山の上でしか食べられない? 和食の料理人が作る渾身の豚骨ラーメンとは?
和食のベテラン職人がラーメン店を開いた
福岡の市街地から車で20分ほどの場所にある、標高597mの油山にひっそりと佇む、1972(昭和47)年創業の割烹『油山山荘』(福岡県福岡市城南区大字東油山147)。日本庭園を眺めながら河豚料理を堪能出来る名店の敷地内に、2022年に一軒のラーメン店がオープン。車でしか辿り着けない山の上という立地にも関わらず、連日多くの人が足を運ぶ人気店になっている。
その店の名前は『拉麺處 丸八』。厨房に立つのは『油山山荘』の主人、渡邉健さん。和食の料理人として半世紀以上のキャリアを持つベテラン職人だが、今も毎日現場に立ち続けている。しかも、朝から昼はラーメン店で仕込みから一人でラーメンを作り、夜は割烹で河豚を捌いている。
「身体はきついですけれど、仕込みから全部自分でやっています。他人に任せるのが好かんのですよ。ラーメンも料理も自分の思い通りにやりたいんです。特にラーメンは難しくて手が抜けないですから、他人に任せることは出来ませんね」(拉麺處 丸八 店主 渡邉健さん)
ラーメン屋のオヤジになりたかった
渡邉さんは16歳の時に和食の世界に入った。大阪での料理修業を経て両親が営む和食店で働いた。その後独立して『油山山荘』を創業し人気店となった。料理人としての夢は早々に叶えたが、もう一つの夢があった。それはラーメン店の主人になることだった。
「ラーメンが大好きでどうしてもやりたくなって、料理屋をやりながらラーメン屋も始めたんです。知り合いのラーメン店主さんたちに基本的なことは聞きましたが、味作りは全て自分でやりました」(渡邉さん)
渡邉さんは割烹を営みながら独学でラーメン研究に勤しみ、1989年に福岡市板付で昼のみ営業のラーメン店『丸八』を開業。和食店とラーメン店の両方を営み、どちらも人気を博していたが、体調不良や人手不足などで2006年に長年愛されたラーメン店の暖簾を一度は畳んだ。
しかしコロナ禍の中、ラーメン作りへの思いが再び沸いてきて、割烹のランチでかつてのラーメンを提供し人気を博したことを受け、2022年に敷地内の宿泊施設を改装し、16年振りにラーメン店『丸八』を完全復活させた。一度脱いだ二足の草鞋を再びまた履いたのだ。
骨の旨味があふれる渾身の豚骨ラーメン
「ラーメンはタレも大事ですが、やっぱり骨ですね。骨は冷凍骨だと旨味が出ないのでフレッシュな生ガラを使っています。骨は頭骨と脛骨だけで、脂とか余計なものは入れていません。フレッシュな骨の髄で旨味を出して、肉のドリップで味をつけるイメージです。仕上げに古骨を入れてさらに旨味を加えて、3日経ってようやくお客様にお出し出来る味になります。以前の店では鉄釜で炊いていたのですが、今回は寸胴なので火加減などが全く違って難しいですね」(渡邉さん)
渡邉さんの作るラーメンは、一見昔ながらの博多ラーメンのように見える。しかしスープを一口啜ると、しっかりと骨の旨味にあふれた力強さを感じることが出来る。基本的な設計は以前の店と変えてはいないが、今もより美味しくなるようにと改良を重ね、その味は日々進化し続けている。和食の料理人としての技術も生かされた深みのある豚骨ラーメンは、豚骨王国福岡の中でも唯一無二の存在感がある。
「ラーメン作りは楽しいですよ。やっぱりね、裏方はつまらんですよ。ラーメン屋は割烹と違ってお客様の笑顔が見えるじゃないですか。帰り際にお客様から美味しかったと言って貰えるし、昔のラーメン屋の時の常連さんにも会えるし、新しい若いお客様も来てくれるしね。だからこれからもずっと続けていきますよ。そのためにはもっと美味しく進化させていかないとね」(渡邉さん)
※写真は筆者によるものです。
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