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女性管理職育成研修に上司も同席。大企業ならではの女性活躍推進プログラム

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命での研修の様子(筆者撮影)

「ジョカツの風、感じる?」

「うん。私のところは、かなり(笑)」

「うちはそれほどでも。部署によって温度感が違うよね……」

――先日、ある大企業の女性社員を対象とした研修をお手伝いした時に耳に入ってきた会話です。

ジョカツは漢字で「女活」で、「女性活躍推進」のこと。女性活躍推進法の影響もあり、特に大企業では「女性管理職比率◯%」といった目標を掲げて様々な取り組みが始まっています。冒頭の会話からは、自分たちに向かう「ジョカツの風」を感じ、戸惑ったり不安に思ったり、あるいはちょっと面倒だな、と思ったりしている様子が伝わってきました。

女性活躍推進に力を入れている大企業ではどんなことが行われているのか――、具体的に知るために、ある企業の「次世代管理職育成プログラム」の一部を取材させてもらいました。

女性管理職育成のキーマンとなる上司も交えた研修を実施

今回取材したのは、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命(以下「ひまわり生命」)の「スタープログラム」という取り組み。女性部課長が全社横断で企画し2016年にスタートした1年間のプログラムで、この10月に第2期が始まりました。

同社は従業員数が2,800名弱で、正社員における女性の比率は約45%ですが、2014年時点では女性管理職はゼロでした。それを2017年に女性管理職18%まで増やしており、2020年には30%にするという目標を掲げています。

「スタープログラム」では、主任や副長の職に就く女性社員から「スターメンバー」と呼ばれる対象者を選出し、直属の上司によるOJTと、年に数回の集合研修での教育・経験・交流の機会が提供されます。昨年は62名、今年は77名がスターメンバーになっています。

特徴的なのは、女性社員本人だけでなくその上司も対象としたプログラムであること。人財開発部長の下川亮子さんは、「女性管理職育成には、それをサポートする上司(多くの場合男性)がキーとなるため、意識的に上司を交えた研修を行っています」と語ります。

10月16日が第2期のキックオフで、全国からスターメンバーとその上司が集まり、1日かけて集合研修が行われました。筆者は、午後からその様子を見せていただきました。

ひまわり生命「スタープログラム」第2期キックオフ プログラム

【午前】

  • オリエンテーション(開会宣言、スタープログラム概要説明)
  • 外部講師セミナー(テーマ「新時代を生きる女性のキャリア戦略」)

【午後】

  • 役員講話
  • グループワーク
  • 役員挨拶
  • 閉会

※閉会後、別室にて1時間ほどの情報交換会

「リーダーになんかなりたくない」に対する男性取締役の答えは?

取締役常務執行役員の大場康弘氏(筆者撮影)
取締役常務執行役員の大場康弘氏(筆者撮影)

午後のプログラムは、取締役常務執行役員の大場康弘さんによる講話から始まりました。

お話の後半では、スターメンバーが事前に出した質問や悩みにひとつひとつ回答されました。例えば「リーダー職を目指そうとは思っていないが」というものには、「個人の職業感はそれぞれなので、無理をする必要はない。ただ、今日集まっているメンバーにとって、やる価値のある仕事だと思うし、チャレンジして欲しい」と述べ、「『偉くなりたくない』と『リーダー職になりたくない』は別。リーダー職は周囲を正しく導くという、役割にすぎない。ずっと導かれるだけの立場がいいのか考えてみてほしい。仕事を一生懸命やっていれば、『こういう職場にしたい』『こういうことがやりたい』という思いがきっと出てくるのでは?」と語りかけました。

なぜ女性だけのプログラムなのか? 女性だけ特別扱いはおかしいのではないか」という質問もありました。それに対しては、女性だというだけで評価が低くなってしまうといった「アンコンシャスバイアス」の存在を指摘し、「今は男性が高いゲタを履かされている状態。アンコンシャスバイアスが働いているうちは、特別扱いも必要なこととして続けていく。性別に関わりなく実力本位で登用され、組織全体の力が上がったら、特別扱いはなくしたい」と説明されました。

他部署の管理職や女性社員とのディスカッションからヒントを

その後、参加者全員が16のグループに分かれてグループワークが行われました。その際、スターメンバーとその上司は別のグループになります。「スタープログラム」には、「人脈を広げる」、「悩みを相談できる仲間を見つける」という狙いもあり、それがこのグループ分けにも反映されているのです。

キックオフの後、スターメンバーは「スタープログラム」における「行動計画」を作成するのですが、グループワークではそのヒントを得るべく、自分の課題や悩みなどを話し、他のスターメンバーや上司たちと意見やアドバイスの交換が行われました。

最後に16グループそれぞれの代表から、ワークを通じて気づいたことなどが発表されました。聞いていると、多くのスターメンバーは次の3つの課題を抱えているようでした。

  • 業務スキルや経験の面で自信がない
  • 仕事を抱え込みすぎ、人に任せられない
  • 部下や後輩をうまく指導できない

そして多くの方が口にしたのが、他部署の上司の方々のアドバイスや経験談にとても励まされたということです。

グループワーク後の発表の様子(筆者撮影)
グループワーク後の発表の様子(筆者撮影)

「そういうときは、こうしたらいいんじゃない?」という具体的なアドバイスはもちろん、上司の皆さんからは「自分たちだって、いつも上手くやってきたわけではないし、そんなに気負わないで、もっと楽観的になって大丈夫だよ」というメッセージがあちらこちらで贈られ、スターメンバーたちを大いに勇気づけたようです。

上司の側からは

「直接の部下でない人たちの強み、弱み、取組状況や悩み等を聴くことで、自分の管下職員も類似の思いを持っていないかなど参考になった」

「自分では些細なことと思っていることを非常に重く受け止めている現状も見て取れた。自分の組織のメンバーにも当てはめ、その気持ちや思いを活かしていきたい」

など、ワークを通じて気づいたことを自身の部下に対するマネジメントにも活かそうとする声も聞かれました。

組織の中の横とナナメの関係が相互理解を深める

グループワークの様子や、その後の皆さんの表情や言葉を受けて、部署は違うけれど同じような悩みを抱えている女性社員の横のつながり、そして業務上は直接関係しない管理職とのナナメのつながりを作るしかけが、とても有効だと感じました。

筆者自身の会社員時代を振り返っても、一緒に頑張っている同僚や自分の評価者でもある上司は、一番近い存在でありながら、なかなか本音を言いづらいところがあります。「できない」「どうしたらいいの」といった「弱み」については特にそうで、一番なんとかしたいことにもかかわらず、ひとりで抱え込んで堂々巡りになったり、ある日突然爆発させて周囲を驚かせてしまったり……。

直接は関わりがなく、でも同じ会社だからなんとなく状況は分かるという相手なら、素直に話せる気がします。会社によっては、メンター制度としてナナメの関係が確立されているところもありますね。それについて、「メンター役の負担が大きそうだな」と思うこともあったのですが、今回の取り組みを見ていて、他部署のメンバーの悩みや思いを聞くことは、間接的に自分の部下のニーズを知ることにもなって、上司の側も得るものが大きいのだと分かりました。特に「女性活躍」ということに関しては、男性上司の意識改革やマネジメント力の向上のために、様々な女性社員の話を聴く機会を作ることは非常に重要でしょう。

今回取材させてもらったやり方は、横やナナメの組み合わせをたくさん作れる大企業ならではの方法でもあると思います。今後、自然に女性が活躍できる社会が実現するまで、それぞれの組織の規模や特徴に合った様々な方法が試されていくことが期待されます。

(本記事は、2017年12月に『くらしと仕事』に掲載した内容を、一部編集の上で投稿しています)

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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