗ラーメン店。看板には「かおたん=高湯」の文字と共に「中国福建省の高級スープ」の文言が誇らしげに躍っている。

 豚のゲンコツ、背ガラ、鶏ガラをじっくり丁寧に炊いたスープは、中国のスープをベースにしつつも中国人シェフやマレーシア人シェフなどの協力も得て、店主の落合一元さんが創業時より試行錯誤を続けてきたオリジナルのもの。台湾産赤ネギを使った揚げネギとネギ油が浮かぶことで、スッキリとした中に深みを感じる味わいに。さらに揚げネギの香ばしい香りと口で弾ける食感が食欲をさらにかきたてる。大ぶりな手包みの餃子もこの店では欠かせない逸品だ。

 今回ご紹介した3軒は、いずれも東京の醤油ラーメンを語る上で欠かせない名店ばかり。流行のラーメンを追いかけるだけではなく、ぜひ長年愛され続けている味も食べてみて欲しい。ラーメンの食べ歩きがさらに楽しくなることだろう。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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