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若者の婚姻数の激減と奇妙に一致する「外で酒を飲む機会の減少」という面白い相関

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

コロナで結婚は減っていない

「コロナ禍によって婚姻数が減った」などという報道があったが、それはとんでもないこじつけの解釈で、少なくとも2021年までの婚姻数にコロナが直瀬的に与えた大きな影響はない。コロナがあろうとなかろうと減っていたのであり、むしろコロナの影響が出るのは2024年以降の婚姻数の減少である。

なぜなら、お見合いや結婚相談所を除けば、初婚するカップルというのは平均4年以上の交際を経て結婚しているからである。つまり、2020-2021年に結婚した夫婦は、すでに2016-2017年から交際をスタートさせているカップルが多く、披露宴の中止や延期などはあるにせよ、「コロナ禍だから結婚をやめましょう」とはならない。

逆に、深刻なのは、この2年半というもの、若い男女の出会いの機会がことごとく奪われてきたことの方である。学校での出会いしかり、職場での出会いしかり、バイト先や遊びに行った際での手合いしかりである。

この2年半で剥奪された機会

出会いがなければ恋愛もない。つまり、ここ2年半のきっかけの剥奪は、そのまま2022年以降の若者の交際機会の後ろ倒しになるわけである。単に、後ろ倒しならいいじゃないかということを言う人いるかもしれないが、2年半という年月の後ろ倒しによって、年齢的に「なんか、もう結婚とかしなくていいかな」と思う人たちもでてくる。結婚には限界年齢もあるし、潮時の年齢もあるからだ。

「稼がないと結婚できない」と頑張って稼いだ挙句に訪れる「聞いてない」結末

さて、その上でコロナ禍における居酒屋など飲食店の時短や営業制限などがどれだけ今後の婚姻減少に影響を及ぼすかについて書いてみたい。

酒と結婚、一見無関係に思えるが、これが大きく関係するのだ。自宅での晩酌の数ではない。外での飲酒である。

写真:イメージマート

当然、一人酒をするおじさんもいるだろうが、若者の場合は飲み会での利用が多かったはずだ。外での飲酒は出会いとセットだったのである。この飲食店でのリアル飲み会ができなくなったことは、婚姻減少に大きな影響を及ぼす可能性がある。

外での飲酒が減ると婚姻も減る?

家計調査に基づき、勤労者単身男性の外食費のうち飲酒外食費(飲食店での酒を飲んだ金額)の推移と夫の初婚数との長期での相関を見ると、「外での単身男性の飲酒消費金額が減れば減るほど初婚数も減る」という極めて強い正の相関がみられる。相関係数は0.8744。

コロナ禍の2020年は外での飲酒費は前年から3分の1レベルまで大きく落ち込んでいるが、コロナとは関係ない2002年から2019年の推移でも、単身男性の外での飲酒消費金額は半減近くになっており、それに従って初婚の数も減ったという見方もできる。

もちろん、外での飲酒機会がすべてデートということではないが、少なくとも単身男性の外での飲酒機会がこの20年間で大幅に減っていること及び連動して初婚数が減っていることは疑いようのない事実である。

「因果警察」という暇人がいる

しかし、こう書くと、「相関と因果は違う。これは単なる疑似相関であって、酒を飲まなくなったから結婚が減ったとはとても言えない」とわざわざ指摘してくる暇な「因果警察」みたいな人がいるのだが、相関と因果は違うのは当たり前で、多くが周知の事をさも大きな発見のように騒ぎ立てるのは本当に暇なんだなと思うわけである。

有名な擬似相関の笑い話の有名な話として「ニコラス・ケイジの映画が増えるとプールで溺死する人も増える」というのがある。たまたまふたつの推移が相関するからといって、そこに因果はなく、たとえニコラス・ケイジが映画俳優として失業したとしてもプールでの溺死者がゼロにはならない。そんなことは当たり前の話である。

酒の恋愛効用

ドイツの哲学者カントの言葉に「酒は口を軽快にする。だが、酒はさらに心を打ち明けさせる。こうして酒は心の率直さを運ぶ物質である」というものがある。

しらふでは照れて言えないことも酔えば言えるというのも男にとっては「あるある」だろう。そもそもしらふで告白できる男など2割程度しかいないのである。

日本の男はモジモジして満足に告白もできないというが、フランスやイギリスの男もたいして違わない

男性だけではない。少し古いが、2008年、第45回宣伝会議賞の準グランプリに選ばれた沖縄の泡盛メーカー忠孝酒造の広告キャッチコピーに「もう少し 飲んだら、好きって ばれそう」というものもある。男女にとって、酒は恋愛の一助になるものなのは間違いではない。

写真:イメージマート

「酒のないところに愛はない(エウリピデス)」という言葉もあるように、むしろ「愛だと錯覚するためには酒が必要」なのかもしれない。

だからといって、体質的な理由で「酒が飲めない」人が結婚できないなどと言っているのではない。酒が飲める・飲めない別の結婚比率については別途記事化したい。また「あえて飲まない若者が増えている」という報道もあるが、それも選択的非婚の増加と表裏一体かもしれない。

政府が奪った婚姻機会

すべての結果の原因はひとつではなく、さまざまな複合要素が絡み合って起きているということは大前提だが、こういう視点で考えると、結果論ではあるが、コロナウイルスの出現が婚姻数を減らしたのではなく、この2年半で政府がやってきた「飲食店に対する時短要請」「酒の提供禁止」という措置が、副作用として日本の婚姻数の減少を後押しすることになるのではないかと危惧するのである。

正確には、「婚姻数の減少につながる若者の出会機会の喪失を政府自ら作り、婚姻減を推奨したことになる」である。冒頭のように、コロナウイルスのせいにしたいのは政府の責任逃れでもあるのだろう。

「飲み会がなくてもマッチングアプリでの出会いが拡大しているではないか。時代とともに出会いの場も変わる。リアルからデジタルに移行するのだ」などとドヤ顔で言う御仁がいるとしたら本当に現実を知らなすぎる。

マッチングアプリがどれだけ盛況になろうと、恋愛弱者には一切恩恵はなく、婚姻数の増加にはならないことは以前書いた通りである。

マッチングサービスなのに「会えた人数ゼロが3割」問題の背景にある残酷な現実

若者の出会い機会の喪失は、その先の恋愛や婚姻数の減少につながる。婚姻数の減少は自動的に出生数の減少となる。この影響は4~5年後に婚姻数および出生数として明らかになるだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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