週4日勤務の導入企業が示す、トップ主導の働き方改革のポイント
今年2月、ニュージーランドのパーペチュアル・ガーディアン(Perpetual Guardian)社が、週4日勤務制度の導入ガイドラインを公表しました。
同社は、2018年3月に2ヶ月間のトライアルとその結果の分析をした上で、同年11月に週4日勤務制度を正式導入しました。
週4日勤務は生産性や従業員満足度を向上する手段として、一定の効果を上げています。(以下の2つの記事で詳細をお伝えしています)
同社の経験を元にまとめられたガイドラインは、テレワークやフレックスタイム、時短勤務など、週4日勤務以外の新たな働き方を取り入れる際にも大いに参考になります。
ここでは、ガイドラインの中から「週4日勤務のトライアルを始めるために役立つ15のヒント(15 Useful Pointers: The blueprint for starting your Four-Day Week trial)」を紹介します。
新しい働き方のトライアルを始めるポイント
ガイドラインの全文は、以下のサイトの「WHITE PAPER」のリンクから閲覧できます。
同社の取り組みの特徴のひとつに、最初に週4日勤務をやってみようと考えたのが創業者兼CEOだったということがあります。
働き方改革はトップダウンで行われることもあれば、現場から発案されるボトムアップ型もあります。それぞれに利点も難しさもありますが、Perpetual Guardianの場合は前者だったわけです。このガイドラインは、トップ主導の改革を上手く進めるためのヒントとして有用でしょう。
以下は15の項目を筆者が翻訳したもので、カッコ内は筆者による補足です。
週4日勤務のトライアルを始めるために役立つ15のヒント
1.自分でデスクトップリサーチと現地調査を行う
(まずは先行事例や研究から学び、自社への適用について考えましょう)
2.社員に話し、あなたの目的と達成しようとしていることについて明確にする
(なんのために新しい取り組みをするのか、目的とビジョンを理解してもらうことが大切)
3.トライアルの計画と実施のあらゆる面で、社員を巻き込む
(トップ主導で始めるからこそ、計画段階から社員に関わってもらわないと、やらされ感がつのります)
4.従業員がどのように働き方を変えるかを考えるための、十分な時間とスペースを与える
(業務時間中に新しい働き方を考えるワークショップを開催する、検討結果をまとめるまでにある程度の期間をとる、といったことが考えられます)
5.方針が十分に支持され、リソースが十分かを確認する
(十分な納得が得られていなかったり、無理のある点が解消されないままトライアルを始めてもうまくいきません)
6.大胆になり、技術的な問題で本質を見失わないようにする
(「できない理由」が出てきたときは、そもそもの目的に立ち返り、それが本当に問題なのか、他の方法はないのかを考えてみることです)
7.仕事量、プロジェクト、または顧客の要求に応じて柔軟に対応できるポリシーを作成する
(最初から強硬なルールを決めてしまうと、運用のハードルが高くなります。「◯◯の場合は以前の働き方に戻してもよい」など、優先すべきことが何かを明確にしておくことが必要でしょう)
8.社員一人ひとりがそれぞれに合った生産性向上策を見つけるよう奨励する
(仕事の内容やプライベートの状況などによって、最も生産性の高い働き方は異なります)
9.チーム内で「休み方」について改めて考え、その方法を構築することを奨励する
(Perpetual Guardianでは、土日以外の1日の休みを何曜日にするかはチームと個人に任されました。メンバー同士でカバーできるよう、チーム内で方針を決めるのが良いでしょう)
10.社員が自分で意思決定できる権限を与え、彼らの判断を信頼する
(信頼され、任されているという意識が、社員のやる気と自律性を高めます)
11.トライアルの効果を測定し評価するため、外部のコンサルタント/学者を雇う
(取り組んだことの意味に客観的な評価が与えられれば、社内外の納得度も高まります)
12.顧客に何が起こっているのかを知らせ、サービスの低下がないことを保証する
(会社として正式に顧客に説明することで、各社員も取り組みやすくなります。また、サービス低下がないことを宣言することは、社員の気を引き締める効果もあるでしょう)
13.新しい雇用体系が法的要件を逸脱しないようにする
(働き方のルールを変更したことで契約違反や法律違反などにならないよう、社労士など専門家に相談すると良いでしょう)
14.施策の目的は、従業員だけでなく会社にも利益をもたらすことであることを明確にする
(生産性の向上や離職率の低下など、会社としての狙いを明示することで、社員が不公平を感じたり、制度を間違った方向に利用するといったリスクが軽減できます)
15.柔軟な勤務制度方針は「魔法の弾丸」ではないことを認識する
(2番、14番と関連しますが、柔軟な働き方にすればメリットばかりというわけではありません。デメリットにも目を向け、それでも続けるのか、やめるのか、きちんと評価することが重要です)
世界で注目される”Four-day Week”
15の項目からは、トップ主導であっても(だからこそ)、社員の納得や自律性を最大限に高めることが非常に重要であることが見えてきたのではないでしょうか。
昨年Perpetual Guardianがトライアルの結果を公表して以来、”Four-day Week”(週4日勤務)は世界中のメディアで話題になり、取り入れる企業も出てきています。
Perpetual Guardianの地元ニュージーランドのほか、イギリスでも労働日の短縮への注目度が高く、イギリス労働組合会議(TUC)の事務総長は昨年の年次総会で、以下のような発言をしています。
今年1月にはイギリスのウェルカム・トラストが、800名の職員を対象に週4日勤務制度の導入を検討していることがニュースになりました。ウェルカム・トラストはビル&メリンダ・ゲイツ財団に次ぐ規模の医学研究支援団体で、週4日勤務を始めれば世間への影響力も大きいはずです。
ところが4月12日のニュースによれば、同団体は週4日勤務にトライする計画を断念したとのこと。以下の記事によれば、職員の業務が多岐にわたるため、新制度の運用が複雑になることや、職員間で不公平感が生まれる可能性が危惧されたようです。
Wellcome Trust drops plans to trial four-day working week | UK news | The Guardian
「導入を検討」と注目が集まったあとに「やっぱりやめます」というのは、日本の企業ではなかなかないような気がして面白いな、と思いました。
同じ制度でも、業態や企業文化によって、合う合わないや、導入の難しさは異なるものです。たとえ失敗しても、そのプロセスや結果のデータは貴重な学びになります。Perpetual Guardianのように、その資産を世間にオープンにし、社会全体の働き方の改善に役立てようという姿勢は見習うべきではないでしょうか。
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