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週休3日制は定着するか?週休2日の歴史から考える

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
1913年当時のフォードの組み立てライン(Wikipediaより)

政府はこの3月に時間外労働時間の上限規制を設ける方針を決め、現在は労働基準法の具体的な改正案を詰めているところです。

しかし、「1日8時間、週に40時間」という法定労働時間の規定は、当面変わることはないでしょう。「週40時間」の元には、「週に5日働き、2日休む」という考え方があります。今やすっかり当たり前のように感じられる週5日勤務・週休2日制はいつ頃から定着したのでしょう? その歴史を振り返り、「週休3日」などの新しい概念が広まっていく可能性について考えます。

「週5日勤務・週休2日制」の歴史

週休2日制を最初に導入したのは自動車のフォード

アメリカで最も早く(おそらく世界的にも先陣をきって)週休2日制を導入したのは、自動車メーカーのフォードの創設者のヘンリー・フォードだと言われています。

工場の労働者には1926年の5月1日から、事務員には同年8月から、1日8時間・週5日の40時間労働制を導入――、このフォードの動きを受け、多くの製造業が週休2日制に移行し、それが今日のスタンダードになったといいます。

他の会社がフォードの動きを追いかけた背景には、フォードがその前に行った賃金引き上げの成功があったからかもしれません。フォードは1914年に、1日9時間の労働に対して2.34ドルだった最低日給を、8時間で5ドルにしました。このことは業界に激震をもたらしましたが、フォードの熟練工達は会社に愛着を持ち、定着率が高まったため、職業訓練コストの低下、生産性の向上という大きな効果を産んだのです。

フォードは、労働者がお金を稼ぎ、余暇の時間を持つことが消費を喚起し、経済の発展につながると考えていました。実際、大量生産による低価格化とあいまって、それまで富裕層のものだった自動車は、一気に大衆に普及したのです。「余暇を増やせばモノが売れる」という考えは今年2月から始まった「プレミアムフライデー」も同じです。しかし、一般の人達が物や娯楽に飢えていたヘンリー・フォードの時代と違いますし、余暇が増えても収入は増えないという状況にあっては、同じような効果を求めるのは難しいでしょう。

日本では50年前に松下電器が導入

松下電器産業 創業者の松下幸之助氏(Wikipediaより)
松下電器産業 創業者の松下幸之助氏(Wikipediaより)

日本では、1965年4月17日に松下電器産業(現パナソニック)が週休2日制を導入したのが、最初の事例と言われています。

産経新聞の記事によれば、きっかけは創業者 松下幸之助氏の米国視察。週休2日でかつ日本よりも高額の給料を支払いながら収益を上げている米国流のやり方に感心し、「海外企業との競争に勝つには能率を飛躍的に向上させなくてはいけない。そのためには休日を週2日にし、十分な休養で心身の疲労を回復する一方、文化生活を楽しむことが必要だ」と、週休2日制の導入を宣言したそうです。

80年代後半から徐々に「週休2日」が浸透

松下電器は労働日を減らしても生産性を上げ、大きな成長を遂げました。しかし、週休2日制が日本全体に広がるのには、30年程度かかっています。

今から30年前の1987年に労働基準法が改正(1988年施行)され、労働時間の規定は「1日8時間、週48時間以内」から「1日8時間、週40時間以内」に変わりました。この背景には、貿易摩擦により海外から「日本は働きすぎ」という批判が巻き起こっていたことがあります。これを緩和するため、国は当時 2,100 時間前後だった年間総労働時間を1,800時間程度に引き下げることを目標に様々な施策を打ったのです。

労働基準法の改正と同時に日本中が週休2日に――、というわけではなく、移行措置を経て、今からちょうど20年前の1997年4月に全面的にルール化されることになります。

大きなトピックとしては、1989年2月から銀行など金融機関が、土曜日の窓口業務を中止しました。また、1992年5月から、国家公務員も完全週休2日となりました。また、2002年度から公立学校に週5日制が導入されたことも、「土曜と日曜は休み」という意識が浸透した大きな要因でしょう。

週休を増やそうという動きはなぜ起きているのか

昨年、ヤフージャパンが「週休3日制」を導入する意向を発表し、世間の話題をさらいました。有名なところだと、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、転勤のない「地域正社員」に対して「1日10時間×週4日勤務」の週休3日制を導入済みです。

このような、休日を増やそうという動きはなぜ起きているのでしょうか?

技術の進歩で人間の働く時間は減るはず!?

書籍『フリーエージェント社会の到来』(ダニエル・ピンク著)には以下の一説があります。

1967年にアメリカ上院の公聴会で発言した専門家は、20年以内にアメリカ人の平均労働時間は週28時間にまで減るという予測を示した。未来学者のハーマン・カーンも同じ年に、生産性の向上により、労働時間は、2000年には週20時間で十分になるという予測を披露した。

出典:『フリーエージェント社会の到来 新装版』(ダニエル・ピンク著)

1日8時間働くとして週28時間なら週休3.5日、週20時間なら週休4.5日と、半分以上休めるという計算ですね!

結局これは当たらなかったわけですが、こういう予測の根拠には、「技術革新による生産性の向上で、もっと短い時間で仕事が済むようになる」という考え方があります。確かに、上の予測が披露された50年前にはインターネットもなかったので、当時何日もかけてやっていたけれど今なら一瞬で済むという仕事は多いでしょう。でも、時代とともにビジネスのスピードが速まり、やるべき仕事がどんどん増えていったおかげで、私達は全く暇にはなっていないのです。

ただ、今は「第4次産業革命」の時代で、人工知能(AI)やロボット等の技術が、18〜19世紀の産業革命以来の大変革をもたらし、今度こそ私達の仕事はどんどん減っていくと予想する人もいます。

昨年あたりは、「AIによってなくなる仕事リスト」のような記事を多く目にしましたが、最近は少しトーンダウンして、「そんなに急激に仕事がなくなるわけじゃない」という意見が増えてきました。つまり、技術的には「AIやロボットができる仕事」は増えるとしても、実際に人間と機械を交代させるにはそのためのコストもかかるし新しい技術に対する心理的ハードルもあり、「“できる”と“やる”は違う」というわけです。

日本、あるいは世界全体で急激に仕事がなくなるということは当面なさそうですが、一企業の単位ではそれが起きる可能性があります。ヤフーの宮坂社長のインタビューなどを読むと、「機械にできる仕事は機械に」というシフトを積極的に「やる」という姿勢を打ち出しています。

人手不足への対応

ヤフーの場合、週休3日制など、よりフレキシブルな働き方を可能にすることで、生産性、社員の生活の豊かさや創造性を向上させるという狙いがあるようです。ただ、これは長期的なビジョンであって、短期的には柔軟な働き方を許すことで人材をつなぎとめたいという意図があるのでしょう。4月からは、育児や介護が理由で希望する一部の社員に週休3日制を導入していますが、これは正に、離職防止の施策と言えます。

また、日本では非正規雇用者の数が増加しています。その人達の中では、実質的に週休3日以上を実現している人も多いでしょう。正社員の雇用においても、少子高齢化で働き手がどんどん減っていく日本では、まずは「人材獲得」を目的に、週休を増やす動きが広がるかもしれません。

不況への対応

労働時間の短縮について考えるときに、よく注目されるのがオランダの働き方です。

オランダでは、1970年代のオイルショック後の不景気を抜け出すため、政府と労働組合、企業の三者が合意し、協力して経済を立て直しました。その大きな勝因は、「ワークシェアリング」であったと言われています。企業は短時間労働者を多く雇うことで雇用を創出し、労働者は労働時間短縮による収入減を受け入れ、政府は緊縮財政で減税と社会保障負担を削減することで、それを支えました。

つまり、人手不足の逆、高い失業率(=人が余っている状態)を解消するのに、ひとりひとりが働く時間や日数を少なくしたのです。

OECDの2015年の統計で、年間の総労働時間は、同じくワークシェアリングが浸透しているドイツに続き、世界で2番目の短さ。2013年の『CNN Money』の記事によると、特に働く母親にとっては週休3日はほぼスタンダードで、前年に雇用された母親の約86%が週34時間以内、父親のうち約12%も短時間勤務をしていたとのことです。

父親が育児のために仕事を休む日を「papadag(パパの日)」と言い、週に1日これを取得している人も多いのだそう(参考:大きくなってもパパと仲良し!オランダ流・父子関係に見る、育児と仕事のバランス)。

オランダは、日本の「働き方改革」における重要キーワードのひとつ「同一労働同一賃金」という点でも、非常に注目されています。というのも、パート労働者にもフルタイム労働者と変わらない待遇を約束していることが、ワークシェアリングの大きな推進力になっているからです。

「前向きに仕事を減らす」という考え方

オランダは、ユニセフと国立社会保障・人口問題研究所が2013年に公表した「子どもの幸福度調査(日本との比較 特別編集版)」で第1位、国連の2016年版「世界幸福度報告書」においては幸福度ランキングで7位、最も平等な(幸福度にばらつきがない)国ランキングで3位に位置しています(日本はそれぞれ6位、53位、50位)。

幸福度調査は様々な要素を加味して行われているものですが、オランダが評価される一つの要素としてワークライフバランスの取りやすい働き方があることは、間違いないでしょう。

大分県国東市にあるアキ工作社という会社では、2013年から週休3日制を取り入れ、それが良い効果を上げていることから、同地域の他の企業にも週休3日制が広がりつつあるそうです。アキ工作社では1日当たりの労働時間を増やすことで、週40時間を維持しているそうですが、丸1日休める日を増やすことで、社員のモチベーションの向上が生産性の向上へとつながり、残業および総労働時間が減っているとのこと(参考:週休3日制、大分の半島で 東京と違う働き方模索 (朝日新聞))。

「日本人は働きすぎ」という批判を受けて導入された週休2日制ですが、それが定着した今、私たちはもう一歩、仕事以外に使える時間を増やす努力をしてもよいのではないでしょうか。

AIやロボットが人間の仕事を代替するという話はネガティブに捉えられがちですが、そういった技術も活用し、より人間らしい「くらしと仕事」を手に入れていく――、そんな前向きな姿勢が、個人にも企業にも求められていくのだと思います。

(本記事は、2017年3月に『くらしと仕事』に掲載した内容を、一部編集の上で投稿しています)

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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