平成の働き方の変化(女性の活躍編)〜途上にある男女平等への道〜
今日、3月8日は国際女性デーです。これにちなみ、平成の30年間で女性の立場や働く環境がどのように変わったかを、キーワードで振り返っていきます。
【平成の働き方の変化 これまでの記事】
■国際条約批准から始まった男女平等への取り組み
国際女性デーは、国連が女性への差別撤廃と女性の地位向上を目指して制定した記念日です。
国連というと、私たちの生活とはあまり関係ないと感じるかもしれません。しかし、そんなことはないのです。
昭和60年(1985)に制定された男女雇用機会均等法(以下、均等法)は、国連が採択した女性差別撤廃条約を日本が批准するために必要となり、作られたものです。国連の働きかけがなければ、女性の社会進出はもっと遅れていたかもしれません。
均等法以前は、男女で採用条件や待遇を変えることが禁止されていませんでした。女性だけに「結婚したら退職」や「30歳で定年」などの条件を課して雇うことが、普通に行われていたのです。
■均等法が生んだ「総合職・一般職」という区別
均等法は、定年・解雇については性別による差別を禁止、募集・採用及び配置・昇進については差別を行わないことを努力義務としました(平成9年の法改正でこれらも禁止になりました)。
これに対して企業がとったのは、昇進や賃金体系を「総合職・一般職」というコース別にするという対応でした。性別で差別しているわけではなく、コースが違うのだから扱いが異なっても良い、ということにしたのです。
均等法施行10年目の平成7年(1995)でも、働く女性の約半数が勤続年数5年未満でした。法的には結婚時の退職の強要はできなくなっても、「寿退社」の文化がまだまだ残っていたのだと思われます。
しかし、徐々にですが長く勤める女性も増えていきます。
前回の記事で述べたとおり、そのような変化と「女性は家庭を守るのが本分」「女性が仕事で男性と同等の責任を担うのは無理」という古い価値観の摩擦が、セクハラなどの問題を生み出しました。
■少子化への危機感から仕事と子育ての両立支援が本格化
平成4年(1992)からは育児休業法(現在は育児・介護休業法)が制定され、まずは常用雇用者に対して1歳までの育児休業が保障されました(ただし、30人以下の事業所については3年間の適用猶予がありました)。
これは、平成元年(1989)に合計特殊出生率が過去最低の1.57を記録し、その後もさらに低下が続いたことから出てきた出生率向上策です。
その後も、育休の適用範囲拡大、育休中の給付割合の増加、短時間勤務や時間外労働の免除など、規定の内容が充実し、両立支援は手厚くなりました。
第一子を出産しても仕事を続ける女性の割合は、2010~14年に53.1%と、初めて半数を超えました。
これは、両立支援策の効果がやっと出てきたということのほかに、不況により夫の稼ぎだけでは家計が成り立たなくなったという経済的な側面など、複合的な要因が考えられます。
■働く女性が増えても残る男女格差
働く女性が増え、かつてはM字型を描くのが特徴だった日本の女性の年齢層別労働力率のグラフは、台形に近い形に変わってきました。
しかし、就職や仕事の場における男女の格差はまだ残っています。
例えば、厚生労働省「平成28年度雇用均等基本調査(確報)」によると、課長相当以上の役職者に占める女性の割合は、まだ12.1%です。
平成28年(2016)4月に女性活躍推進法が施行され、大企業を中心に女性管理職比率を高めようと努力する企業が増えています。しかし、その候補者が少なくて苦労している会社も多いようです。
それには、大きく分けてふたつの要因が考えられます。
・(要因1)昭和の働き方を変えられない企業
ひとつは、「24時間戦えますか」に象徴される昭和な働き方から、企業が脱却できていないということです。
第一子出産後も仕事を続ける女性が増えたといっても、47%の人たちは辞めているわけです。その背景には、妊娠中や子育て中の女性をどう扱ってよいのかわからない経営者や管理者あるいは同僚からのマタハラや、長時間労働をしなければ認められない組織風土、非効率な仕事のしかたなどがあります。
一方、この十数年でワーク・ライフ・バランスに対する意識を高め、育児と仕事の両立支援に力を入れる企業も増えました。しかし、子育て中の女性には配慮するけれど、男性や子どものいない女性には残業も転勤も厭わずやってほしいと考える企業が少なくありません。
そういう企業は、子育て中の女性社員を他の社員と区別し、マミートラックに押し込めてしまいがちです。
「マミートラック」とは、育休から復帰した女性を待つ、出世につながらないキャリアコースのことです。育児との両立ができるように配慮してもらえるものの、子育てを優先していると見られ、責任ある仕事や難しい仕事を任されなくなり、成長し評価されるチャンスがなくなってしまうのです。
せっかく仕事を継続する女性が増えても、これでは管理職のなり手が増えません。また、子育て中の女性とそれ以外の社員とを区別することで職場の一体感も薄れます。
この状態を脱するには、誰もがワーク・ライフ・バランスがとれる働き方を実現し、子育てや介護といった事情のあるなしにかかわらず、仕事の質を評価するマネジメントにアップデートしなければならないのです。
・(要因2)男女の役割分担意識を変えられない社会
男女格差がなくならないもうひとつの要因は、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識がいまだに根強いことです。
日経新聞電子版の3月2日の記事『「介護・育児で非正規」増加 働き方改革は途上』では、女性が家事と仕事の両立のために非正規の仕事を選ぶ傾向が強いことが指摘されています。
3月3日の朝日新聞は『女性の平均賃金、男性の7割 正規と非正規の「裂け目」』という記事で、男性を100とした場合の女性の賃金が先進国では最低レベルの73.4にとどまること、背景には「夫が稼ぎ、妻は家事を担いつつ家計を補う」という古いモデルを前提にした制度や慣習が残り、女性が正社員として働き続けることが難しい現状があると伝えています。
男女の役割分担意識は、女性を働きにくくさせるだけでなく、男性が家事に携わることも難しくします。
日本の男性の家事・育児時間が諸外国と比べても短いことは有名ですが、これは当人のやる気の問題以上に、男性の仕事が忙しすぎることや、「家庭のことは女性がきちんとやらなければいけない」という考え方に女性も含めて囚われているという問題が大きいのではないかと思います。
■女性活躍推進、正社員化の動き
政府も、男性中心の職場のあり方や長時間労働に問題があることは理解しています。それをなんとかしようと、「イクメンプロジェクト」(平成22年〜)を立ち上げたり、働き方改革で長時間労働を是正しようとしたりしているわけです。
そして、企業に対するより直接的な働きかけとして平成28年(2016)4月に女性活躍推進法を施行しました。
先に触れたように、これを受けて管理職に占める女性の割合を増やすことを目標にする企業が増えています。そのためにはまず管理職候補を育てなければなりませんから、一般職を総合職に、あるいは非正規社員を正社員に転換するという動きも出てきています。
また、少子高齢化による人手不足への対応としても、非正規社員の正社員化に取り組む企業が増えています。
なかでも、勤務地限定や短日・短時間勤務などを認める「限定正社員」というコースを作って、これまではやむを得ず非正規の仕事を選んでいた人たちを呼び込み、つなぎとめようとするケースが目立ちます。
働き方の選択肢が増えるのは良いことですが、限定正社員が新たな格差を生むシステムとならないように注意する必要があるでしょう。
■真に平等な時代はやってくるか
最近ではフリーランスという働き方も市民権を得てきました。しかし、会社に雇われない働き方は出産前後に得られる経済的な支援が非常に少なく、いわゆる「保活」でも不利な状況に置かれやすいという問題もあります。
平成の30年間は、働き方も家庭のあり方も非常に多様化し、それにともなって様々な問題が顕在化した時代だと言えるでしょう。
冒頭に触れた女性差別撤廃条約には次の一文があります。
次の時代には、男性か女性かということではなく、一人ひとりがそれぞれに社会や家庭での役割を見出し、それを社会全体で支えるような状態が実現することを祈ります。