人が唯一無二のリソースだから働き方を変える インテージグループ働き方改革推進担当 取締役インタビュー
社員のプロフェッショナリティを高めることを目的に、この4月よりコアタイムなしのフルフレックス制度と、回数制限のないリモートワーク制度を導入したインテージホールディングス。働き方改革の担当者へのインタビューと、開始後の社内アンケートの結果を紹介した前回に続き、同社の取締役で、働き方改革推進担当の仁司与志矢氏へのインタビューをお届けする。
20年も前に欧米から学んだ柔軟な働き方
世の中の働き方改革ブームについて、仁司氏は「ようやく時代が追いついてきた」と語る。氏はマーケティングリサーチ業界でキャリアを積む中で、海外の同業者とやり取りする機会があり、「仕事はオフィスで」という固定観念から解放された働き方に触れていたという。
「日本の夜中や早朝に電話会議をすることが多くて、そうすると後ろで赤ちゃんが泣いているのが聞こえたりするんですよ。『ごめんね、今日は家で仕事してるから』って言うんですね。もう20年ぐらい前からそういうのを見ていて、この業界の仕事って、全部オフィスでやらなければいけないということはないよね、とは思っていました」
さらに、自身が経営してきた会社がインテージグループに入って10年経ち、以前に比べて社員のプロ意識が低下してきたのではないか、と感じたことも、今回の働き方改革の原動力になっている。
「我々の会社がまだ小さかった頃は、年俸制で勤務時間のルールも特にないような働き方でした。それがインテージグループに入ってからは、時間管理もきっちりやりましょう、という形になって。会社の態勢としては良いことですが、働く社員は『ルールありき』で、あまり考えなくなってしまった、プロ意識が減ってきてしまったという側面があると気づきました。そこで、法令は遵守しつつ、働き方を変えていこうと考えたんです」
プロ意識をもった個人が自由裁量で働くというと、個人商店の集まりのようになり、チームワークが低下したりしないのだろうか? そんな疑問に対し、仁司氏は、ICT環境が整った今の時代であれば、柔軟な働き方とチームワークの両立は可能だと言い切る。
「今は、チームでのワークが無駄に多いんです。何かというと、すぐ会議をする。ミーティングは、仕事の時間の1割ぐらいでいいんじゃないでしょうか。そこでそれぞれの役割をきちんと理解し合えば、多分8〜9割の時間は場所を問わないセルフワークでしょう。
もちろん、必要なミーティングは遠慮なくするべきです。でも、物理的に集まっていなくても、今はテレビ会議、電話会議、チャットでできます。唯一問題になるのは、同じ場所にいると雑談が起きて、そこから学ぶことってものすごく多いですよね。でも、今はそれもチャットなんかでどんどんできます。むしろチャットの内容がオンラインで共有されれば、物理的に近くに座っている人同士だけでやっていたときよりも、学びの範囲が広がる。ようやくそういうことができる環境になってきたので、あとは経営者、マネージャーが頭を柔軟にして、そこにトライしてみようというふうに考えるべきだと思っています」
優秀な人材をつなぎとめるためにも働き方の自由度が必要
多くの企業にとって、介護や育児のために今まで通りのペースでは働けない人たちをいかにつなぎとめるかも、喫緊の課題だ。これについても仁司氏は、働き方の自由度を高めていくことが重要だと語る。
「事業会社の経営もしていて思うのは、人が唯一無二のリソースなので、優秀な方たちが育児や介護で戦線離脱せざるを得ないというのは、とても残念なことです。介護のために会社を辞めたいという人たちなんかも、よく話を聞くと、もしかしたら2割や3割の時間は、仕事に費やせるかもしれないと言うんですね。いつかは仕事に復帰したいなら、完全に辞めてしまうよりは、ちょっとでも仕事に繋がっている方が安心ですよね。前線から数年離れていたら、色々なことが変わってしまう時代ですから、完全に休むというのも不安だろうと思います。だから会社と本人とがちゃんと納得し合えば、色々な働き方があっていいと、思うんですよ」
社員の個々の事情に合わせて様々な働き方を受け入れるとなると、マネジメントの難しさが増す側面もある。しかし、それは避けられない変化であり、経営層や中間管理職の啓蒙のためにしつこくメッセージを発し続けることが自身の役割だという仁司氏。同社で働き方改革プロジェクトのリーダーを務める松尾氏も、その存在を心強く感じているようで、次のように語った。
「この会社の人は、全体的にとても真面目で誠実なんです。マーケティングリサーチという仕事は、細かく丁寧にデータを見て分析していくものなので、こだわりのある匠みたいなところもあって……。その分、保守的になってしまうところもあるので、仁司はあえて先進的なメッセージを発信し、みんなに刺激を与える役割を演じてくれているのだと思います」
若いうちから早く帰る習慣を
今の管理者層の中には、自身の若い頃と今とではビジネス環境が大きく変わっており、働き方も変えざるを得ないことに理解を示しつつ、若手の成長には時間を気にせずハードワークをする経験が不可欠、と考えている人も多いのではないだろうか。また、リモートワークという自律を要する働き方は、社会人として未熟なうちは難しいということで、新入社員を対象から外している会社も多い。
しかしインテージホールディングスでは、フルフレックス制度、リモートワーク制度とも、「入社何年目から」といった制約はなく、仁司氏は、新卒の社員でも、新しい働き方をするべきという考えだ。
「意見が分かれるところですが、私は初年度からやるべきだと思っています。ある意味ど素人、見習いの段階で自律的に働くことはできないというのは、確かにそうなんですね。だから、4月に入社していきなり1週間テレワーク、これはありえない。ただ、状況によって家で仕事することも可能だというのは、悪いことではないでしょう。
若い人って、みんなが残っていると『先に帰るのはどうかな?』とかね、いろんな遠慮があると思うんですよ。そんな遠慮が元で、長くダラダラ働くことが初年度から癖になってしまうと、中堅になったときには『7時に帰るなんて、なんだか早すぎて気持ち悪い』みたいな感覚になってくるわけです。これってすごく無駄なんですね。
我々の価値は、何か意思決定をしようとしているお客さんに対して情報を提供することです。それは、1日でも早い方が価値が高まる。さっさとやって、早く終わればさっさと帰れるということは、自分が嬉しいだけではなくお客さんにとっても価値があり、会社も余計な人件費を払わなくていいので、三者が得する絵になるはずなんです。いつまでも会社に残って頑張っているのがいいという意識が染み付いてしまわないうちに、最初から時間や場所が自由な働き方をやった方がいいと思います」
同社の働き方改革の目的は、社員のプロフェッショナリティを高めることであり、最も価値の出せる働き方を自身で判断して欲しいということであった。まだプロフェッショナルとはいえない新人であっても、それと逆行する悪癖を付けさせてはいけないというのは、非常に納得のいく話だ。
仁司氏と松尾氏の話を聞いていると、同社の働き方改革は人材戦略に基づくものだと理解できる。「プロフェッショナリティがある=成果の出し方を自分で見出していける」という人材像を描いた結果、働く時間や場所を自律的に選択できる環境が必要だと判断したということだ。
「なんのための働き方改革か?」に、唯一の正解はなく、個々の企業でそれぞれの目的があって良い。むしろ、どれだけ自社に固有の意味を見いだせるかが、社員も納得し、効果を生む改革のために重要ではないだろうか。