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マッチングサービスなのに「会えた人数ゼロが3割」問題の背景にある残酷な現実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

マッチングアプリの影の部分

前回の記事(ネット婚活サービス市場規模が激増しているのに、婚姻数は増えるどころか減少し続けているという謎)の続き。

ネット婚活サービスの市場拡大や利用者急増、さらには利用者の婚姻数増加という事実があるにもかかわらず、婚姻数は減り続けている理由について説明したい。

ネット婚活サービス関係の記事やニュースのソースをよくよく確認すると、調査資料の出所がネット婚活サービス系会社であることも多い。自分たちのプロモーションの一環としてリリースしている場合もあるので、その場合都合の悪いことは書かない。そういう視点で見ることも肝要である。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる2021年「マッチングアプリの動向整理」によれば、マッチングアプリの利用に際して何らかのトラブルがあったとする割合が、男性58.5%、女性59.7%もあったとされている。

半数がトラブルありというのは正直多い。

トラブルの中身とは?

トラブルの内容を見ると20-40代を通じてもっとも多いのが「写真と実物が違う」というもので約4割ある。加工アプリを使った「盛り過ぎ」というレベルもあろうが、どう考えても別人でしょという話もあるかもしれない。

そのほかにも「サクラがいた」「既婚者だった」「年収・年齢が嘘だった」という詐称系も多いようだ。中には「ネットワークビジネス系の商品を売りつけられそうになった」「宗教に勧誘された」などの婚活とは関係ない問題もあるようである。

昨年の、全国の消費生活センターに寄せられた暗号資産に関する6350件もの相談件数のうち、SNSやマッチングアプリで知り合った人からの勧誘によってトラブルになったケースが4~5割を占めるというニュースもある。

マッチングなのにマッチングされない問題

とはいえ、マッチングサービスはあくまでプラットホームであり、利用者の中にはそういう不届き者が紛れ込んでしまうのは仕方がない。

そういうトラブルがあったからといって、マッチングサービスそのものが否定されるものではない。交通事故があるからといって、この社会から自動車を抹消するわけにはいかない。

そうした一部犯罪に近いようなトラブルのケースは別にしても、「出会いを期待したのにそもそも全然出会えない」という不満を抱えている人も多いだろう。

前述した「マッチングアプリの動向整理」によれば、「マッチングアプリで実際にデートした人数ゼロ」という割合が、20代24.3%、30代20.4%、40代にいたっては31.7%にも達しているそうだ。

マッチングなのに全然マッチングされない問題がここにはある。

写真:イメージマート

利用者属性の実像

確かに、以前と比べてマッチングサービスの利用者数は増えている。しかし、着目すべきは、どんな人がどんな目的でそれを利用しているか、の方であろう。

私が実施した2020年調査(一都三県20-30代未婚男女 n6054)によれば、20-30代でのマッチングサービス利用率は、男27%、女38%である。

これらの男女利用者は、当然結婚意欲は全体平均と比べれば高いのだが、さりとて、全員が「結婚相手探し」という目的で利用しているわけではない。

さらに、興味深いのは、マッチングサービスの利用者の中の恋愛強者比率で、必ずしもリアルで相手が見つからない恋愛弱者ばかりではないということである。

以下のグラフは、男女のマッチングアプリ利用経験者の特徴と全体平均との差を表したものである。右側に棒グラフが伸びているのは、アプリ利用者の方が多い、左側に伸びているのは全体平均の方が多いことを意味する。

(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久
(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久

一目瞭然だが、「結婚に前向き」以外は、男女で正反対になる。

男性は、マッチングサービス利用者の方が、全体平均より「恋愛に自信がある」「恋愛に対して能動的」「浮気をしたことがある」「自分の容姿に自信がある」率が高い。まさに、恋愛強者男性と言える。

対して、マッチングサービスを利用する未婚女性は、全体平均と比べて「恋愛に自信がない」「恋愛に対して受動的」「自分の容姿に自信がない」女性が多く、男性と比べて「自己肯定感が低い」女性が多いことも特徴である。

つまり、マッチングサービスを利用するのは、主に「恋愛強者男性と恋愛弱者女性」であるということがわかる。

これがどういう結果を生むか。

言葉を選ばずに言えば、「今まであまり恋愛経験のない、結婚相手を探す婚活女性たち」という獲物を求めて、肉食の恋愛強者男性(既婚の不倫目的も含む)が自由に行動できる刈り取り場となっている可能性があるということである。

リアルでモテる人しかモテない仕組み

中には、そもそも恋愛経験の少ない恋愛弱者男性も、真剣に結婚相手を求めてこのサービスを利用していることだろう。

しかし、そうした「控えめな真面目さや誠実さ」は、恋愛強者男性たちが放つ「魅力的な能動性の光」の前に埋没し、いたずらに課金だけを重ねていくという結果になりかねない。

どこの誰かもわからない恋愛強者の快楽のセックスのために、恋愛弱者男性は誰とも会うことすらできずにお金を払っているとも言えるのだ。

要するに、現状のマッチングサービスというのは、かつての「街でのナンパのデジタル版」に過ぎないのである。

かつての街のナンパでは外車やブランド物のスーツなどが経済力判定の指標となっていたし、どう声をかけるか、どう振り向いてもらえるかという第一声はアプリなら最初のDMのやりとりに該当するだろう。その時代でも容姿によるイケメンチェックは当然行われていた。

リアルでモテない人がマッチングアプリだから出会えるというのは幻想でしかなく、リアルでモテる人がモテるのである。

残酷だがそれが現実だ。

提供:イメージマート

今のオンラインシステムでは結婚は増えない

恋愛強者男性にとっては指一本で次々とデートのアポイントがとれるわけで、こんな効率的ツールはない。

一方、藁にもすがりたい恋愛弱者男性は、一生懸命アピールすればするほど「お断りされる自分という現実」を何度も突きつけられるわけで、地獄でしかないだろう。

本気で結婚を願う恋愛弱者女性にとっても深刻で、そうした恋愛強者男性に振り回されて、あたら貴重な時間を無駄にすることにもなりかねない。

勿論、恋愛強者ではないけれど、現状のネット婚活サービスで知り合って結婚したカップルも当然いるだろうと思う。

野田聖子前少子化対策大臣は「今はオンラインで繋がっていくことが主流、(政府も)対面に代替できるものを提供していく」などと発言したが、このネット婚活サービスにおける現状を客観的に見れば、このままでオンライン婚活がかつてのお見合いや職場縁の代替え機能を果たすことはないだろう。むしろ、単純に自力恋愛できる恋愛強者たちの活躍のフィールドが拡張したにすぎない。

これで、日本の「結婚したいけどできない不本意未婚者を救う」ことは残念ながらまず不可能と言える。

ではどうすりゃいいの?という話はまた別の機会に。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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