冬ドラマ後半、最終話まで見るべき3+1本 『不適切にも』『つくたべ』『おっパン』そして最注目は…
3月に入り、最終回に向けた終盤に差し掛かっている冬ドラマ。今期は話題作も豊富ななか、ラストまで見るべき3+1本をピックアップ。まずは、宮藤官九郎脚本で昭和と令和それぞれの社会を相対的に風刺する『不適切にもほどがある!』(TBS系)。第5話から急転した物語の行方にも注目が集まる。
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続いて、2月29日に最終回を迎えたが、毎話幸せな気分にしてくれた素敵なドラマ『作りたい女と食べたい女』シーズン2(NHK夜ドラ)。性的マイノリティの生活を優しく描いた。さらに、前述2作のテーマを両方取り込む、感動要素盛りだくさんのコミカルな人間ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジテレビ系)。
そして、もっとも注目したいのは配信ドラマから。昨年9月に映画版が劇場公開され、ドラマ版が2月9日から配信スタートしたAmazonオリジナルドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』。
独立国宣言をした原子力潜水艦の海戦を壮大なスケールで映し出す一方、国家の武力保有による世界均衡を背景に、専守防衛や核保有といった日本が対峙する国防の課題を通して、国家としての尊厳を問いかける重厚な社会派ドラマだ。
「令和と昭和ギャップ」「性的マイノリティ」3作で重なり合うテーマ
初回から話題騒然となっていた『不適切にもほどがある!』は、昭和と令和それぞれの社会を相対的に風刺した笑いをメインにしてきたが、第5話でそれまでの流れが変わった。
令和にはいない純子と市郎の未来を知ってしまった市郎はどう動くのか。“不適切”を歌って踊るミュージカルは、第6話以降の後半はどうなるのか。物語がどこに向かっていくのか見えなくなったこの先により注目が集まりそうだ。
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『作りたい女と食べたい女』シーズン2では、春日のことを思う野本が、初めて女性に恋をしたことへの戸惑いや、相手にどう思われるかわからない不安と焦燥のなかの生活が、前半で描かれた。
そして、あるきっかけから2人はお互いへの思いを告白し、両思いの付き合いがはじまる。女性と付き合うのが初めての野本と、付き合うこと自体が初めての春日は、それまでと変わらない距離感の生活を送りながら、お互いに手探りで関係を深めていく。
シーズン2から登場した女性2人(矢子、南雲)が野本と春日それぞれにとって力強い存在となり、2人の背中を押していた。一方、南雲は2人との付き合いを通して持病と向き合うことを決意し、生活が前向きになるとともに笑顔が増えていく。
まだまだ4人と一緒の時間を過ごしていたいと思わせる素敵なドラマだった。最終話のあとコロッケが食べたくなった人は多いことだろう。
次のステップとなる同棲生活がはじまる野本と春日の心温まるやりとりと、日々明るくなっていく南雲に、そっと寄り添いたくなる。シーズン3が期待される。
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『おっパン』は、古い常識、偏見で凝り固まったデリカシーのかけらもないアラフィフだった主人公・沖田が、時代や社会にそぐわない旧態依然の自身の考え方や態度に気づき、引きこもりになってしまった性自認に悩む息子にも、Z世代の会社の部下にもしっかり向き合い、自分を変えようとする物語。
当初は家族のなかで1人浮いていた存在だった父・沖田は、いまでは息子だけでなく、妻や2次元を愛する娘の気持ちを理解しようと努力し、家族からの視線も変わった。本作も多様性や性的マイノリティを題材にするが、その当事者と家族の関わり方をメインにする。
自身の考えや行動の至らなさを時代や社会のせいにせず、少しずつ変わっていく父・沖田。その気づきが家族を優しく包み込む様子に心が温まる。
国家としてのあり方を問いかける硬派なエンタメ大作
『沈黙の艦隊』は、昨年劇場公開された映画版が1〜2話になり、3〜8話からドラマオリジナル。映画版のラストでは、日米合同プロジェクトとして製造された原子力潜水艦「シーバット」が、両国から離反して独立国「やまと」を名のった。自衛隊潜水艦「たつなみ」がその後を追い、シーバットが米軍第7艦隊に囲まれるところから、ドラマ版の物語がスタートする。
映画版はドラマ版のプロローグだった。第3話の冒頭から米軍第7艦隊の空母、巡洋艦、哨戒機さらには原子力潜水艦が、「やまと」に攻撃を仕掛ける。海上と海中をまたにかけた圧倒的な迫力の海戦シーンが繰り広げられる。
それと同時に陸上では、日本とアメリカそれぞれの国家の威信をかけた政治的な対話の攻防が繰り広げられるが、むしろこちらがこのドラマの本筋になる。
そこでは、世界平和を声高に唱えながらも、アメリカの核の傘に守られる日本の現実へのさまざまな考え方を提示しながら、国のあるべき姿と進むべき未来と真剣に向き合う政治家や閣僚、官僚たりの姿を映す。
劇中で、事態を収めるための日米首脳会談の最中に、米軍第3艦隊の攻撃をうけた「やまと」は、反撃をして米空母「ロナルド・レーガン」を沈没させる。その衝撃的なシーンは、フィクションであるとわかったうえでもさまざまな思いを視聴者に抱かせるだろう。国家としての毅然とした態度に胸がすく思いを持つ人も少なくないかもしれない。
同シーンには、いまの日本にそんな有事が起きた際をシミュレーションするかのような緊迫感と真に迫った迫力があった。同時に、専守防衛という定義名分の戦場における無力さや、核保有という軍備の影響力の大きさを示しながら、日米同盟の意義や、国家にとっての正義を視聴者に問いかける。
日々の生活に忙殺される平和な社会を享受する人々に対して、日本社会の根底にある目を背けがちな現実を真正面から捉え、日本が内包する国防の矛盾を突きつける。
劇中の竹上総理大臣(笹野高史)は、日米会談で「飼い犬に手を噛まれた」と言い放つ米国大統領に対して、対等な立場の国家として日本が言うべきことをしっかりと主張する。その姿をどう感じるか。いまの日本社会が享受する平和と国のあり方を問いかける物語になっている。
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