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絶対に食べておかねばならない 横浜のラーメン「基本」3軒

山路力也フードジャーナリスト
家系ラーメンだけが横浜のラーメンではない。

横浜はラーメンのルーツの街だ

横浜のシンボルでもある『中華街』と、ラーメンの聖地『新横浜ラーメン博物館』。
横浜のシンボルでもある『中華街』と、ラーメンの聖地『新横浜ラーメン博物館』。

 昨今「横浜家系ラーメン」を看板に掲げた店が急増して、一躍「家系ラーメンブーム」が興っている。その名の通り、家系ラーメンは横浜で生まれたいわば「ご当地ラーメン」だが、今では日本全国はもとより海外にも進出を果たすまでになった。

 横浜は古くから国外の食文化が流入してきた街だ。開国と同時に外国人居留地が出来た横浜には、欧米の食文化が広まり定着した。その時に欧米人とともに多数の中国人も来日し、居留地の一角にいわゆる「南京街」を構築して、今の「中華街」へと繋がっていく。

 言うまでもなく、ラーメンのルーツは中国の麺料理である。横浜の街では古くから中国料理が慣れ親しまれてきた。ある意味で、日本のラーメン文化の礎は横浜にあると言っても良いだろう。

 今では家系ラーメンを中心に、多くのラーメン店が集まる横浜。日本初となるフードテーマパーク『新横浜ラーメン博物館』があるのも横浜だ。そんな横浜のラーメンを食べる上で、欠かすことの出来ない基本中の基本とも呼べる3軒の老舗をご紹介しよう。

百余年愛され続けるサンマーメン『玉泉亭』(1918年創業)

野菜の餡掛けが乗った「サンマーメン」発祥の店として知られる『玉泉亭』(伊勢佐木町)。
野菜の餡掛けが乗った「サンマーメン」発祥の店として知られる『玉泉亭』(伊勢佐木町)。

 横浜で生まれたラーメンの一つに「サンマーメン」がある。モヤシや野菜を使った餡掛けがたっぷりと乗ったラーメンだが、その元祖とも呼ばれる店が『玉泉亭』(神奈川県横浜市中区伊勢佐木町5-127)である。その創業は大正7(1918)年と、百年を越える歴史を持つ老舗だ。

 創業当初は西洋料埋と中華料理、さらに日本料埋も出す「三国料理」の店として喧伝。ラーメンがまだ慣れ親しまれてなかった時代に「元祖横浜ラーメン」を謳い文句にラーメンを販売。戦後に繁華街である伊勢佐木町に移転して人気を集めた。数あるラーメンの中でも、古くからの看板メニューが「サンマーメン(生碼麺)」だ。

 サンマーメンは調理のスピードが命。手際よくモヤシや野菜を炒めて餡掛けにして、ラーメンの完成のタイミングで丼で合わせる。シャキシャキとみずみずしい食感を残す餡掛けが、優しい味わいのラーメンに力強さを与える。今食べても決して古さを感じさせない、百年愛される横浜ならではのラーメンだ。

横浜家系ラーメンの総本山『ラーメン吉村家』(1974年創業)

家系ラーメンを生んだ歴史的名店『ラーメン吉村家』(横浜)。
家系ラーメンを生んだ歴史的名店『ラーメン吉村家』(横浜)。

 今や全国各地にその名を広げる「横浜家系ラーメン」。豚骨醤油の力強いスープに太麺を合わせ、海苔が扇型に3枚並べられる唯一無二のラーメン。2018年にはサンマーメンと共に神奈川県より「かながわの名産100選」としても認定された、横浜を代表するご当地ラーメンだ。

 この家系ラーメンを最初に考案したのが、昭和49(1974)年に創業した『ラーメン吉村家』(神奈川県横浜市西区南幸2-12-6)だ。吉村家で修業し独立した人が吉村家に倣って屋号に「家」をつけたことから、いつしか「家系」と呼ばれるようになっていった。

 大量の豚骨と鶏ガラを炊き上げた力強いスープは、従来の中華そばと九州の豚骨ラーメンの良いところを合わせるという発想から生まれた。今でも連日1,000人以上の客が訪れる、全国でも屈指の人気ラーメン店として横浜の地に君臨している。

ラーメンを料理に昇華させた名店『支那そばや』(1986年創業)

『支那そばや』(戸塚)の登場によって、ラーメンのレベルは格段に向上した。
『支那そばや』(戸塚)の登場によって、ラーメンのレベルは格段に向上した。

 「ラーメンの鬼」という異名を持つ、ラーメン職人が創業した一軒のラーメン店がある。店名はシンプルに『支那そばや』(神奈川県横浜市戸塚区戸塚町6002-2)。藤沢の鵠沼海岸で昭和61(1986)年に創業し、2008年には現在の戸塚に本店を構えている。

 創業者の故佐野実は長年洋食の世界に身を置いていたが、独立してラーメン店を開きたいという夢を実現させた。そのアプローチは、既存のラーメン店とは一線を画しており、味の追求は言うまでもなく製法や素材、調味料、さらには丼にいたるまでとことん極め抜いた。

 どこまでも澄明で旨味が凝縮された鶏ベースのスープに、小麦の銘柄から厳選した自家製麺。料理人としての知見と技術でラーメンを料理に昇華させた『支那そばや』の登場によって、世の中のラーメン店の意識は変わり、ラーメンの品質や味が格段に向上した。90年代後半に興ったラーメンブームを牽引した一軒でもあり、今もなおラーメン業界で慕う同業者も数多い。

 今回ご紹介した3軒は、横浜のみならず日本のラーメンを語る上で欠かすことの出来ない歴史的な名店ばかり。新しいラーメン店を食べ歩く中で、日本のラーメン史を刻んできた老舗の一杯もぜひ味わって頂きたい。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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