絶対に食べておかねばならない 東京の醤油ラーメン「老舗」3軒
東京のラーメンは「醤油ラーメン」
東京は日本はもちろん世界で最も最先端のラーメンが集まる街だ。同時に「つけ麺」「まぜそば」「鶏白湯」「ベジポタ」「水鳥系」など、毎年のように新たなトレンドを生み出し続けているラーメン情報の発信地でもある。
戦前から愛される老舗のラーメンから最先端のラーメンまで、あらゆるラーメンが揃っている東京だが、数多くのラーメンが集まる場所であるがゆえに、東京のご当地ラーメンとも言うべき、昔ながらの「東京醤油ラーメン」が埋もれてしまっていた。
しかし最近になって「ネオノスタルジック」とも言うべき、どこか懐かしさを感じさせるような「東京醤油ラーメン」を出す新店が増えてきた。煮干しが香る醤油味の透明なスープに縮れ麺。海苔やナルトが乗ったそのビジュアルは、誰もが想像するラーメンの姿形だろう。
東京のラーメンは醤油ラーメンである。長年愛され続けている老舗のラーメンの中には、今食べても全く古さを感じさせない存在感のあるラーメンも数多い。そんな東京の醤油ラーメンを食べる上で、真っ先に食べておくべき「基本中の基本」とも呼べる3軒の老舗をご紹介しよう。
三代続く銀座の老舗『萬福』(1926年創業)
屋台として創業したのが大正15(1926)年と、一世紀近くにわたり愛されている東京醤油ラーメンの老舗が『萬福』(東京都中央区銀座2-13-13)。厨房に立つのは三代目の久保英恭(ひでひさ)さん。創業者である笠原福次郎さんの孫である久保さんは、幼少期より店を手伝いながら、中華料理店などでの修業を経て、25歳の時にこの店を受け継いだ。
三角の黄色い薄焼き卵が印象的な「中華そば」は、創業以来変わることのない東京ラーメンにおける永遠のマスターピース。茹でた卵を乗せるのではなく、卵焼きにしたのは洋食の料理人だった創業者の矜恃だろうか。醤油の色がくっきりと出た優しい味わいのスープに、しなやかな食感の細麺。真ん中に置かれた「なると」が郷愁感を誘う。
独特な食感を持つ「餃子」や、洋食出身の名残を感じる「ポークライス」など、この店で食べるべきものは多々あるが、知る人ぞ知る名物メニューが「冷やし中華」。冷やし中華好きの常連客に乞われて、夏だけではなく一年中提供している逸品。錦糸卵やチャーシュー、紅生姜などが整然と並べられた冷やし中華もまた、中華そばと同じくノスタルジック。
進化し続ける東京ラーメンの代表格『中華そば 春木屋』(1949年創業)
戦後間もない昭和24(1949)年、荻窪駅前にあった「闇市」に固定式の屋台として創業したのが『中華そば 春木屋』(東京都杉並区上荻1-4-6)である。創業から70年以上経った今でも、店の前には行列が出来る人気店。名実ともに東京を代表するラーメンの名店と言って良いだろう。
なぜこの店に人が集まるのかは、一度ラーメンを食べてみればわかる。豚骨、鶏ガラに煮干しを使いラードが浮かべられたパンチのあるスープに、しっかりとした食感を持つ自家製縮れ中太麺の組み合わせ。今流行のラーメンと比較しても負けることのない存在感。創業以来変わることがない味と、誰もが口を揃えて言うが実は変わり続けている。
戦後の貧しかった時代から、飽食の時代へ。人々の味覚や嗜好も変わっている中で、変わらず美味しいと言われるためには、時代に合わせて変わり続けていかなければならないというのが春木屋の方針。季節によって、時代によって、客がその変化に気づかないようなレベルで、少しずつ味の改良を重ねていく。春木屋が半世紀以上愛され続けている理由はそこにある。
地元民にも観光客にも愛される店『来集軒』(1950年創業)
創業昭和25(1950)年、浅草国際通りを入った路地裏に、ひっそりと佇む老舗が『来集軒』(東京都台東区西浅草2-26-3)である。住宅街に同化したかのような、地域密着型の店のようにも思えるが、店内に一歩入るとこの店を愛した著名人のサインが所狭しと飾られており、外国人観光客の姿を目にすることも少なくない。地元の人にも著名人にも観光客にも愛されている店なのだ。
豚骨、鶏ガラに野菜を入れた濃い醤油の色が印象的なスープは、塩っぱさは少なく優しい甘味がある。しっかり丁寧に味付けされたメンマが味と食感の貴重なアクセント。ラーメンと一緒に食べたい名物が「シューマイ」。大きなシューマイを頬張りながら、ラーメンのスープを飲む至福のひと時。
年齢性別国籍を問わず、この店が多くの人に愛されている理由は、創業以来変わることのないその味と、家族親族で営むアットホームな雰囲気。どんなお客さんでも分け隔てなく笑顔で出迎えてくれる。その笑顔が見たくて、人はまた足を運ぶのだ。
今回ご紹介した3軒は、いずれも東京の醤油ラーメンを語る上で欠かせない老舗ばかり。流行のラーメンを追いかけるのも良いが、温故知新、ぜひ長年愛され続けている老舗も食べて欲しい。3年続けば立派と言われる厳しいラーメン業界において、なぜ半世紀以上も愛され続けているのか。その理由がきっと分かるはずだ。
※写真は筆者によるものです。
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