全国ごみ少ないランキング1位の京都市、静岡県掛川市、長野県川上村 なぜ?コロナの影響も
2022年3月29日、環境省は、「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について」を発表した(1)(2)。一般廃棄物(産業廃棄物以外の一般廃棄物)について、排出量や処理コストを示したものである。令和2年度(2020年度)は、具体的には2020年4月1日から2021年3月31日までのデータということになり、ちょうどコロナ禍と重なる。
ごみ総排出量 4,167万 トン(前年度 4,274 万トンから2.5%減)
1人1日当たりごみ排出量 901 グラム(前年度 918 グラムから1.9 % 減)
リサイクル率 20.0 % (前年度 19.6 %)
ごみ処理事業経費 21,290 億円 (前年度 20,885 億円)
ごみ排出量自体は年々減ってはいるものの、ごみ処理事業経費は前年度にも増して2兆1.290億円となった。2兆円以上をごみ処理に使っている。このお金は、われわれが納めた税金である。
人口50万人以上の自治体でごみ少ないランキング1位は京都市
環境省は、全国の自治体のうち、ごみの排出量が少なかった自治体を、人口区分別で「リデュース(1人1日当たりのごみ排出量)取組の上位10位市町村」として、毎年3月末に発表している。人口区分は、
- 人口10万人未満
- 10万〜50万人未満
- 50万人以上
の3区分である。このうち、50万人以上の部門で1位になったのが京都市だ。毎年、東京都八王子市(3)と愛媛県松山市(4)が首位を競っていたが、ついに京都市が1位になった。
筆者は2016年2月から定期的に京都市を取材しており、2016年10月に出版した著書(5)では京都市の取り組みについて9ページにわたって紹介、2017年5月にもYahoo!ニュース個人の記事で紹介した(6)。6年以上、京都市の奮闘を見てきた者として、ついに「1位」になったことは感慨深い。
京都市は、前年度(令和元年度)は5位だったのが、なぜ1位になれたのか。順位が上昇しただけでなく、1人1日あたりごみ排出量は、836.7グラム/人日から758.9グラム/人日へと大きく減少している。これはコロナの影響なのだろうか。
そこで、京都市 環境政策局 循環型社会推進部 資源循環推進課 技術担当課長の浦 哲治(うら・てつじ)さんに取材した。
ー京都市が令和元年度(2019年度)の5位から令和2年度(2020年度)に1位に上昇した理由は何だとお考えでしょうか。
京都市 浦哲治さん(以下、京都市):京都市のごみ量は、これまでの長年にわたる市民・事業者の皆さんのご尽力の結果、ピーク時(2000年度)から令和2年度(2020 年度)まで20年連続で減少し、ピーク時から半減以下を達成しました。
京都市:令和2年度については、新型コロナウイルス感染症により事業ごみが減少したことも影響していますが、20年にわたる着実なごみ減量の取り組みの結果であり、これまでの継続的な市民・事業者の皆さんのご尽力とご協力のたまものと捉えています。
ー廃棄物の中でも重量を多く占める生ごみ(食品ロス含む)を減らすため、これまでも「3キリ運動」(7)や、小学生への啓発、飲食店(6)やスーパーでの実証実験(8)や、飲食店での「食べ残しゼロ推進店舗」認証制度(9)など、いろんな取り組みを粘り強く続けてこられました。一番苦労された点はどのような点だったでしょうか。
京都市:ご指摘のとおり、ごみの4割が生ごみ(10)であり、さらにその4割程度が食品ロスであり、ごみ減量の上でも、食品ロスは重要なターゲットです。
京都市:先ほど、ごみ減量は市民・事業者の皆さんのご尽力・ご協力のたまものとお伝えしましたが、 市民・事業者の皆さんが行動する以外にごみを減らすことはできません。ですので、ごみ減量も食品ロス削減についても、市民や事業者の皆さんに、どうしたら行動していただけるかが、苦労するところです。
京都市:これには粘り強く様々な取り組みをすることが大事です。本市では、納得して行動いただけることにつなげるため、井出さんの著書でもご紹介いただいていますが,宴会時の食べキリの声掛けによる食べ残し削減効果や、店舗での販売期限の延長による食品廃棄削減効果などについて、 実験により確かめ、情報発信に活用しています。
ーこれからどのようなことを目指していかれますか?
京都市:京都市では昨年度「てまえどり」について、家庭・店舗の協力をいただき、モデル的に取り組みました(11)。「てまえどり」は、店舗で期限切れにより廃棄される食品を減らすため、食品を購入するときに、商品棚の奥からではなく、手前の商品(消費期限・賞味期限の近い食品)から取り購入する、消費者の行動です。
京都市:「てまえどり」を進めていくには、消費者・事業者がお互いのことを理解して、取り組み効果を共有することが大事だと考えています。モデル事業の結果を踏まえ,相互理解の下で、家庭・事業者双方からの食品ロスを削減できるよう、市民・事業者の皆さんと取り組んでいきたいと思います。
2022年4月からプラスチック資源循環促進法が施行され、使い捨てプラスチック製品についても、事業者の皆さんに発生抑制などの取り組みが求められることになります。本市としても、地球温暖化対策や海洋汚染防止の観点からも、使い捨てプラスチックごみ減量の普及に取り組んでいきたいと思います(12)。
京都市には年間110万人の修学旅行生と国内外から5,300万人以上の観光客が訪れていた
浦さんがインタビューで答えていた通り、新型コロナウイルス感染症により、飲食店の営業が休止や短時間営業となり、事業系ごみが激減したのも一つの要因だろう。他の自治体でもその状況は同じなのだが、京都市は、コロナ前には年間110万人前後の修学旅行生が訪問しており(2018年当時の取材による)、旅館やホテルでは、宿泊先として選んでもらうために、よそと比べて「うちはおかずが1品多いですよ」といった、品数の多さで競い合う面もあると、当時の担当者から伺っていた(13)。
京都市は、修学旅行生に加えて、国内外からの観光客や宿泊客も多い。2019年の観光客数は5,352万人(14)。
2020年は修学旅行生77%減、宿泊客60%減
ところが2020年には、修学旅行生の人数は、前年2019年比で77.6%減の16万人、宿泊客数は、前年2019年比で59.7%減の531万人となった(15)。
事業系ごみの大幅な減少は、このことにも起因していると思われる。コロナ前の京都市は、これだけ国内外から大勢の人が訪れる中で、よく全国上位レベルにごみを少なく保てたと思う。これこそ浦さんがおっしゃる通り、職員の方はじめ、事業者と消費者の努力のたまものだと思う。
では、次に人口10万人以上50万人未満の区分を見てみよう。
人口10万〜50万人未満の区分では静岡県掛川市が1位
人口10万〜50万人未満の区分では、静岡県掛川市が1位だった。
前年の2019年度のランキングと比較すると、国分寺市が新たに加わり、三鷹市が抜けた以外は、すべて同じ自治体が上位を占めている。東京都は、西部にある自治体が、毎年、ごみ排出量は少なく抑えられており、廃棄物行政の専門家の著書(16)にも事例として掲載されている。
静岡県掛川市は2020年7月17日にSDGs未来都市に選定されている(17)。「SDGs未来都市」は、内閣府がSDGsの達成に向け、優れた取り組みを提案する自治体を選定する制度。前述の書籍(16)には、2006年11月に始まった、掛川市の「ごみ減量大作戦」の取り組み含め、8ページにわたって解説されている。詳しくは書籍にゆだねるが、たとえば2008年1月にはごみの指定袋に記名する方式を導入し、排出者を「見える化」している。また、「民でやれることは民でやる」とし、(大量の)剪定枝の資源化や古紙の資源化は、市ではなく、民間が行なっている。東隣に位置する菊川市と構成する「掛川市・菊川市衛生施設組合」が廃棄物処理施設「環境資源ギャラリー」を運営し、さまざまな取り組みを長年継続しており、掛川市は、2010年と2011年にも「1位」を獲得している。これは、市民の粘り強い取り組みと、行政の支援のたまものである。環境資源ギャラリーの公式サイト(18)には次の文章が並んでいる。
「ごみを有効に資源として活用する」。これこそ、廃棄物処理の本質だろう。
6位の静岡県藤枝市は、環境省の事業である「平成30年度 学校給食の実施に伴い発生する廃棄物の3R促進モデル事業」で、小学校給食の食品ロス削減にも参加している(19)。筆者は2016年12月、藤枝市で「食品ロスをなくすには」について講演した。まだ食品ロスへの意識が高くない時期に、300名以上もの市民の方が集まり、熱意を感じた。
1位になった静岡県掛川市の、環境政策課 ごみ減量推進係に、今回の結果について伺った。
ー今回、人口区分10万〜50万人未満の区分で1位となられました。掛川市のこれまでの取り組みについては書籍(16)でも『「見える化」と「民活」でごみ減量を推進する掛川市』として詳しく解説されています。令和元年度(2019年)と比べて令和2年度(2020年)にごみ排出量が少なくなった要因は何でしょうか。
掛川市:市民協働によって、これまで長年にわたってごみの減量に取り組んできた成果だと考えております。令和2年(2020年)に関しては、ごみプラントの故障(環境資源ギャラリーの焼却施設の故障)で、6月5日から8月3日まで「ごみ処理非常事態宣言」を出しておりました(20)。ごみ処理が非常に危機的な状況ということを認識いただきましたので、家庭から出るごみを減らそうということで、市民のみなさまも、いっそう分別の方を徹底していただいた、というのが一つの原因なのかなと考えております。市内にある掛川北中学校の生徒さんは、環境の側面から、ごみ減量や地球環境のことも踏まえて啓発ポスターを作って、ごみ削減の周知活動を行なってくれました(21)。
ー事業系と家庭系ではどちらの変化が大きかったのでしょうか。
掛川市:やはり、大きく減っているのは事業系のごみで、960トン/年(令和元年の対比で)減少しました。掛川市は、生産系の工場が結構あるものですから、コロナ禍ということで、生産活動の縮小によって、事業系のごみも減っているという、このような要因が大きいのかなと、われわれは分析しています。
では、人口10万人未満の区分を見てみよう。
人口10万人未満の区分では長野県川上村が1位
人口10万人未満の区分では、長野県川上村が1位だった。毎年1位の常連だが、2019年と比べると、ごみ排出量は増えている。この人口区分では長野県の自治体が多くランクインしている。47都道府県で比較すると、長野県は、2021年まで、6年連続でごみ少ないランキング1位の県だ(22)。長野県では、早くからごみ指定袋や記名式、コンポストなどを取り入れ、ごみ削減に努めてきた。
1位になった長野県川上村の、産業建設課環境係に、今回の結果をふまえて伺った。
ー川上村では、もともとごみ少ないランキングで1位を保っていらっしゃいます。長野県では、ごみ袋の記名式やコンポスト(生ごみを堆肥にする)でごみを減らしていて、47都道府県では最もごみ排出量が低くなっています。川上村では、これらの取り組みのほかに、どのようなことをおこなっていますか?
川上村:川上村では、コンポストもやっていますが、生ごみを回収していません。生ごみは水分が多く、ごみの中で一番、重量が多いです。
ーなるほど。では、住民の方が、それぞれコンポストなどをやって、少なくなっているんですね。
川上村:はい、そうです。また、川上村では生ごみ処理機を導入しています。生ごみは、乾燥させると、かなり重量が減りますので、乾燥させたものであれば、可燃ごみとして出すことができます。
ー令和元年度(2019年度)と比べて、令和二年度(2020年度)は、ごみ排出量が増えています。これは何が要因と考えられるでしょうか?
川上村:コロナ禍もありますが、家の中での消費が増えたこと、これは私見もありますが、在宅が増えて、宅配などを利用する機会が増えたことがあるかもしれません。段ボール箱などが増えたと思います。
ー家庭系と事業系と、どちらが増えたのでしょう?
川上村:川上村では、家庭ごみのみ回収していて、事業系ごみに関しては、業者さんに回収してもらっています。家庭ごみに関しては、ペットボトルやプラスチック系のごみが増えています。
以上、人口区分別に、ごみ1人1日あたりの排出量が少ないランキングで1位の自治体にインタビューしてきた。
最後に
コロナ禍により、京都市や掛川市では事業系ごみが減り、一方、川上村では家庭系ごみが増えたという結果がわかった。コロナ禍の影響は廃棄物にも表れている。ただ、確実にいえるのは、どの自治体も、コロナ禍以前から、長い年月をかけて、ごみ減量に熱心に取り組んできた、ということだ。
また、掛川市が古紙回収を民間にまかせ、川上村が事業系ごみを事業者に託すように、行政がすべての廃棄物処理を請け負うのではなく、市民自身や民間企業も排出者責任を自覚してごみ処理を行うということも重要だ。
そして、いうまでもないことだが、ランキングは絶対評価ではなく、相対評価で決まるので、2位以下の自治体の中にも優れた取り組みをしている自治体は数多くある。
京都市や川上村の方が指摘した通り、一般ごみのうち、4割が生ごみで、その4割程度が食品ロスなので、ごみ減量の上で、食品ロス削減は重要である。食品ロスを減らせばごみは減る。生ごみは、もともと「ごみ」ではない。資源として、発酵させて堆肥やバイオガスにするなどして活かせば、ごみは格段に減る。ひいては、年間2兆円以上かけて処理しているごみ処理費も減らすことができる。生ごみ処理機を導入する(23)、生ごみをコンポストにするなど、生ごみをいかに減らすか、すなわち「ごみ」としてではなく「資源」として扱うかが、ごみ減量のキーポイントである。自治体によっては、「生ごみ出しません袋」や「燃やすしかないごみ」といった名称の袋で生ごみ削減をおこなっている(24)。
生ごみ分別について、多くの自治体は、住民からの反発などを気にするかもしれない。だが、隣の韓国では、トップダウンによる強力な生ごみ資源化政策により、2016年時点で生ごみ資源化率は97%に達している(16)。廃棄物行政に詳しい山谷修作氏は、著書(16)で、
と語っている。環境負荷の軽減や飼料の自給率向上、農業振興を目指すのは、日本も同じではないだろうか。
家庭でも事業者においても、食品ロスを減らすこと、そして生ごみを資源化することが、日本全体のごみ削減においても重要だ。ごみ削減は、経済的負担を減らし、環境負荷を減らし、ごみ処理コストを減らした分、他の有用な目的にまわすことができるので、経済・環境・社会の3つの面によい影響を与えることができる。今回1位になった自治体をロールモデルとし、自らの自治体の環境や地域特性を活かしたごみ削減が進むことを期待したい。
参考情報
1)一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について(環境省、2022/3/29)
2)一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和2年度)について(詳細、全23ページ、環境省、2022/3/29)
3)ごみ少ないランキング 全国上位30自治体は?年間2兆円のごみを減らす5つの要因とは(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/6/18)
4)なぜ松山はごみが少ないのか?家庭のごみを減らす全国トップレベルの秘密を探る(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/12/13)
5)『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』井出留美、幻冬舎新書
6)16年でほぼ半減 京都市の530(ごみゼロ)対策は なぜすごいのか?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2017/5/30)
8)「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/5/22)
11)食品スーパー等では「てまえどり」を(京都市、2021/10/14)
12)プラスチック製品の分別回収に向けた社会実験の実施について(京都市、2021/6/23)
13)年間110万人の修学旅行生が訪問する京都市に聞いた 宿泊先で捨てられる夕食の食べ残しの実態(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/6/8)
14)令和元年 京都観光総合調査結果【概要】 対象期間:平成31年1月〜令和元年12月(京都市)
15)令和2年 観光客の動向等に係る調査結果【概要】対象期間:令和2年1月〜令和2年12月(京都市)
16)『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』山谷修作著、丸善出版
17)SDGsの推進について(静岡県掛川市、2021年11月16日)
19)「もったいない気持ちを高めても食べ残しは減らない」学校給食で子どもが苦手な食べ物を無理なく食べる秘訣(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/3/19)
20)ごみ処理非常事態宣言の解除について(静岡県掛川市、2020年8月11日)
21)2020年7月1日 ごみ削減PRポスター配布 北中学校生徒会が市長に報告(静岡県掛川市、2020年7月1日)
22)長野県がごみ排出量の少なさランキングで6年連続”日本一”になりました!(信州ごみげんネット、2021年)
23)「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆円のごみ処理減らす自治体の取り組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/5/30)
24)生ごみの乾燥で70%のごみ減量も 自治体が家庭でできる対策呼びかけ(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/1/28)