「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆円のごみ処理減らす自治体の取り組み
5月30日は「ごみゼロの日」。1990年代半ば頃、カリフォルニアやイタリアで、環境保護運動を通じて「ゼロウェイスト」(Zero Waste:ごみゼロ)の考え方が醸成された(1)。世界各国で意見交換を行う「ゼロウェイスト国際連合」(ZWIA: Zero Waste International Alliance)という組織もある(2)。日本では、ゼロウェイスト宣言を行った自治体は、日本で初めて宣言した徳島県上勝(かみかつ)町を含む5自治体のみに過ぎないが、この運動の発祥国のひとつであるイタリアでは、全国で300を超える自治体がゼロウェイスト宣言を行っている。
「焼却大国ニッポン」「世界のスタンダードではない」
2015年から徳島県上勝町でゼロ・ウェイストアカデミーに参画し、現在は一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶(あきら)さんは、「日本のごみ焼却処理は世界のスタンダードではない」と題したインタビュー記事(ELEMINIST, 2021.5.12)で次のように話している(3)。
日本はOECD加盟国の中でも、焼却割合がダントツに高い。全ごみ量のうち、78%を燃やしている。
神奈川県葉山町でごみ担当職員だった経歴を持つ翻訳家の服部雄一郎さんも、自身のブログ「サステイナブルに暮らしたい」で「焼却大国ニッポン 〜日本のリサイクル率はなぜこんなに低いのか?」と題し、世界的に見てリサイクル率が低い理由は、生ごみを燃やすごみと一緒くたにして焼却していることを述べている(4)。
日本は「リサイクル先進国」のように見えるが、実はOECD加盟国の中で底辺の低さだ。服部さんが指摘する通り、「生ごみ」をリサイクルせずに焼却していることが足を引っ張っている。
一般廃棄物の年間処理費2兆円を減らす全国の自治体の取り組み
2021年3月30日、環境省が発表したデータによれば、一般廃棄物の年間処理費用は、設備の維持費も含めて年間2兆円を超えている。韓国では国がトップダウンで生ごみのリサイクル率を上げる取り組みを行い、今や90%を超えている。日本では韓国のようにトップダウンで進んでいるとは言いがたいが、減らす取り組みが全国の自治体それぞれで行われている。
長野県
長野県は、6年連続で、47都道府県中、一人一日あたりごみ排出量が最も少ない。ごみ袋有料化や、ごみ袋記名式、コンポストなど、環境意識の高い県として、複数の取り組みを続けており、一般市民へのわかりやすい啓発活動も特徴だ(5)。人口10万人未満の自治体では、長野県の川上村を筆頭に、ごみ排出量少ないランキング10位のうち、3位の徳島県神山町と5位の宮崎県高原町を除けば、すべて長野県の自治体が占めている(2021年3月30日環境省発表データによる)。家庭で処理した生ごみを堆肥としてリサイクルする取り組みを各地で続けてきたことが貢献しているとみられている。
長野県須坂市
長野県須坂(すざか)市では2013年7月から「生ごみ出しません袋」を希望する市民に無料で配布してきた(6)。生ごみ以外の可燃ごみを入れる袋だ(7)。可燃ごみの半分を生ごみが占めているため、家の畑でコンポストにする、家庭用生ごみ処理機を使うなどして減らせば、老朽化した清掃センターの負担を減らせると考えた。
通常の可燃ごみ袋なら、処理料が上乗せされた価格で買わなければならないが、「生ごみ出しません袋」なら無料だ。減らすことによるメリットを得られる。
長野県上田市
須坂市に次いで、上田市も2016年4月から「生ごみ出しません袋」の無料配布を始めた(8)。上田市では、市民から「生ごみを堆肥化したり畑に埋めたりして自家処理する家庭への支援はないのか」という声が寄せられていた。つまり、ごみを減らそうが増やそうが、払う税金は同じというのは不公平だ、というわけだ。
有料のごみ袋は小サイズ(15リットル)が一枚25円、中サイズ(25リットル)が一枚35円。生ごみを分けて家で資源にすれば、それだけごみ処理費用を軽減できる。
上田市では、2015年度に生ごみ処理機の補助を50%から80%に増やしたところ、市民からの申請が殺到し、前年度のおよそ6倍に増えたという。
上田市では、「生ごみ出しません袋」の希望世帯が次のようにじわじわと増えている。
2017年度 271世帯
2018年度 302世帯
2019年度 264世帯
2020年度 439世帯
東京都多摩市
東京都多摩市でも平成25年度(2013年度)のごみ減量モデル事業として、「生ごみ入れません!袋」を無償配布した(9)。
福岡県大木町
福岡県大木町は、徳島県上勝町に次いで、日本で2番目にゼロウェイスト宣言した自治体だ。2005年には国の「バイオマスタウン」の認定を受けている(10)。2006年11月には町内すべて、生ごみの分別収集がスタートした。分別収集するようになってから、ごみ量が大きく減少している。
福岡県柳川市
福岡県柳川市では、可燃ごみの袋の名称を「燃やすごみ」袋から「燃やすしかないごみ」袋に変更した。「がんばったけど、これだけは燃やすしかないというところまで、市民に分別を徹底してほしい」という思いを込めた(2020.11.28、朝日新聞)(12)。
千葉県市川市
生ごみの分別回収というと、これまでは地方都市が多かったが、首都圏の千葉県市川市は、生ごみを市民が24時間投入できるポスト型の箱を設置し、バイオガスの発電に使う実証実験を始めている(13)。
宮崎県新富町
2021年5月7日、宮崎県新富町、南九州大学、パナソニック株式会社は、新富町の食品ロス削減、生ごみ減量化に向け、包括連携協定を締結したことを発表した(14)。生ごみを分別回収して堆肥化するプロジェクトだ。
以上、自治体の取り組みの一部を見てきた。この他にもゼロウェイスト宣言を行った自治体である熊本県水俣市、奈良県斑鳩(いかるが)町、福岡県みやま市(2020年に宣言)の取り組みもあるし、東京の多摩地域(府中市、調布市、小金井市、日野市、武蔵野市)や長岡市、掛川市、苫小牧市、大崎町、葉山町などの取り組みもある。山谷修作氏の著書『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』(丸善出版)にも詳しく紹介されている。
家庭用生ごみ処理機は全国60%以上の自治体で助成金制度 最大5万円の補助も
全国60%以上の自治体では、家庭用生ごみ処理機を購入する場合、助成金制度を設けており、半額で購入できる場合が多い(15)。筆者も2017年に半額で購入し、これまで900回以上使い、230kg以上の生ごみを減らしてきた。
分ければ資源 混ぜればごみ
ごみの語源は不明だそうだが(16)、『平家物語』では「水中の泥」の意味として「水田(みずた)のごみ深かりける畔(くろ)の上に」と書かれている。「木の葉」を指したという説もある。ごみは、今のような「不要なもの」という意味ではなかった。「分ければ資源 混ぜればごみ」とも言う。ごみをごみにしてしまっているのは人間なのだ。食品ロスを多く含んでいる生ごみを計量したり資源化したりすることで、食品ロスの減量にもつながっていく。世界の先進諸国は、生ごみを資源化し、「ごみ」にしていない(17, 18)。生ごみを資源にする社会を創りたい。
参考情報
1)『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』山谷修作著、丸善出版
2) ゼロウェイスト国際連合(ZWIA: Zero Waste International Alliance)
3)日本のごみ焼却処理は世界のスタンダードではない(ELEMINIST、2021年5月12日)
4)焼却大国ニッポン ~ 日本のリサイクル率はなぜこんなに低いのか?(服部雄一郎、サステイナブルに暮らしたい、2021.1.23)
5)全国ごみ少ないランキング、3位滋賀県、2位京都府、1位は?6年連続最少、伝え方もダントツ1位(井出留美、2021.4.22)
6)須坂市が「生ごみ出しません袋」 可燃ごみ減量へ一策 希望住民に無料配布へ(2013.6.4 信濃毎日新聞朝刊21面)
7)今年も「生ごみ出しません袋」を配布しています!(須坂市地球温暖化防止推進協議会公式サイト)
8)上田市が「生ごみ出しません袋」配布へ 来年度に無料で 自家処理促し減量化図る(2016.3.10 信濃毎日新聞朝刊33面)
9)東京都多摩市 リサイクル&エコロジー情報誌「ACTA」53号
11)福岡県柳川市 ごみの分別
12)「燃やすしかないごみ」袋に名前変えます 大袋は値上げ(2020.11.28、朝日新聞)
13)IoTを活用した、SmaGoの設置(渋谷区表参道、千葉県市川市)(システム開発ブログ)
14)新富町、南九州大学、パナソニックが食品廃棄ロス削減と生ごみ減量化に向け産官学連携で合意(2021.5.7、パナソニック株式会社)
15)最大5万円補助!コンポストも 生ごみ処理機を900回使って得られたメリットとは?(井出留美、2021.5.20)
16)街のB級言葉図鑑 塵芥(ごみ)飯間浩明 (朝日新聞、2021.3.13付、be3面)