Yahoo!ニュース

『不適切にも』最終話が示した運命の甘受と人生のつながり 全10話を総括した令和へのメッセージ

武井保之ライター, 編集者
TBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』公式サイトより

冬ドラマNo.1の話題作となったTBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』最終話は、全10話の集大成的な回になっていた。令和社会を知って変わった昭和おやじの市郎(阿部サダヲ)は、昭和の生きづらさも感じたうえで、令和を生きるすべての人たちへ「寛容になろう」とメッセージを送った。

(関連記事:『不適切にも』令和に行く前の純子はもういない 最終話までに打たれてきた布石

全話を通してもっとも感情を揺さぶられた母娘のシーン

最後までこれまでのエンターテインメント性を貫いたドラマだった。最終話は、1〜9話までの出来事を振り返りながら、毎話唱えてきた令和社会へのメッセージの総括を、オールスター総出演のミュージカルに込めた。

そして、これまでにも純子(河合優実)と渚(仲里依紗)の母娘の微笑ましいやりとりは繰り返し描かれてきたが、最後となる今回は特別だった。

高校生の純子は、仕事でのトラブルから心に傷を負った渚に対して、まるで母親が子どもに諭すように、自身の見解を伝えながら優しく慰め、そっと背中を押した。

それは、幼くして母を亡くした渚の人生のなかで、どれだけ求めても代わりになるものはなく、決して得られなかったもの。あふれ出る感情を抑えて、目を真っ赤にしながら笑顔を見せる渚の心情が心に突き刺さる。全話を通してもっとも感情を揺さぶられたシーンだった。

1話からの総括となる令和へのメッセージ

最終話のミュージカルは、令和社会を生きたことで変わった市郎が昭和に戻って送る、これまでを踏まえた総括となる令和へのメッセージとなった。

昭和に戻った市郎は、昭和の生活にも違和感を覚える。職場に戻り、ガサツで大味、デリカシーのない人たちに囲まれるなか「昭和は生きづらい。令和に戻りたい」と令和にいるサカエ(吉田羊)にこぼす。しかし、絶えず続くコンプライアンスやハラスメントの相談を受けるサカエの状況を聞くと「令和むり。昭和も令和も生きづらい」。

そこから、第1話から唱えてきたさまざまなシチュエーションにおける問いかけをすべて受けて、令和社会へ「寛容が足りない」と唱えた。寛容とは大雑把とも甘えとも違うとする一方、他者への辛辣な発言を例に出しながら「私たちはスマホじゃない。人間同士」。

ドラマの最後のメッセージとして、SNSへ投稿するネットユーザーやドラマ考察視聴者を含むすべての人々と、令和社会に対して「広い心で受け入れて寛容になろう」と発信した。

クドカンの人生観が投影された小さなハッピーエンド

一方、市郎と純子が1995年の震災で亡くなる運命はそのままだった。これまでのクドカン脚本ドラマでも震災に触れられてきたが、本作では家族の悲劇として踏み込んだ。そして、タイムリープドラマの悲劇を避ける物語の定石とは一線を画する、運命を甘受するストーリーとなった。

市郎と純子の運命は変わらない。しかし、2人の血を引く渚は、純子の彼氏だったムッチ先輩の息子・秋津(磯村勇斗)と付き合うことになる、人生のつながりを描いた。そんなささやかな幸せにつながるハッピーエンドと、市郎の運命の甘受も含めて、本作にはクドカンの人生観が投影されていたのかもしれない。

娘の9年後の死を知る父親をドラマに組み込んだことで、視聴者に阪神・淡路大震災へ思いを馳せさせた。震災を風化させないこと、そこで起きた悲劇を思うことに意義がある。本作の後半は、市郎と純子にはそのアイコンとなる役割があり、それを身近なこととして視聴者に感じさせた。

本作は、社会性を帯びるメッセージ、親子愛、家族の絆、人それぞれの生き方を、笑いと涙、歌、ダンスでバランスよく描く、秀逸なエンターテインメントになっていた。まだまだ彼らの人生を見ていたかったが、次なるクドカン作品を楽しみに待ちたい。

【関連記事】

“パンツまだ脱いでない”不良少女を体現する河合優実、『不適切にも』可愛らしい悪役が残したつめ跡

『不適切にも』SNS投稿とコタツ記事という“世間”を揶揄 テレビの不都合は掘り下げなかった

『不適切にも』不良少女役・河合優実、売春を12歳から毒親に強いられる悲痛な少女役の『あんのこと』

純子の物語だった『不適切にも』 父親思いの健気に生きる不良少女に感情移入して高まる共感と関心

『不適切にも』伏線回収や考察視聴スタイルへの痛烈皮肉 「最終話までとっちらかったまま」は伏線か

冬ドラマ後半、最終話まで見るべき3+1本 『不適切にも』『つくたべ』『おっパン』そして最注目は…

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

武井保之の最近の記事