女性が社員の半数を占めるのに管理職が少ないのはナゼ?JALの分析と対策
先日、各国の男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」の2017年版が世界経済フォーラムより発表された。日本は144カ国中114位で、昨年の111位からさらに下落。スコアを判定する4分野のうち、「教育」では74位、「健康」は1位と高成績なのに、「経済」(114位)と「政治」(123位)が大きく足を引っ張っているのだ。
実際、課長以上の管理職に占める女性の割合は昨年度で12.1%と、政府が掲げる2020年までに30%という目標には程遠い(厚生労働省「平成 28 年度雇用均等基本調査(確報版)」より)。
歴史が長く、人数規模の多い企業の方が、女性活躍に苦戦
東京大学の大湾秀雄教授は『日本の人事を科学する』(日本経済新聞出版社)で、新興企業よりも伝統的企業の方が女性管理職比率の引き上げに苦戦する傾向を指摘している。その理由として挙げるのが、管理職への昇進時期が遅いことだ。仮に管理職昇進のタイミングが40歳前後だとすると、2000年頃までに新卒採用した社員がその候補となる。しかし当時の女性の採用数が少なかったり、採用しても辞めてしまったりしていて該当者が少ないのだ。
同書では、従業員数が300人を超える大企業の方がそれ以下の規模の企業よりも女性の管理職登用が遅れているという事実も示されている。そういう意味で今回紹介する日本航空(JAL)は、伝統があり、かつ人数規模も大きい、不利な部類に入る会社だ。社員の男女比はほぼ半々だが、客室乗務員(CA)はほとんど女性と所属部署に偏りがあることもあり、管理職における女性の比率は2017年3月末時点で16.3%だった。これを2023年度末までに20%以上にするという目標を掲げ、様々な取り組みを進めている。その内容について、日本航空株式会社の久芳珠子さん(人財戦略部 ワークスタイル変革推進グループ アシスタントマネジャー ※所属・肩書は2017年9月時点のもの)に聞いた。
女性管理職が少ないのはなぜ? 分析の結果見えてきたこと
JALではまず、女性管理職が少ない現状について、その原因分析から始めた。
「採用時点に遡り、JALの場合と世間一般の場合とでSPI(適性検査)の結果に異なる傾向があるのかを見ました。それから、入社後の査定や、入社10年目と管理職登用前に外部の機関に委託して行っているアセスメントの結果など、様々なデータを洗い出していきました。他には、管理職にインタビューをしたり、残業時間と評価の相関関係を見たり……。東京大学の大湾先生の研究会に参加していたので、そこでアドバイスももらいながら分析をしました」
徹底的な分析の結果見えてきたのは、女性社員の方が離職率が高いこと。そして、採用の時点では能力の面で男女に差がないにも関わらず、勤続年数が長くなるに連れ、高評価を得る女性社員の割合が男性社員に比べて相対的に少なくなり、結果として管理職登用数の少なさにつながるということだった。加えて、産休・育休といったライフイベントが始まる手前の世代、20代半ばからそういう傾向が始まっているということだったという。
入社して5年くらいは性別に関わりなくジョブローテーションがあるため、仕組み上、経験や学習内容に差が付くことはないはずなのに、なぜ男女で評価が分かれるのか――、その理由を久芳さんは次のように推測する。
「女性の部下に慣れていない男性上司はどこまで言ってOKなのか、教えるべきことやその踏み込み度合いなどが、手探りになってしまうのだと思います。その結果、男性の部下と比べて関わり度合いが低くなるといったことが、インタビューなどを通じて見えてきました」
必要なのは両立支援の“質の変革”
課題は入社後の“育成”にある――。現状分析の結果、久芳さんらはそう判断した。
育休を最長3年取得できるなど、以前から子育てと仕事を両立するための施策が充実していた同社。しかし女性社員にもっと活躍してもらうためには、仕事を免除する“ケア施策”から、子育てなどの制約があっても能力を伸ばす機会が豊富に与えられる“フェア施策”へと、両立支援の質の転換が必要だった。
上の図は、同社における「両立支援」施策を、「ケア施策/フェア施策」という軸と対象者の多寡で分類したものだ(図中の“FY”は導入年度)。
注目すべきは、右上の「対象者が多いフェア施策」がここ数年で数多くスタートしている点だ。上司研修・上司面談、キャリア教育、人事機能強化などのフェアな評価と人事施策を実施していくための制度、長時間労働是正や在宅勤務など、生産性を上げていくための制度など、対象者が女性社員に限定されないものが多い。女性の活躍を促すには、女性社員だけを変えようとしてもダメだということで、特に評価をする側である上司の教育は重要だ。
「評価者研修は以前から実施していたのですが、人事制度のレクチャーが中心でした。2013年から、イノベーションやダイバーシティといった会社の人財の現状とそのあり方を伝えるものを加えていきました。毎年1,000人ほどを対象にした研修を、人事部が交代で1ヶ月以上かけて実施しながら、単位時間あたりの生産性とはどういうことか、長時間労働を是正するにはどうしたら良いかなども伝えました」
女性社員が働き続け、能力を伸ばすためのきめ細かい施策も
一方で、対象者が少数の左側の象限には、「女性選抜研修」やグループメンタリングなどがあり、これまで啓発の機会が少なかった女性社員に焦点を当ててテコ入れをしていこうという姿勢が見える。
珍しいところでは2015年度から「子女のみ帯同の転勤支援」という制度が始まっている。これは、アメリカのエンジンメーカーの本社に赴任する女性社員が実母と二人の子どもを連れていくことになり、配偶者ではなく子を帯同しての転勤を経済的に支援する制度を作ったのだそう。子育てしながらもチャレンジしようという社員に対し、個々のニーズに合ったサポートをしていこうという意志の表れだ。
また、航空会社ならではの女性の職種の偏りも、同社が是正しようとしている課題だ。以前は客室乗務員として入社した社員はその職種の中でキャリアを積み、管理職になるのが一般的だった。しかし、2023年度末までに女性管理職比率20%以上という目標を達成するには、女性社員が少ない部門でも女性管理職を増やしていく必要がある。そのため、優秀な女性社員を部門を超えて登用していくことも始めているという。
手応えと今後の展望
女性活躍のための取り組みを始めて数年経った今、まだ女性社員の多くが管理職を目指して頑張るという雰囲気には至っておらず、道半ばだという久芳さん。課題として、女性が自分と似たロールモデルを追い求め過ぎるということを挙げる。
「活躍する女性社員の中にもいろいろなタイプがいますが、『自分はあの先輩みたいには働けない』とか、『あの人は特別だ』と感じて前に進めない人もいる。必要以上に自分と違う部分を見て一喜一憂するのではなく、自分らしさに自信のもてる、そんな背中を押す支援をもっと進めていかなければいけないと感じています」
ちなみに、久芳さんは元々エンジニアとしてJALに入り、2011年から人事部に異動。現在は働き方改革に携わっている。エンジニア時代のキャリア観について尋ねると、特に女性だからと意識することはなく「ただただ好きな飛行機に関わる仕事を、定年まで続けたいな」と考えていたそうだ。両立支援ももちろん大事だが、仕事のやりがいや会社の事業の魅力のようなものも、長く働いてもらうための大切な要素だと感じる話だった。
(日本航空の久芳さんには、同社の働き方改革についてのインタビューもしています。こちらもぜひお読みください。