ネギとキクラゲが驚くほど乗る!? 博多で地元民しか知らない豚骨ラーメンとは
1965年創業の老舗『ラーメン住吉亭』
県外の人には知られておらず、地元民なら誰もが知っている店がある。『ラーメン住吉亭』(福岡県福岡市博多区博多駅南5-5-1)は、福岡博多の人たちに愛され続ける地元密着店。店名にもなっている住吉の地で創業したのは1965(昭和40)年のこと。その後、博多駅南の住宅街の一角に移転してからも30年以上になる。店主の松田洋介さんは創業者の甥にあたり、創業者から店を継いだ父が急逝したことで三代目店主となった。
「学生時代から時々店を手伝ってはいたのですが、親からは店を継がなくて良いと言われていたので最初は県外で別の仕事をしていました。その後福岡に戻って店をまた手伝うようになったのですが、そんな時に父が店で倒れてしまい急逝し、私が店を継ぐことになりました」(ラーメン住吉亭 店主 松田洋介さん)
先代の父は継がなくて良いと言いながらも『ラーメンの作り方だけは覚えておけ』と一から作り方を教えてくれた。それは、手に職をつけておけばなんとか生きていけるから、という親心だった。松田さんは父からラーメンの作り方をしっかりと学んで、2016年に『住吉亭』の暖簾と味を受け継いだ。
ネギとキクラゲが驚くほどに乗るラーメン
毎日でも飽きないサラリとした口当たりの豚骨スープは、豚の頭骨と頭皮を営業中ずっと炊き続け、前日のスープを元に新しい材料を継ぎ足して新しいスープを仕込んだもの。それを一週間毎日繰り返すことで旨味がどんどん増していく。久留米ラーメンなどでみられる「呼び戻し」の製法に近いが、週に一度「ガラ替え」を行い寸胴を真っ新にしてまた仕込み直すのは、他ではあまり見られない製法だ。
「基本的なスープの作り方は父から教わったままで変えていませんが、以前よりも作業を丁寧にするよう心がけています。また、昔とは頭骨の状態が変わってしまったので頭皮を足すようにして、ガラも事前に掃除してから炊くようにしました」(松田さん)
『住吉亭』のラーメンは通常でもネギが多い。もっとネギを入れて欲しいという客の要望に応えているうちに、気がつけば今のような量になった。ネギの量は手で一つかみというのが父の教え。ネギ農家の人が協力してくれているため、この量で商売が成り立つ。たっぷりのネギとキクラゲのザクザクとした食感と共にスープを啜る楽しさがある。さらに卓上にある辛子高菜や紅生姜をたっぷりと入れて、自分好みの味にして楽しむ常連客も多い。
「住吉亭はこの三人でなければ出来ません」
先代の急逝から7年が経った今、『住吉亭』は松田さんを中心に、兄の慎さんと母の桂子さんの家族三人で営業している。寡黙にラーメンを作り続ける兄弟と、にこやかに接客をする母。阿吽の呼吸でテンポ良くラーメンを作って提供していく姿は、一朝一夕では培われない信頼関係から生まれているのだ。
「ラーメン屋の仕事は地味ですし忍耐も必要なんです。今まで従業員を雇ったこともありますが、ラーメン作りを他人に教えることはとても難しいですね。他人に気を遣いながら仕事をするよりも、気心知れた家族で仕事をする方が楽しいですし、やはり住吉亭はこの三人でなければ出来ません。可能な限りずっと家族三人で仲良くお店を続けて行けたらと思っています」(松田さん)
※写真は筆者によるものです。
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