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「稼がないと結婚できない」と頑張って稼いだ挙句に訪れる「聞いてない」結末

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

婚姻減は若者の経済問題だけではない

「少子化の原因は婚姻減である」ということは、政府含めもう異論のない話として共有されつつあるのだが、では「なぜ婚姻が減少するのか?」についてはいろんな要因が絡み合っており、単純な話ではない。よくメディアの取材で「一言で言ってください」という記者がいるのだが、一言で言えるような簡単な話であれば問題になどなっていない。

当連載では、その多岐に渡る要因をさまざまな角度でご紹介しているが、要因のひとつには「若者の経済問題」があるのは間違いない。いわゆる「金がないから、給料があがらないから、結婚できない問題」である。

とはいえ、当然それだけが要因ではない。

未婚者が「金があれば結婚するのか」といえばそうはならない。そもそも、「全員が結婚したいと思っているわけではない」という大前提を忘れがちなのだ。

繰り返し書いているが、よくメディアが取り上げる「結婚したいが9割」という報道は正しくない。

結婚に対して前向きなのは、せいぜい男4割、女5割程度のものであり、1980年代からの40年間その割合はほぼ不動であることについては、こちらにグラフ付きで説明してあるのでご確認いただきたい。

デマではないが正しくない。「結婚したいが9割」という説のカラクリ

結婚願望と年収の関係

さて、そうした前提のファクトをふまえて、結婚したいという願望と個人の年収との関係についてみていきたい。要するに、年収の多寡によって結婚願望が男女及び年齢別に変化するのか、という点である。

「金がないから、本当は結婚したいのにできない」というのが正しいのならば、低年収ほど結婚願望が高くないとおかしい。本当にそうなのか?

「結婚するつもり・結婚したいと思っている」という層を「結婚したい層」とし、「結婚したいと今は思っていない・するつもりはない・結婚したくない・諦めた」という層を「結婚したくない層」に分けて、その差分で表したグラフが以下である。グラフの上部の伸びている場合が「結婚したい層が多い」という意味である。

(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久
(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久

これによれば、男女ともに20-30代では低年収ほど結婚願望がもっとも少なくなっている。「金がないから結婚できない」のではなく「金がないと結婚したいとすら思わない」というのが正確なところではないか。

未婚男性の「結婚したい」が「結婚したくない」を上回るのは、20代の300万円以上の年収層と30代の400万円以上の年収層となる。

以前、男性の結婚には「年収300万円の壁がある」という記事を書いたが、やはり年収によって男の結婚願望や意思は影響を受けるようである。

年収より年齢

しかし、年収によって結婚したい気持ちが変わるのは20-30代までであり、40代以上になるとほぼどの年収においても結婚には後ろ向きとなる

その傾向は女性ではより顕著である。

女性の場合は、結婚したいという気持ちは自分の年収というよりほぼ年齢によって決まると言える。40代以上では男性よりも「結婚したくない」という割合が増える。

統計上、結婚には限界年齢があり、男女とも40歳を超えての初婚は厳しくなる。もちろん40歳を超えて初婚する人がいないわけではないが、あくまでそれは例外に過ぎない。

40歳をすぎたから「もはや結婚する必要がない」と選択的非婚になった人もいるだろうし、結婚したかったのにできないまま40歳を過ぎていたという不本意未婚の人もいるだろう。

するにせよ、しないにせよ、できるにせよ、できないにせよ、男女関係なく、40歳という年齢は、年収以上に結婚の明確な分岐点であることは確かである。

写真:アフロ

願望高くても人口少ない

その上で、グラフの20-30代の推移をみていただきたいのだが、男女とも年収400-500万の層の結婚したい割合がもっとも高い。裏を返せば、結婚意欲の高いこの年収帯でのマッチング活性化が婚姻増には不可欠なものになるのだが、残念ながら現実において当該年収の20-30代未婚者人口は少ない。

2017年就業構造基本調査によれば、20-50代の未婚男性のうち年収400-500万円はたったの13%にすぎない。25-34歳のもっとも初婚件数の多いアラサー未婚男性の年齢帯においても、全国では16%、平均年収の高い東京ですら20%と、少数派である。

「高望みはしません。年収500万円くらいの普通の男でいいです」という考えが、もう「普通じゃない」件

400-500万の年収層で結婚したい願望が多くても、絶対人口が少ないのでは全体の婚姻数を底上げする力はない。

稼ぐと結婚したくなくなる

それより気になるのは、20-30代の男女とも年収に応じて結婚願望が右肩上がりに高まるわけではなく、むしろ400万円台をピークに男女ともそれ以上稼ぐと「結婚したくない」が多くなることである。

「金がないから結婚できない」という部分にだけ注目しがちだが、「金があると結婚したくなくなる」という問題も注目すべきである。

特に、女性の場合、20代においてはどの年収層でも「結婚したい」が多かったのに、50代未婚者になると、600万円以上稼ぐ女性の「結婚しくたない」割合がマックスとなる。「したくない」というと語弊がある。正しくは「しなくてもいい」と思うようになったのではないか。

若いうちは「金がないから」と結婚を後回しにして一生懸命仕事に邁進し、気が付いたら年収はあがっていたけれども40歳も超えてしまって、「結婚する必要性を失ってしまう」というジレンマがここにはある。

写真:アフロ

結婚なのか?年収なのか?

晩婚化という人もいるが、実際初婚年齢の中央値は男女とも30歳未満である(男29.8歳、女28.6歳~2019年実績)。

平均初婚年齢でみてしまうと勘違いしてしまうが、初婚する男女の半分以上は20代のうちに結婚している。つまり、結婚している人は、年収より「結婚したい気持ち」を重視して結婚しており、「金がないから結婚できない」なんて思考はそもそもないのだろう。

身も蓋もない言い方をすれば、「金がないから結婚できない」といっている人は、「金があっても結婚できない・しない・そもそもしたくない」人なのかもしれない。

実際、生涯未婚男性においてもっとも人口が多いのは年収500万円以上の正規社員である。

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結婚なのか?年収なのか?別に二択の話ではないが、少なくとも多くの人は加齢とともに「結婚したい」という気持ちがなくなっていくことは確かで、結婚したいのなら年収か考えずに若いうちに結婚を優先した方がいいだろう。

40歳過ぎても仕事を充実させることはできるが、40歳過ぎたら結婚は困難である。

とはいえ、特に男性に関しては、「結婚したいなら金を稼げ」という社会及び婚活女性からの圧があることも確かで「どうすりゃいいのよ」と言いたくなるのかもしれない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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